シナリオの目的別分類
次に、シナリオの目的によってタイプ別分類と分析をする。
到達型シナリオ
到達型シナリオとは「ある場所へ行くのが目的」というシナリオである。多く の場合、ボスのいる部屋へ行くのが目的である。ボスがそのまま目的であること もあれば、そこにある何かが目的の場合もある。
到達型シナリオはわかりやすくて設定しやすい反面、変化に乏しく単調になり やすい、注意を要するシナリオである。なぜ単調になりやすいかというと、目的 を達成するための方法が一通りしかないからである。そして、それは単に目の前 の敵を倒して進んでいくだけで達成されてしまう。コメディやギャグシナリオな らこれでもなんとでもなるが、シリアスなシナリオでは一考の余地がある。
まず考えてほしいのは「4人で行く必要性」である。途中の敵が強いからなのか、 それとも行った先で4人でないと出来ない作業があるのか、それとも単に皆で仕 事した方が楽だからなのか。これをはっきりさせておかないと、「俺は仲間など いらん」と一人が抜け出したときに修復するすべがない。
「途中の敵が強い」のが理由なら、本来は戦闘に苦労するような低レベルキャラ で行くべきである。「素手」「マグ外し」などをしても、それは単なる気休めで、 高レベルキャラでは危機的状況になることはまずない。しかし、実用上の問題( 低レベルキャラを持っていない場合)もあるので、この場合は「サクサク倒して いるけど実際は苦労しているつもりだ」ということを事前に取り決めておく必要 がある。でないと、各人の戦闘に対する認識に食い違いが出てしまう。
結局のところ、「大丈夫か?」と「先に行こう」以外の発言をする必然性はシナ リオにはない。それをどう料理するかは各プレイヤーの腕にかかっている。見た 目とは裏腹に、かなりの腕がプレイヤーに要求されるパターンである。
到達型シナリオのエッセンスは「努力と勝利」である。少年マンガの王道であり、 冒険物の王道である。少年マンガのようなノリで行けば面白い話になるだろう。
探索型シナリオ
探索型シナリオとは「○○を探す」という形式のシナリオである。「○○」に 入るものを変えるだけで、真面目なシナリオからお遊びシナリオにまで変化しや すい、非常に融通の効くシナリオパターンである。
探索型シナリオの特徴は、「目的のものがどこにあるか分からない」ところに ある[1]。つまり、道の途中でもいちいち探さなくてはならない し、理屈の上ではすべての部屋を回っていかなくてはならない。
「目的のものがどこにあるか分からない」とは言っても、まったく手がかりな しでは探しようがない。いくつか手がかりになるものを用意すべきである。そう すれば、プレイ中に「もののありかを推測する」事ができ、幅が広がる。また、 途中に手がかりを少しずつ「発見」するのもよい。このように、プレイ中で話を 広げやすいのがこの型の特徴である。
この形のシナリオでは、もののありかを特定した瞬間、探索型シナリオから到 達型シナリオに移行し、探索型シナリオの特徴がすべてなくなってしまう事に注 意すべきである。キャラが推測している時点では問題はないが、外部要因(メッ セージボックスが落ちていたとか)には注意すべきだ。これはパズルを解いてい る途中で答を見せるのに等しい行為である。
探索型シナリオの一種に「捜索」がある。捜索の方が相手が人間である分だけ推 測の面白味は増すが、人間の生死が関わる分だけ重くなりやすい。緊迫したムー ドになりやすく、そうすると話半分で急がされやすい。しかし、本当は孫子も言 うように「状況の把握と推測」、つまり情報が一番重要なのである。会話を楽し むためには無闇に急がないようにすべきだ。
「宝探し」もおなじみの探索テーマである。こちらは明るく希望にあふれ、楽し いセッションになることだろう。宝探しの特徴は仕事の成功がキャラの利益に直 結することだ。それに「一獲千金」要素も加えればなお盛り上がる。ぜひ見つけ もしないお宝の配分を巡って一悶着起こそう。
もし探索を第三者の依頼にするなら、「見つからなかったらどうするか」を事前 に決めておくべきである。「見つからなかったとしても依頼料は全額払う」とい うような気前のいい依頼者は、サボり癖のあるハンターズ[2]にいいようにだまされるのがオチだ。依頼者で もあるシナリオ提案者がしっかりと理由を考えておこう。
探索シナリオのエッセンスは「推測」である。そこに意外性が組み込めるともっ といい。「なるほど! あれはこういう意味だったのか!」ってやつだ。単に目的を 設定するだけでも楽しめるし、それにギミックを追加すればもっと楽しめる、お 得なパターンである。
脱出型シナリオ
「とにかくパイオニア2に帰るのが目的」なシナリオをここでは脱出型シナリオ と呼ぶ。よくある設定では「転送機の故障」あるいは「森で迷子」が挙げられる。
もちろん、このセッションではリューカー/テレパイプは使用禁止である。何ら かの理由をつけて使えないことにしてもいいし[3]、そんなものは初めからなかったことに してもいい。とにかくこの2つはロールプレイの上では問題を引き起こしやすい。
脱出型シナリオでも、目的の場所がわかっているなら到達型シナリオになって しまうことに注意せよ。「とにかくここにいても仕方がないから先に行く」とい うのと「先に行けば確実に帰れる」というのは大きな違いである。「帰り道を探 す」という意味では探索型シナリオに非常に近い。
脱出型シナリオの特徴は「自分の生死に関わる」という事と「自分の置かれて いる状況がよくわからない(ことが多い)」という事である。そのため、重いテー マを含めることが意外と簡単にできる。極限状態に置かれた人の行動を演出する にはもってこいのシナリオだ。
しかし、そのためには、状況のシビアさの認識を統一しておく必要がある。片 方のプレイヤーが生死に関わる状況だと思っていても、もう片方がせいぜい道に 迷ったくらいにしか思っていなかったら、話に食い違いが出てきてしまう。もち ろん、「プレイヤーの認識」と「キャラの認識」は別なので、プレイヤーは生死 に関わると認識していてもキャラはのん気にしているかもしれない。それは問題 ではない。
脱出型シナリオのテーマは「極限状態の人間模様」である。筆者は即座に映画 「ポセイドン・アドベンチャー」を思い出したが、あんな感動的な人間模様が描 けるといい。
演技型シナリオ
「ロールプレイの中でキャラが演技をする」という面白い趣向のシナリオがこ れだ。「映画撮影」「ビデオ撮影」などの名目でラグオル地表に降りる、あるい は「他人のふりをする」という目的を持ったシナリオである。ただし、いわゆる 「パラレルワールド的シナリオ」はここには含めない。
ロールプレイヤーは演技好きなので、こうしたシナリオのノリは大好きな人が 多いだろう。ノリノリで楽しくプレイできるシナリオである。
この形のシナリオで特に重要視したいのが「キャラの演技とそうでない期間の 切り替わり」である。映画撮影の独特の緊張間が抜ける所がうまく表現できると いい。演技とそうでない時の切り替えのギャップが大きいほど面白味が増す。な ので、シナリオ中に「演技を要求する期間」と「そうでない期間」を設定すると いいだろう。
ただ、中には演技に乗ってこない、あるいは設定上乗れないキャラもいるため、 事前確認が必要である。また、持ちキャラの設定で動かすだけで精一杯という人 にもお勧めできない。
ある程度ロールプレイをやってコツをつかんだ人ならば、ロールプレイの楽し さをキャラを通じて再確認できる面白いシナリオである。
試験型シナリオ
「ハンターズ試験」を課せらるタイプのシナリオがこれだ。「学園もの」で行 われるのが主流だが、そうでない場合もある[4]。
試験の性格によってカラーは様々だが、「生命の危険にさらされることはない」 というのと「あまりうれしくない」というのはキャラの共通認識だろう。もちろ ん「試験の途中で事故があって...」というのはアリだが、この場合は途中でシ ナリオのパターンが変わるタイプだ。
試験型シナリオの場合は、良くも悪くも「しょせん試験」であるという認識が 特徴である。そして「試す人がいる」というのも特徴だ。「試験に落第」という ことをどの位の重要度にとるかは各キャラの自由だが、「怪我人の救出」や「自 分の生命の危機」ほどに危機感を覚えられるはずはない。その意味では、キャラ の心にも余裕があり、のん気な発言がしやすい環境にある。そして、非難の対象 は「試験をする人」に向けられる。
緊張感のあるシナリオにはなり得ないが、各キャラの態度の違いも出やすく、 互いに絡みやすいシナリオになるだろう。
対立型シナリオ
プレイ中のキャラの目的や利害が一致しないのがこのタイプである。「別々の 依頼を受けてたまたま同じ場所に居合わせた」というのが多いパターンだが、 「対抗戦」のように初めから利害の衝突が設定されることもある。
この型のシナリオの場合、「キャラ同士の協力体制がはじめは出来ていない」 というのが特徴である。キャラ同士の駆け引きが重要視されるわけである。これ は他のパターンにない特徴である。
この型のシナリオでは、それぞれのキャラの目的の設定のさじ加減が重要であ る。「利害の衝突が起こる」ように設定しなくては意味がないが、かと言って 「一人で行った方がまし」という状況でも困る。
「依頼が個々になされている」という場合には特に注意が必要である。「もと もと一人で遂行できるはずの依頼である」からだ。だから、キャラ同士の腹の探 り合いをするよりは一人でやった方が早いという風になりがちなのである。特に 独立心の強いキャラには注意すべきである。彼が一人で行ってしまった場合に引 き戻すすべはない。
「対抗戦」のように利害の対立が明示的に設定された場合にも、できるだけば らばらにならないでお互いが絡むように注意が必要だ。「一応仲間だけどしょっ ちゅう喧嘩ばっかりしている」という設定の方が無難だろう。例えば「敵を何匹 倒したかで晩御飯を賭けている」といったような。それなら、いがみ合っていて も一緒にいる理由がつく。
対立型のシナリオは慣れないと難しいが、「対人ゲーム」の楽しさを満喫でき るので、「つかず離れず」のさじ加減を実現するために綿密にシナリオを考えた 上で、ぜひ挑戦してほしい。