森の奥で
転送先も相変わらず森の中だったが, 遠くに白い建物が見えた.
なつめ: あれかな?あの白い建物がプラントかなぁ
アスタシア: そうなの?ゼロさん
ゼロ: うん, そだよ
ゼロは軽く答えた.
なつめ: って, なんでつんつん知ってるの?知ってるなら道教えたらいいのにぃ
ゼロ: えとえとえと
ゼロは答えに窮していた.
なつめ: 前に行ったことあるの?幼い時に迷子になったとかさ
ゼロ: そうそう, そうなんですよ〜, あはは. 迷子になったときにね. ちょこっとね
ゼロは作り笑いをしながら答えた.
アスタシア: 迷子にねぇ. ゼロさんらしいわ
なつめ: でもさぁ, プラントは幼い子が来る場所かなぁ?
ゼロはまだ作り笑いを続けている.
なつめ: ふと思ったんだけど……まあいいや
アスタシア: どうしたのよ?
なつめ: ちょっと考え事
ゼロはそれを聞いて目を大きく見開いた. 慌てて二人をせかした.
ゼロ: それより早く行かなきゃ. 風邪ひいちゃうよ
移動を始めた2人を見てゼロはほっと胸をなで降ろした.
ゼロ: ごまかせたみたい
しかし, なつめはまだ首をひねっていた.
なつめ: さっきのつんつんの行動, 怪しいよなぁ
首をかしげながらゆっくり歩くなつめを追い越して, アスタシアは勢いよくフェンスを飛び出していった.
ひかりが転送されると, 向こうで3人がまた相談しているのが見えた. ひかりは慌ててすぐそばに生えていた葉っぱの陰に隠れた.
ひかり: あ, いたいた. ここからじゃ何を話してるのか聞こえないなあ
3人が出ていったところを見はからってあとをつけていった.
ひかり: 元締め, 今日ははりきってるなぁ. そんなにいいギャラのお仕事なのかな?
勢いよく猛獣よけフェンスから飛び出したアスタシアは, すぐ目の前にいたブーマ3匹に囲まれてしまった. 長い手に殴られてふらふらっとしたところをもう一匹に後ろから殴られた. あとの2人がやってきた時にはすでに彼女は地面に倒れていた. 2人はしばし野獣撃退に忙しく, 彼女の様子を見ることができたのはあたりが静かになってからだった.
なつめ: あれ?元締め?
ゼロ: ああ〜〜, 大丈夫ですか, アスタシアさん
ひかりは物陰から見ていたから詳しい様子はわからなかった.
ひかり: みんな苦戦してるみたいだなぁ
アスタシアは目を閉じて倒れたままうなっていた. 意識が戻っていないようだ. ゼロはさっそく背負っていた鞄を地面に降ろした.
ゼロ: 回復の薬がたしか鞄の中にあったんだけどねぇ
なつめ: おねがい!
ゼロ: あったぁぁ
ゼロは鞄の奥から古びたムーンアトマイザーを取り出した. ラベルが茶色に変色している.
ゼロ: だいじょうぶかなぁ, これ
なつめ: 古くても死なないでしょ, ってもう倒れてるか
ゼロ: まあ, 自分が使うんじゃないし, いいかぁ
なつめ: まあいいや. 許す. でも責任はとらない.
ゼロは固くなった栓を両手でこじ開けると, 瓶の口をアスタシアの口元に持っていっって, ぽかんと開けている彼女の口に中身を一気に流し込んだ. 液体が喉を伝って消えていった.
アスタシア: うわっ! ぺっぺっ! 何飲ますのよ!
アスタシアは急に上体を起こして大声でどなった.
ゼロ: だいじょうぶみたい
なつめ: よかったよかった
ゼロ: あっいや, その……これしかなかったんだよ〜
アスタシアはやっと心配そうに自分の見つめる二人の顔に気がついた. 上体だけ起こした自分の格好を眺め, 周囲を眺め, そして二人を眺めた.
ゼロ: でもよかった
アスタシア: あ……えーと, わたし, 何してたんだっけ……
なつめ: プラント探してたんじゃなかったっけ?
アスタシア: もしかして気絶してた?
なつめ: そうかもしれないし, そうでないかもしれない
アスタシア: ごめんなさい. 変に怒鳴ったりして
彼女は神妙な面持ちで立ち上がった.
アスタシア: さて, どっちかしら?
ゼロ: どっちだろ?こっちだったと思うけど
なつめ: 手あたり次第探そうよ
そして, 何もなかったかのようにまた一行は歩き出した.
ひかり: あ, 移動しはじめたみたい
3人が移動を始めたのを見て, ひかりもまた移動を始めた. 足元の草ががさがさと音を立てた.
なつめ: まだいるかっ!!
なつめは急に振り向いて音のした方に駆け寄った. しかし見えたのは槍の先だけだった. なつめは安心してゆっくりと戻っていった.
ゼロ: 隠れるの下手だなぁ
ゼロはくすくす笑っていた.
なつめ: パルチザンみえみえだね
ゼロ: 僕が言ってあげてこようか?
ゼロが行きかけるのを二人が制止した.
アスタシア: だめだめ
なつめが後ろからゼロを羽交い絞めにして, 無理やり引きずった.
ゼロ: くっ苦しいよ〜, なつめちゃん
なつめはゼロをアスタシアの前まで連れてきてからやっと離した.
なつめ: 自分で考えて行動させにゃだめだよ
アスタシア: 試験に手助けは禁物よ. たとえ試験には通ったとしても立派なハンターにはなれないわ
なつめ: 自分で理由見つけないとだめだよ
ゼロ: そっか. これも手助けになるんですね
ゼロはちらっとひかりの方を見た.
ゼロ: でも, 気づいてないみたいだよ?
なつめ: いずれ気づくと思うよ
ゼロ: そっかなぁ
アスタシア: そうだといいですけどね
ひかりは3人のやりとりを遠くで眺めていた. もちろん話の内容まではわからなかった.
ひかり: なにか揉めてるなぁ. そんなに難しい依頼なのかな
しかし, 視線がときどき自分に向けられているのをなんとなく感じていた.
ひかり: う〜ん, もしかして, ばれてる……のかなぁ
ひかり: あ, ラッピーだ. かわいい!
ひかりは思わず足が一歩前に出た.
ひかり: っと, いけないいけない
ひかりは思いとどまった. また草むらに隠れる.
しかし, その音をなつめは鋭く聞きつけた.すかさず振り向く.
なつめ: そこかっ!!
アスタシア: どうしたの?
なつめが音のした方へ駆け出したのを見て,アスタシアも同じ方に走っていった. そこでアスタシアは何かを発見した.
アスタシア: あっ!
アスタシアが見たものは, 草むらで丸くなってうずくまっているひかりの姿だった. アスタシアは妙に上を向いたままその場を離れた.
アスタシア: さてと……見なかった, 見なかった
なつめ: そうそう
通路をゆっくり戻ってくる二人にゼロは聞いた.
ゼロ: どうしました?
アスタシア: なんにも〜
なつめ: つんつん,行くよっ!!
ゼロ: あっ, 待ってよ〜,追いてかないでぇ
ひかりは人の足音が遠くなるのを聞いて, ようやくちらちらと向こうを見た.
ひかり: どうやらわからなかったみたいかなぁ
そして, 3人のあとをつけていった.
ようやく, 正面に大きな建物が見えてきた. しかし, ゼロは反対方向にずんずん進んでいく.
アスタシア: あれ? 建物あっちよね?
ゼロ: ここ複雑なんですよ. 遠回りに見えて実はこっちが近道なんです.
後ろからついてきたひかりも同じく建物に気がついた.
ひかり: あ……あれかな. どうやらひかりちゃんにも光が見えてきたかも. やたあ.入口は近くにあるのかな