戦闘
目の前にエビルシャークの鼻のない顔が迫ってくる。魚を思わせる顔だ。口には意外に小さな歯がびっしりついている。真正面から見るとどことなくユーモラスですらある。しかし、こいつの凶器は手の鎌である。研ぎ澄まされたその刃を見ると、とても以前のような感想は持てない。これが力一杯振り降ろされるところは想像すらしたくない。
ガートは銃を構えると、狙いをつけて続けざまに3発撃った。もちろんそれではまだ倒れない。迫ってくる敵に背中を向け、一定の距離を保つ。そしてまた振り向いて3発。こうした単調な作業を繰り返す。ミスは死につながる。ドラも同じ戦法のようだ。楽はできない。他の全てを忘れる緊張の一瞬。
ガートは地面に膝をつくと、そのまま座りこんだ。もちろん、敵はすべて倒れている。彼は手をつくと、しばらく地面を見つめていた。そして、ドラがこちらを見ているのに気がつくと、あわてて立ち上がった。
ドラ: さっきの方々とご一緒した方が良くはありませんか?
ガート: そのようだね。少なくとも後をついていくことにしよう。そうすれば楽できる。
実は、ガートは帰りたい気分だった。疲れた。薬では体中に回ったアルコールに完全に対処できない。そもそもここに来たのが間違いだったか?家でじっとしていればよかっただろうか。
ドラの当然ともいえる質問が、ガートをまた打ちのめした。
ドラ: そういえば、ガートさんはなにが目的なんです?
ガート: 僕?言えないよ、恥ずかしくて
ドラ: ‥恥ずかしい?
ガート: い、いや、なんでもない。人に言えないような用事なのさ。
ガートは、正直に言う気はなかった。いったいどこまで話せばいいというのだ?やっぱりここに来たのは間違いだった。ドラに対する感情が、彼をここまで引きずってきてしまったのだ。
彼はさっきドラに何を言ったかを思い出そうとした。そして、その言葉を自分にも投げかけた。投げかけた自分は満足だった。そして投げかけられた自分はどうだろうか。
幸い、ドラはこれ以上追及しなかった。それどころか、ガートが目的を言わないことを責めすらしなかった。もし、この時点でドラがガートを責めていれば、ガートは耐え切れなくなって帰っていったかもしれない。どちらの方が良かったのか、それは今となっては判断することはできない。
ガート: とにかく、二人を探そう
ガートはそう言った。楽もできるし、環境が変われば気も紛れるだろう。もしかしたら四人で楽しく行けるかもしれない。彼はさっきの二人に無性に会いたくなった。若い女性と小柄なキャスト。悪い相手ではない。少なくとも不精髭を生やした軍人どもに比べれば。
ほどなく、怪物達がすべて倒されている部屋を見つけた。例の二人に違いない。相当の数だ。鋭利な刃物で一撃のうちに屠られている。かなりの腕なのだろう。
ガート: あの二人はかなり強いみたいだ。それに急いでいる…。これはマズいぞ
ドラ: どうしてですか?
ガート: 強い人がわざわざ出向いているということは、何か重大な出来事に違いない。それに急いでいるということは、今にも何かが起こるのかもしれない。どちらにしろヤバいな
自分が言った一言で、今までガートが二人に持っていたイメージは変わってしまった。論理的帰結は説得力がある。二人に会いたい気持ちは瞬く間にどこかへ行ってしまった。あるのは……恐怖。
敵のいない部屋を駆け抜けると、遠くの方で人の話し声がする。どうやら、例の二人との遭遇の瞬間がやってきたようだ。