ディックらしさがモロに現われた作品。プレコグ(予知能力者)が生み出す可能性と現実の曖昧さ、そしてドラッグがもたらす妄想と現実の曖昧さ。「これは本当に現実なのだろうか」と常に問いかけていないといけないかわいそうな主人公こそディックSFの特徴です。そしてこの作品では、ディックSF後期にかけて登場する宗教性も帯びています。
「プレコグ」「ドラッグ」「神」「現実にしのび寄る非現実」「真実のように見える嘘」などなど、ディック的テーマの集大成です。どこをとってもディックらしくない部分がない、そういう意味で非常に濃い一冊。読んでおいて損はありません。
この話は短編「パーキーパットの日々」も下敷きとして登場します。そちらも読んでおくとより楽しみが増すでしょう。