失意
ガート: あぁ、僕って未熟だなぁ
ガートランドは目を覚ましてもまだこう考えていた。寝そべっていたソファから身を起こす。仕立てのよいカジュアルスーツが皺だらけだ。目の前のテーブルには、空になったウィスキーのボトルと倒れたコップが一つ、そして今やすっかり水になってしまった氷入れ。
頭がぼうっとする。思考がまとまらない。もちろん睡眠不足のせいではない。ソファの上とはいえ、眠ってからもう8時間が経過している。一日も、始まりの時刻をとっくに過ぎて、既に盛りを越えてしまっていた。彼は立ち上がると、ゆっくりとした足取りで流し台に向かった。
水を一口、二口、そして一気に飲み干した。さらに、二日酔いの薬とともにもう一杯。薬が効きはじめるまでは時間がかかる。ゆっくりとソファに戻ると、散らかったテーブルの上を片付け始めた。
テーブルの上にはマッチ箱が置かれていた。「飲み喰い処 魚河岸一丁目」。彼は箱の表と裏をひっくり返しながら3回ずつ見たあと、少しためらい、それをそのままゴミ箱に放り込んだ。
ガート: 落ち着いた、しっかりした子だったなぁ
「子」というのは失礼にあたるだろう。昨日会ったのは、若くして社会的にも成功した、立派な女性だった。和食を好み、休日には美術館や博物館を巡り、公園を散策する。そういう彼女には、そこいらの女の子にない何かがあった。
ただ、彼がそれに追い付けなかった。ブランド物のアウトレットモール、ジェットコースターと観覧車、映画館、そしてシャンデリアの下がったレストランでのディナー。そして、つかの間の豪華なひとときの後にはファストフードとインスタント食品。彼の行動範囲は、彼女の行動範囲とはまるで違っていた。彼は、食事の後、彼女が気に入るような行き先を思いつけなかった。そしてそのまま別れた。連絡先すら教えてもらえずに。
ガート: よし、本当に素敵な場所を探しに行こう
彼はスーツを床に脱ぎ捨て、ハンターズの服に着替えた。行き先は洞窟だ。そこには人間の手が入っていない自然の姿がある。ある時は危険、ある時は驚異、そして美。彼女と一緒に行ってみたかったなぁ...。今となってはもう手遅れだが、次のチャンスは逃がさない。まだ見ぬ次の相手が満足できるような、そんな場所を絶対に見つけてやる。
頭もすっきりしてきた。気持ちの切り替えもできた。彼は装備をもう一度点検すると、自分の部屋を後にした。残念なことに、彼は失恋には慣れている。