晩餐
ドラ: どの生き物も肉が固そうだなぁ… あ、カニだぁ。それに大トカゲ。大変だなぁ
ドラは倒した敵の肉片を拾い集めていた。包丁で肉を切り取って、一つ一つ箱に詰めている。背骨と胸骨があらわになる。
ガートはドラの手際を見ていた。特に目まぐるしく動く包丁を。動く物は目を引きつける何かがある。不意に自分も何かがしたくなった。
ガート: うーん、ドラ。僕に出来ることなら手伝うよ
ドラ: あ、それじゃあ、僕が言った肉片を集めてください!
実際には、この仕事はガートに出来るようなものではない。でも、ドラは、たとえそれが二度手間になろうとも、ガートに手伝って欲しかった。
一行は洞窟の奥に大きなゲートを見つけた。
ラベンダー: やっと目的地ですわ!
ラベンダーは額の汗を拭った。鎌の柄でトントンと地面を叩く。ふーっと大きく深呼吸をした。
ナリ: 結局何を探してたんだい?話せるところだけでいいから教えてくれないかな
ラベンダー: ある生物の肉片の採取、とだけ申しておきますわ
ドラ: じゃ、僕と一緒だ! なにか珍味ですか?
ラベンダーはふふふと笑って、ゲートに進み出た。
ラベンダー: いえ。あるウィルスの抗体…って、まあそんな話ですわ
ナリ: 待ってくれよ。もう少しついていかせてくれ。まだ花のハの字も手に入れていないんだ。
ドラ: 僕もラベンダーさんの言う珍味が揃ってません! 僕は行きますよ!
みんな行くのか…。ガートには行く理由がなかった。何の目的もなく、凶暴なモンスターのいる所へなど……でも、今までもそうだったじゃないか。
ガート: 僕は行くよ。たとえその先が地獄でも
ゲートの先、そこは巨大な地下水路だった。そして、そこに巣喰っていたのは、巨大な海老だった。長い触手が暗緑色の水の中でのたうつ。彼らは、水路を流れる筏の上にいた。
戦いは壮絶を極めた。ラフォイエ、ラフォイエ、そして振り降ろされる鎌、鎌、鎌。敵の一撃は強烈で、一発で目の前が真っ暗になり、二発でその場にくずおれる。放たれる礫は腹を直撃し、伸びる触手は地面に突き刺さる。敵の攻撃を巧みにかわしながら、それぞれの方法でダメージを叩き込む。
さすがの猛攻撃に、敵が目に見えて弱ってきた。動きが緩慢だ。触手は投げ出されている。もはやそれは脅威ではない。ドラは武器をしまうと、フライパンに持ち換えた。
ナリは、敵の方を向きながらも、壁の白いしみに気を取られていた。なんだろう、あれは?筏が流されるにつれて、鮮明に見えるようになってきた。あれは、花だ。こんなところに。ようやく見つけた。
ドラ: えへへ…いっぱいとれたぞ。ホラ、見てください
ラベンダー: あ、言い忘れていましたが…今の生物、毒というか、ウィルスを持ってますから、お気をつけあそばせ
ウィルスという言葉を聞いて、ナリは伸ばした手をひっこめた。じゃあ、まずいかな、これも。苦労してここまでやってきた成果とはいえ、危険なものを贈り物にはできない。写真だけで我慢しよう。
ラベンダー: それでは失礼しますね。大急ぎで届けてくれと頼まれましたもので。
ラベンダーは例の生物の肉片をシャーレに収めると、冷凍機付きの保存箱に収め、そそくさと街への転送ゲートに乗った。
ドラ: え?もう行っちゃうんですか?せっかく料理をご馳走しようかと…
残念そうにドラは言って、ガートの方を見た。ガートは奥に伸びる水路を眺めていた。
ドラ: ガートさんは僕の料理、食べてくれますよね?海老、カニ、クラゲ…海の幸満載です。
ガート: いや、僕は…あ、あぁ…
ガートは乗り気ではなかった。なぜかは分からないが、一人になりたかったのだ。しかし、断わることもできなかった。第一理由がない。それに、断わるというのはそれでまた気力のいる仕事なのである。ドラはあいまいな返事を終わりまで聞かないうちに、ガートの右手のひじから先を脇に抱え込むと、そのまますたすたと歩いていった。
ドラ: ささ、ハッピーさんの家はこっちです
ガート: あ、ああ…わかった、わかったから、あまり強く引っ張らないでくれ
ガートは、自分を無理やり引っ張っていってくれる人がいることをうれしく思った。
(おわり)