シナリオ大研究

ロールプレイにおいてシナリオとは何か、そしてシナリオの分析を通じて、実際にシナリオを作る上で考慮すべき点を考えてみましょう。

シナリオの作り方

これまでに見てきた事柄を考えれば、シナリオを作るのは簡単だ。雰囲気をどれ にするのか決め、そしてシナリオのパターンから一つを選び、問題を起こしそう な設定を見直して公式見解を決めればよい。その後で、雰囲気に合わせて適当に 細かい設定を考えていけばよい。

ここでは、シナリオを実際に作る上で気をつけたい事柄について述べる。

シナリオのイメージ

細かい設定を考えにくいという場合は、既存の小説やマンガ、映画などから雰囲 気を取ってくるとよい。例えば「指輪物語」「ゲド戦記」「エルリックサーガ」 などなど[1]。それぞれ独特の雰囲気があり、こう いった雰囲気でキャラがどう動くかがある程度想像つくだろう。そして、そういっ た雰囲気にどんな小道具が似合うかも即座に出てくるに違いない。

例えば「ドラゴンを倒してきて下さい」という話でも、「町の人が困ってるんで す。お願いします。」「よっしゃ。俺たちにまかせとけ」「そんなに安請合いし ちゃっていいの?」という調子だったり、「王の名において汝らに命ずる。邪悪 なドラゴンを退治して、この地に再び平和を蘇えらせよ」「かしこまりました。 我が力をこの国のために存分に奮いましょうぞ」という調子だったり、同じ話で も持っているイメージで相当差ができてくる。

こうしたイメージを持っていれば小道具の配置も楽だ。前者のイメージなら報酬 を値切ろうとするかもしれないし、道中も半分観光気分でいるかもしれない。後 者だったら古の預言書とか古い言い伝えが出てくるかもしれない。イメージが決 まればそれにありがちな小道具はすぐ思いつくだろう。

ただ、とってきた小説の設定そのままになってしまうのは避けたい。「指輪物語 風」といっても、実際に指輪を捨てに行くシナリオにする必要はないのだ。ほん わかと漂うイメージを感じとって、自分でアレンジしよう。骨組みは作っておい て味付けだけに利用するのをお勧めする。

だが、キャラの中には「こういう雰囲気でないとダメ」という人もいるから気を つけたい。集まったキャラを見て即座に作るか、あるいはいくつかのストックを 持っておくとよい。

一本道シナリオ

RPGのシナリオに対する悪口の一つとして「一本道シナリオ」というのがある。 これは「単に目の前の敵を倒して前に進む以外にすることがないシナリオ」のこ とである。実際はコンピュータRPGのほとんどがこの形式であり、残念ながら TRPGの多くのゲームマスターもこれを見習ってしまっている。この形式のシナリ オでは、キャラの行動はシナリオに影響を与えず、単に無言で剣を振っていれば それですんでしまう。

コンピュータRPGやリプレイ小説しか触れていないと、一本道でないシナリオと いうのが想像できないかもしれない。優れた(海外の)RPGのシナリオ集では、話 と呼べるようなものは「泥棒退治を依頼された」というような導入部しかなく、 あとは泥棒の人相や泥棒団アジトの地図など、状況が詳しく述べられてい るだけである。ストーリーはプレイヤーが作るのであって、マスターが作るので はない。泥棒退治に剣で正面から向かっていくのか、それとも留守のうちにこっ そりアジトに侵入するのかはプレイヤーにまかされている。マスターはプレイヤー の決断に従ってそこから起きる結果を演繹するだけなのだ。これが本来の「RPG」 である。

実際にはPSOもご多分に漏れず一本道シナリオであるため、それを崩すのは並大 抵のことではできない。しかし、プレイヤーにできるだけ選択肢を与えるように 努力すべきだ。自分のシナリオについて、プレイヤーが選択できることは何かを 常に考え、話が違う展開になる可能性を常に残しておくのがよい。

プロット

とはいっても、現実には、骨となる話の筋、すなわち「プロット」を予め用意 しておくのが普通だ。物語を作る上でプロットはなくてはならないものだ。逆 に、プロットだけが物語を作る上で重要なのである。「シナリオは小説ではな い」と筆者はあちこちで力説しているが、少なくとも「小説未満のもの」であっ てはいけない。「小説」は物語を構築するというということにかけては大先輩 なのだから、少しは見習うべきである。

さて、繰り返すが、小説で一番大事なのは「プロット」である。文体でもキャ ラクターでもない。プロットである。よく「起承転結」と言われるあれだ。多 少文章が下手な素人のインターネット上のページでも、その内容が面白ければ 面白く読める。逆に、ただ敵を倒してはい終わりという面白くもなんともない プロットは、どんなにすごい小説家でも面白く書くことはできない。 [2]

さて、プロットの基本は起承転結である。これはよく言われていることながら、 きちんと意味を理解している人は少ないのではなかろうか。ここでもう一度お さらいしてみよう。

主人公の起かれている状況や周囲の状況を説明し、物語の発端を提示する。
「起」で提示した状況から当然の結果として起こる数々の出来事を提示する。
最初には思いもよらないような出来事が起こる。
主人公は「転」で起こった思いがけない出来事に対して自分なりの「結論」を 導き出し、出来事にうまく対処する。

こうした起承転結をはっきりつけるのは非常に難しい。一番覚えておいてほし いのは、この「起承転結をつけるのは難しい」という事実である。安易に「起 承転結をつけた気になる」のが一番よくない。

例えば、最悪なのが「進めていくうちに状況の全貌が明らかになってくる」 というプロットだ。ラグオルで調査を続けていくうちに、古代遺跡の地下深く に眠った驚くべき秘密が明らかになってくるというような話、あちこちで見る のではないだろうか?これがどうして最悪なのかわかるだろうか?上で述べた ように、状況を説明するのは「起」の段階だ。つまり、「起承転結」の「起」 だけで小説が終わってしまっているのがこのパターンだ。

次に多いのが、「承」のないパターンだ。ファンタジーに多い。「起転転転」 という構成で、脈絡のない出来事が次々に起こり、起こりっぱなしで終わって しまう。上で述べた「世界の秘密を解き明かす」パターンと組み合わせた「起 転転起」パターンも多い。 [3]

「承」の段階は軽視される傾向にある。ありきたりの出来事がずっと続けて起 きる「起承承承」パターンはつまらないように思えるが、話に何の脈絡もない 「起転転転」パターンよりはずっとましだ。当然起こるであろう出来事、つま り「承」をきちんと描くためには、相手にもそれが当然だと思わせられなくて はいけない。つまり、「起」での状況説明がしっかりできていないといけない のである。これを端折ると、読者がついていけない独りよがりの小説になって しまう。

また、「結」を描くためには、主人公の考え、ひいては自分の考えがまとまっ ていなくてはならない。多くの場合、「転」で提示された事件を解決するため には葛藤がある。仲間を取るか出世を取るか、あるいは義理を取るか人情を取 るか、そういった葛藤の中で、主人公が自分で決断を下してある行動を取るの が「結」だ。素晴しい物語には必ず心に残る「主人公の決断」がある [4]

つまり、プロットについてよく言われる「起承転結」をつけるのは案外難しく、 特に出来てないのが「承」と「結」だ。ロールプレイのシナリオでは、これら はプレイヤーが各自で作っていくものである。逆に、「起」「転」は複数の人 がてんでばらばらに出すと収拾がつかなくなるので、シナリオ提案者が出すの がよい。

シナリオ提案者としては、自分のシナリオに対して自分なりに「承」と「結」 をまずつけてみる。自分でもそれがうまくいかないようなら、他人にできるわ けがない。「承」がなかなか考えつかないのは説明不足、あるいは「起」を結 末に持ってきているせいである。また「結」で当たり前の結論しか出てこない のは葛藤あるいは障害を「転」で用意できていないせいである。

どうだろう?起承転結をつける難しさがわかってもらえただろうか?難しいと 思われる人には、ます「起承」だけを考えるのをお勧めする。少なくとも、面 白いプロットの中間までを味わうことができる。


  1. 「フォーチュンクエスト」「バスタード」「スレイヤーズ」などを挙げた方がわかりやすいだろうか ↩︎

  2. これが如実に現れるのがマンガである。本当に面白いマンガは絵の上手い下手はあまり関係ない。マンガに必要なのはアイデアとストーリーだからである。しかし、世の中には絵がうまいからマンガを描こうという輩がたくさんいるものだから、絵は綺麗だけどなんの面白味もないマンガが世に溢れることになる。 ↩︎

  3. おいおい、派手に転がったあとまた戻るな! ↩︎

  4. と書いて、筆者は「となりのトトロ」のラストシーンでのめいの「これをお母さんに届ける!」というシーンを思い出したが、皆さんはどうだろうか? ↩︎