意見の述べ方
さて、議論とは何かをはっきりさせた所で具体論に入りましょう。まずは意見の述べ方についてです。
議論では、意見は次の順序で述べられます。
問題提起
問題に対する回答
回答に対する質問
質問に対する回答
このように質問と回答が交互に繰り返されます。多人数の議論では一つの質問に複数の人が回答することもありますし、だいぶ話が進んだ後で以前の質問に対して回答がなされることもあります。しかし時間的な要因を除いて議論の流れだけを追えば同じ流れになります。
ではそれぞれについてやり方を見ていきましょう。
問題提起の形式
議論でまず必要なのが問題提起です。これはこれから何を議論するのかを決めるものです。問題提起は一つの議論に一つだけあります。もし議論の最中に問題提起があったらそれ以降は別の議論として考えます。
問題提起で必要なのは次の内容です。
どんな問題を話し合うのか
議論の形式は何か
議論の形式というのは、討論か議決か対話かということです。討論の場合は下準備が必要なことに注意して下さい。
問題提起は客観的に答えられる問題にします。イエス/ノーで答えられる問題が一番良いでしょう。次に良いのが選択肢をいくつか出して選んでもらう形式です。選択肢を自由に出してもらう形式でもかまいません。しかし「○○について議論しましょう」という漠然とした問題提起ではいけません。これでは何を聞かれているのかわからないからです。
回答の形式
問題提起がなされたらそれについて回答をします。質問や問題提起に対する回答には次の内容が含まれていなくてはなりません。
質問の答えは何か
それはなぜか
回答には必ず理由が添えられていなくてはなりません。「なんとなく思うから」ではいけません。なぜそう思うかを聞きたいのですから。議論の場合、重要なのは答えではなく理由です。その理由を「なんとなく」ではなく自分の言葉で語って初めて意味のあるものになるのです。
回答に対する質問の形式
多くの議論(もどき)では、他人の回答には反対意見がつけられます。しかしちょっと待ってください。回答に食い違いが生じるのはほとんどの場合どちらかの思い違いによるものです。あなたは相手の意見を正確に把握していますか?
相手の意見を否定して自分の意見を述べる前に、相手に質問をして下さい。その質問には次の内容を含めます。
相手の意見のどこまでは納得できるか
相手の意見のどこからが納得できないか
それはなぜか。
何がわかれば納得できるのか。
例えばこんな風にです。
あなたの「アキレスは亀を追い越せない」という意見を読ませていただきました。「亀がもといた点にアキレスが到達する頃には、亀はさらに前に進んでいる」という意見はその通りだと思います。そして「それが無限回繰り返される」というのもわかりました。
しかし、「だからアキレスは永遠に亀を追い越せない」という意見は納得できません。なぜなら、「無限回繰り返される」からといって「永遠に」とはいえないからです。だから、これが導き出される理由を教えていただきたいと思います。
一般にはあまりなされていないのが、まず「どこまで同意できるか」を書くということです。お互いに相手の意見を全否定するのでは議論は全く前に進みません。相手の意見に対して何かを述べる場合にはまず相手の意見を部分的に肯定することが必要です。どこが同じでどこが違うかをはっきりさせるのです。
納得できる所、納得できない所を明らかにした上で、なぜ納得できないかをはっきりさせて下さい。これがないと相手は何を説明すればいいのかがわからなくなります。納得できない理由の多くは次のパターンに当てはまるでしょう。
理由が書かれていない個所がある
正しい(間違っている)かどうかわからない事項を正しい(間違っている)事として扱っている
論理展開に矛盾がある
回答で言っている事が、別の正しいとわかっている事項と矛盾する
意見に対するすべての反応は意見がよく理解できなかったから出てきたのであり、純粋に「意見をもっと良く理解したい」という動機から来ています。だから、相手がわからなかった所をもっと詳しく説明しましょう。
反論
普通は相手の意見には質問ではなく反論をするでしょう。上の項では「反論をするな」と言っているのではありません。実のところ、反論というのは質問の一形態なのです。
次の例を見てください。
あなたの「アキレスは亀を追い越せない」という意見を読ませていただきました。「亀がもといた点にアキレスが到達する頃には、亀はさらに前に進んでいる」という意見はその通りだと思います。そして「それが無限回繰り返される」というのもわかりました。
しかし、「だからアキレスは永遠に亀を追い越せない」という結論を導き出すことはできません。なぜなら、「無限回繰り返される」からといって「永遠に」とはいえないからです。
実際には、もといた点に到達する時間は繰り返されるごとに等比級数的に減少します。そして(比が1に満たない)等比級数は無限個足し合わせても結果は有限です。だからアキレスは(亀より速い限り)有限時間で亀のいるところに到達できるのです。
これは「アキレスは永遠に亀を追い越せない」という意見に対する反論です。この反論の前半は、上の質問から最後の一文を取っただけのものです。そして後半は「無限回繰り返される事すなわち永遠なのだろうか?」という問いに対して「そうではない」という回答を示しています。
つまり、反論というのは単に自分で質問をして自分でそれに答えたに過ぎないのです。本来なら質問を一つの記事として書いて、それへの返答という形で自分で答えを書くのがわかりやすいでしょう。しかしそれは掲示板の形式によってはかえって見づらい事もありますから、意見として書くときは一緒でかまいません。しかし、少なくとも解釈する時は別のものとして考えましょう。
相手の回答は参考情報ですから、最初は読まなくてもかまいません。相手の質問に対してまず自分なりに答え、その後で(もしくは答えられなかった時に)相手の回答を読むのです。時には質問自体が的外れな事もあります。その時は質問に対して質問をして下さい。そして回答はその質問が有効になるまで読まなくてかまいません。反論とはこのような仕組みのものですから、反論をする側も質問と回答を明確に分けて、回答は読まれないかもしれないものとして扱って下さい。
このように、「反論」という形で質問とその回答を同時に書くのは一つデメリットがあります。質問そのものが勘違いだったり不適切だったりして、その質問に対する回答が無駄になってしまうかもしれないことです。その代わりに議論が速く進むというメリットもあります。どちらが得かは参加者やその場の状況によります。
一つ注意してほしいのは、先程の「質問」の項で挙げた例は反論ではないということです。「無限回繰り返されるという事から永遠という事は言えない」という事実をもって、元の意見を間違っているとは言えないのです。せいぜい「これだけでは正しいとも間違っているとも言えない」としか言えません。例で挙げたように、「この場合は無限回繰り返されても結果は有限だ」という事を示して初めて反論になります。
質問に対する質問の形式
時には、された質問の意味がわからない事や、意味が通じない事があります。その時は質問に対して質問しましょう。「この質問のこの部分はどういう意味ですか?」と質問するのです。質問の言葉の意味が本当にわからない時ももちろんありますが、多くの場合は理由として示された論理が納得できない事によります。
それ以外は「回答に対する質問」と同じです。
訂正/撤回
自分の意見が自分でも間違っていると思ったら、自分の意見を訂正あるいは撤回します。これには次の内容を含めます。
自分のどの意見のどこが間違っていたか
その理由
これはあくまで「少なくとも私はこの意見を正しいと思っていたけれど、もうこの意見を正しいとは思いません」という宣言です。これに対して他の誰かが「いやそんなことはない。この意見は間違ってなんかいない」と言うこともでき、その時にはその意見は議論の場に残ります。意見は自分のものではなく皆のものですから、自分一人の判断で勝手に撤回はできないのです。
訂正や撤回は単に手続き上の問題です。誰かがある意見の矛盾を指摘した時、皆は「この矛盾はどうやって解決されるのだろう?」とワクワクしながら答を待っています。その意見の持ち主もその矛盾を解決できない時には、皆が待ちぼうけにならないように訂正や撤回をするのです。
ある意見に対して質問が出た時、それに対して回答も訂正も撤回もしないのなら、元の意見は基本的に納得できないものとして扱われます。納得できない意見は納得する理由が現れるまでは無視されます。つまり、質問に対して回答がない時は自動的に元の意見を撤回したものとみなされるわけです。撤回発言は単に回答がないかどうか待つ時間を短縮するためだけのものです。
要約
相手の意見を自分が理解できたと感じたら、相手の意見の要約をしましょう。その意見を自分の言葉で語るのです。それまでの議論から、元の発言がいったい何を言いたかったのかを自分なりに書いてみるのです。元発言と違って議論の経緯がありますから、元の発言で言い足りなかった所を書き加えてもっとわかりやすい文が書けるはずです。
要約を書いて出してみたら相手が「私の言いたかった事と違う」と言ってくるかもしれません。その時は第二ラウンドの始まりです。今度は要約に対して相手が質問をする番です。そして質問が一通り済んだら今度は相手がその議論の要約をします。そうやって双方が納得できる要約が出来上がったらそれは議論の成果です。大切に保管しておきましょう。
これは議論の結果の要約であり、元発言の要約でも議論の経緯の要約でもありません。だから元発言と言っている事が違っていたり、議論の経緯が正確に盛り込まれていなかったりしてもいいのです。「この議論の結果、こういう事が言えるということがわかった」というのを書けばいいのです。
要約は必須ではありませんが、非常に便利なものです。双方の理解のずれを直すのに役立ちますし、議論の成果として参加者以外の人に見てもらう事もできます。特に途中から議論に参加する人にとっては非常に役に立ちます。積極的に活用しましょう。
まとめ
意見には基本的に問題提起、回答、質問の3種類があります。最初に問題提起があり、回答、質問の順に意見が出されます。それぞれの意見には決められた形式があります。そして反論というのは質問とそれへの回答が複合したものです。
相手の意見に対して「それは間違いだ」と言う事はできない事に注意して下さい。議論では「それは間違いではありませんか?」としか言えません。間違いを認めるのは本人にしかできない事です。議論では相手の意見は間違いではなく何かが言い足りないだけだと仮定しなくてはなりません。そして何が言い足りないのかを探るのです。
訂正/撤回発言は議論をスムーズに進めるために使われるものです。議論のルールとしては、ある回答に対する質問に返事がない場合、その回答は自動的に撤回されたものとして扱われます。訂正/撤回発言はその質問に回答する意思がない事を明確にしただけのことです。
ある意見に納得ができたら要約を作りましょう。そしてその要約を皆が納得できたら、それを文書保管庫に大切にしまっておきましょう。途中から議論に参加する人が便利に使うことができます。