建物へ
なつめがふと後ろを振り返ると, そこには茂みにちょこんと黄色いフォトンの光が突き出て見えた.
なつめ: あっ!! 元締め, なんか変な黄色い物が見えるよ
アスタシア: ふふふ
ひかりの方からは, なつめが自分の方を指差しているのが見えた. はっと気がついて槍を引っこめる.
ひかり: 危ない危ない
なつめ: 見えなくなったよ
自分が槍を引っこめたその時, なつめがすぐ隣のアスタシアとひそひそ声で話しかけるのが見えた.
ひかり: まさか,さっきから……くすん, 気をつけなきゃ.
3人で相談している所を, ひかりは窮屈な態勢でじっと見ていた.
ひかり: 早く移動しないのかなあ. 雨がいたいよお
なつめ: 入口どこ?
ゼロ: こっちこっち. 確か, ここに転送機が……
ゼロが示す方へ行ってみると, 空き地の隅にぽつんと転送ゲートがあった.
アスタシア: これね
ゼロ: これこれ, これでひとっとび〜
3人が転送機に飛び乗るのを見て, ひかりはおそるおそる近付いた.
ひかり: ふむふむ……あ, やたあ, これで行けそう
転送された先はドームの前だった. ひかりが到着すると, 3人が猛獣たちを退治している最中だった.
ひかり: わっ! びっくりしたあ
なつめ: あれ?
ゼロ: ああ〜〜ひかりちゃんだぁ
ひかり: またあったねえ
なつめ: 偶然だね
猛獣を退治し終えて, 4人は一ヶ所に集まった.
アスタシア: あら,ひかりちゃん
ひかり: えへへ, ひかりもやっと目的場所に来たんだよ
なつめ: それはよかったね〜〜
アスタシア: ひかりちゃんの目的地もここだったのね
ひかり: もうお仕事終わってたのかと思ったよぉ
アスタシア: それがまだ片付かないのよ
ひかり: 今回は大変なんだねえ
アスタシア: うん, そうそう. すっごく大変なのよ. ひかりちゃんはちゃんと一人で来られたの?
ひかりは答につまった.
ひかり: え……あ……うん, も……もちろんだよぉ
アスタシア: そう. それはよかったわ. その調子でがんばってね
ひかり: ひかりもハンターズになるんだもん. これくらい楽勝だよお
ひかりの顔が明るくなった.
なつめ: そうでなくっちゃね
アスタシア: ひかりちゃんならきっとできるわよ
ひかり: う……うん. ちゃっちゃと片付けて, 合格合格〜
アスタシア: そうそう. ハンターズになったら給料もちゃんと上げるからね. だから, 落ちちゃだめよ
ひかり: え, 本当? やたあ
なつめ: よかったじゃん
ひかり: うんうん, 絶対合格するね
ひかりはそう言うと, 奥の扉めざして歩き始めた.
ひかり: じゃ, ひかりは行くね
アスタシア: 行ってらっしゃい
ひかり: がんばっていこー
3人は手を振って見送った.
なつめ: これで,あたしたちの仕事も終わりかな?
なつめが一仕事終えてほっとした様子で言ったが, アスタシアはこれからが本番という顔をしていた.
アスタシア: さーてと,今度はわたしたちが隠れる番ね. ここまで来たんだから最後まで見ていきたいな
なつめ: まぁね
ゼロ: ドラゴン見たいもんねぇ
今度は3人が壁の陰に隠れながら, 前にいるひかりの様子を見た. ひかりは大きなゲートの前に立っていた.
ひかり: あ, あれかな
ゲートは実に巨大だった. まるでこの先にあるものを暗示するかのように.ひかりはおじけづいた.
ひかり: だめだめ, 元締めに約束したんだもん. 頑張らないと. うん!
ひかりは決意を固くして, ゲートに一歩を踏み出した.
後ろで見ていたなつめが小さな声で言った.
なつめ: 今だね
アスタシア: いい? 一気に乗り込むわよ
なつめ: うん
3人はここぞとばかりダッシュした. そして, ひかりの直後にゲートに飛び乗るのに成功した.
ゼロ: うわぁぁ, すごいなぁ
ひかり: わああ,でたあ
転送された先には予想された通り巨大なドラゴンが住んでいた. 口から勢いよく炎を吐き出す. ひかりはろくに前も見ないまま攻撃を始めた. ひかりと反対側からドラゴンを攻撃していた3人に気づく暇もなかった.
ひかり: ラグオルのやまとなでしこをなめるなよー
ひかりはそう言って気勢を上げた. 加勢もあったせいで何とか倒すことができた.
ひかり: えっへん. ひかりちゃん, えらーい
ひかりは倒れた巨体を前に, 自分のした事が今だに信じられなかった.
ひかり: うわあ, うそみたいだよお. ひかりが一人でやっつけられるなんて.
なつめ, アスタシア, ゼロの3人はドラゴンの死体をはさんでひかりの反対側にいた. ゼロは隠れて細胞の採取を始めた.
なつめ: あとは赤の牙を探すだけだね
アスタシア: さあ, 急いで帰るわよ
ひかりに見つからないように, 3人はこそこそとその場を後にした.
ひかり: っと, 牙はと……あ,あったあ
ひかりは勝利の余韻に浸る暇も惜しんで, さっそくドラゴンの牙探しにかかった. 制限時間まであとわずか.
ひかり: ひい, ふう, みい, これだけあればOKかな. えっと時間は……あ, なんとか間に合いそう
ひかりは牙を鞄に入れると走り出した.
ひかり: 急げ〜
3人はパイオニア2に帰ってきた.
ゼロ: あ〜あ, 楽しかった
なつめ: ひかりちゃん, 牙みつけたかなぁ
アスタシア: それすらできないようだったら, 失格でかまいません
アスタシアは厳しい口調で言った.
なつめ: ありゃりゃ
アスタシア: さすがにねぇ
ふと見ると, なつめは片手に大きな肉片を持っていた.
アスタシア: なつめちゃん, そんな物どうするの?
なつめ: それはね, さっき言ったでしょ. 料理に使うのよ
アスタシア: え〜っ? 食べるの?
なつめ: 世の中, 食べられない4本足は椅子だけだよ
アスタシアとゼロがいかにも嫌そうな悲鳴を上げた. すると, 目の前を誰かが猛スピードで駆け抜けていった.
アスタシア: あ, あら? ひかりちゃんが通らなかった?
なつめ: みたいだね
どうやら帰ってこれたようだ. 3人はほっとして店に帰った.
ひかりは総督の部屋に駆け込んだ. 試験官が時計とにらめっこしている.
試験官: 後10秒
ひかり: 試験官さ〜ん, こ, これで〜す
試験官: ぎりぎりだな
ひかり: あ, よかったぁ
試験官: とりあえず, 合格の資格はできましたね. 後は, その牙に不正がないか調べて追って結果をお知らせします
ひかり: うんうん, わかったよお
試験官: お疲れ様. これですべての試験は終了です
ひかり: わあい, やっと終わった. じゃあ, ひかりは帰るね
ひかりもほっとした表情で退出した.
ひかりが3人の前を駆け抜けていってから2時間ほど経った頃, 3人は店のいつものテーブルでくつろいでいた.
アスタシア: さてと, 結果をさりげなく聞き出さなくちゃ
アスタシアが席を立つと二人もうなずいた. 3人は連れ立ってまた街へと向かった.
ひかり: そろそろ時間なんだけどなぁ……
ひかりが電光掲示板の前で発表を待っていると, 例の3人が通りかかった.
アスタシア: ふ〜ふ〜ん♪
ひかりが声をかけると, アスタシアは大げさに驚いた.
ひかり: あれれ?
なつめ: よっ!!
アスタシア: あら,ひかりちゃん, こんなところで何を?
ひかり: みんな, お仕事はうまくいったのかな?
アスタシア: え, ええ
ゼロ: うっうんうん
なつめ: だいじょうぶだいじょぶ. 成功したよ
3人は詰まりながらも返事をした.
ひかり: そかぁ,よかったあ. ちょっと心配だったんだ
アスタシア: ところでこんな掲示板を見つめて何やってるの?
ひかり: うあ, 実はね, ここの掲示板で合格発表があるんだよ
アスタシア: へー, せっかくだからちょっと見ていこうかな
なつめ: 見よう見よう
3人もひかりの横に並んで掲示板をじっと見始めた.
ひかり: 最後の試験は大変だったよお
アスタシア: 受かってるといいわね
話をしていると, 掲示板の表示がぱっと変わった.
掲示板: ライセンス試験発表 受験者358名, 合格者134名
ひかり: うええ, すごい倍率
なつめ: 少ないねえ. だいじょうぶかなぁ
ゼロ: でも,そんなにぽんぽんライセンスあげられないでしょう
アスタシア: ハンターになんかならない方が幸せだったりして
受験番号と名前がゆっくりと下から上に流れていく. しかし, なかなかひかりの名前は出てこなかった. 100人以上の名前が上に流れていき, とうとう最後の行に到達してしまった. 無情にも文字は画面の上方へと消えていき, 画面は真っ暗になった.
ひかり: あれ……
ゼロ: 落ちちゃったのかな?
すると, 画面にまた白い文字が浮き出した.
掲示板: 補欠合格者 3名
そして, その下に3人の名前が表示された. その中にひかりの名があった.
ひかり: あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜! あったあった
アスタシア: ぎりぎりってとこね
ひかり: わああああああい. 受かったよお
ひかりは大喜びで踊り始めた.
なつめ: 補欠かぁ
アスタシア: でもあーんなに喜んでるし……
皆が横を向いているうちに掲示板の表示は切り替わっていた.
掲示板: なお補欠合格者は追加試験を受け規定点に達すれば合格とする
そして, 試験日時や細かな規定が小さな文字で書かれていた.
ひかり: え〜〜, まだまだあるの〜
アスタシア: あはは. また試験か
ひかり: っと, 今度はミウ・レン試験官さんと洞窟でテクニックの追加テストかあ
ゼロ: 大変だなぁ. ライセンス取るのって
なつめ: 合格パーティーはおあずけか
ひかり: うんうん. でもでも合格のきざしが見えてきたよ
なつめ: 不合格にならなくて良かったね
アスタシア: とりあえず苦労した甲斐はあったってことね
ひかりはもう一度踊り出した. なつめもそれに加わった.
ひかりが喜び疲れて一休みしたのは, 他の受験者がもう皆帰ってしまった後だった. 掲示板の前にいたのは4人だけだった.
ひかり: さあって, おうちに帰っておじいちゃんとテクニックの特訓しないと
なつめ: がんばってねぇ
アスタシア: いってらっしゃい. 補欠合格で気を抜いちゃだめよ
ひかり: 必ず合格してまたお仕事お手伝いするからね. 元締め
アスタシア: ええ, お願いね
ひかりはこくりとうなずくと, 大きく手を振ってから走り出した.
ひかり: じゃ, またね〜
なつめ: またねぇ〜〜
アスタシア: がんばってね〜
ひかりを見送って, 3人はまた店へと戻っていった. ゼロは頭に手を組んでいた.
ゼロ: さて, トランプの続きでもしようかなぁ