何でも屋9: 試験の調子は?

今日はいよいよひかりのハンターズ試験.暇な「何でも屋」の面々はこっそりとその様子をのぞきに行くことにしましたが...

ひかり発見

ひかり: くすん……あんなにきれいな蝶がいなかったらこんなことにならなかったのにぃ……食料プラントってどこなんだよぉ……うわあああん
ひかりは広い通路の真中で座って泣いていた. さっきまでひらひら舞っていた青い蝶はどこかに行ってしまった.
ひかり: 完全にみんなとはぐれちゃった……うわああああああああああああん
ひかり: ひかり1人じゃ, 見つけられてもやっつけられないよぉぉぉぉ. あ〜〜〜〜〜ん
ひかりは手元の時計を見た. こうしている間にも時間だけはどんどん過ぎていく.
ひかり: 時間も……あんまりないし……くすん. ひかりのお馬鹿! どじ!


アスタシア: 到着〜
3人はいつもの森の入口に立った. なつめはゼロの肩に乗っているマグを不思議そうに見つめた.
なつめ: あれっ?つんつん, マグ飼ってる. 今までなかったのに.
ゼロ: 戻ってきたんだぁ. 今まで逃げられてたの
ゼロは情けない顔になった.
なつめ: かわいそうな飼い主
アスタシア: 戻ってきたってことは慕われてるのよ
ゼロ: そうかなぁ

と, その時, なつめが何かを聞きつけた.
なつめ: おや?どっかで女の子の泣き声がするぞ?
ゼロ: えっ?女の子の声?聞こえなかったけど……
アスタシア: なつめちゃん, 耳もいいのね. どこどこ?行ってみましょう
なつめは耳だけを頼りに森の通路をどんどん進んでいく.
なつめ: こっちかなぁ?


Captured Image
アスタシア: あ, あれは?
ゼロ: だれかいるよ?
遠くに人影が見えた. 背が低い. そして大きな声で泣いている. なつめのいう声の主であることは間違いない.
なつめ: だれだろ?
アスタシア: もうちょっと近付いてみようか
3人は扉の裏でひそひそ声で相談した. なつめは鼻をひくひくさせている.
なつめ: あの匂いは……ひかりちゃんだ
ゼロも柱の陰からじっくり観察してうなずいた.
ゼロ: ひかりちゃんだね. 何してるんだろ?
アスタシア: 座り込んじゃってるし
ゼロ: あっわかった. 休憩ですよ
なつめ: 休憩で泣くかなぁ
アスタシア: お弁当でも食べてるのかな?
なつめ: 弁当がまずいとか?
ゼロ: きっとそうですよ
なつめ: そうに違いないね
3人はうなずいた. ゼロはうらやましそうに遠くの女の子を見つめていた.

3人は陰になっている場所を選んで道の壁づたいにこそこそと近寄った.
ひかり: 他の受験者の人いませんかあぁ
返事はない.
ひかり: くすん, やっぱりどらごんの場所からすっかり離れてしまったんだぁ. うわあん
木の陰でなつめは立ち止まった. そしてまた作戦会議を始めた.
なつめ: どうやら, 迷子になったらしいね. あたしたちが直接助けるってのもアリだが, そのまま出るのもなぁ……
アスタシア: どうしよう?試験だしなぁ. それをやっちゃうとなぁ
3人に気づかないひかりがまだ泣き続けていた.
ひかり: ここはどこなんだよぉ. 食料プラントってどこ〜?うわぁん……このマップじゃよくわかんないよぉ
なつめ: 食料プラントを探してるらしいよ. 元締め, 知らない?
アスタシア: よし, 知らないフリをして通りかかりましょう
なつめとゼロがうなずいた.
なつめ: じゃ, いこっか

3人はできるだけひかりを見ないようにして近づいた.
アスタシア: おっしごと, おしごと〜 るんるん
なつめ: オシゴトアルヨ
3人がひかりの前を通り過ぎようとする時, やっとひかりが気づいた.
ひかり: あれえ?
ひかりは涙を手で拭ってもう一度良く見た. 間違いない.
ひかり: え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?みんなぁ! って, なんでここにぃ?
ひかりの顔にぱーっと笑顔が戻った.
なつめ: ちっ, ばれたらしょうがない
アスタシア: あらあら, 偶然ねえ. もちろんお仕事ですよ
ゼロ: えっとねぇ, 様子見に〜
なつめ: 違うでしょ!!
アスタシア: お仕事!
アスタシアが鋭い声で言った. なつめは走り寄ってゼロの口を押さえた.
ひかり: うんうん, 偶然なんだあ. すごいなぁ. この辺りって試験の為に封鎖されてるんじゃなかったかな?
なつめ: なぜかいるんだよねぇ. 封鎖されてるはずなのに.
ひかり: ま, いいかあ. なんでも屋ってなんでもやるし.
アスタシア: そんなこと言われてもねえ, 一刻を争うお仕事なんだから……
ゼロ: それは〜
ゼロが何かを言いかけた途端, なつめはまた彼の口を塞いだ.
ゼロ: なつめちゃん, ひどいよ〜, 僕にもしゃべらせてよ〜. せっかくひかりちゃんに会ったのに〜
なつめ: あんたが言うとあることないことしゃべっちゃうでしょ!!
ゼロ: へん, いいもん
ゼロとなつめの二人はひそひそ声で言い合っていた.

ひかりは横で言い合っている二人には気づかず, アスタシアに事情を聞いた.
ひかり: 何か急ぎの事情でもあるのかなあ?
アスタシア: そうそう, とっても重要なお仕事なの
ひかり: ストライクさんを待ってる暇さえないような, そんな依頼なんだねぇ
アスタシア: そうそう. そうなの. 大急ぎなの
なつめ: そうそう, それほど急なのよ
アスタシアとなつめは声を揃えて言った. ゼロは驚いた顔をしていた.
ゼロ: ええ〜, そうだったんだ……急な仕事入ってたんだ
なつめ: って今ごろ知ったの?
なつめは手にした鍋を振り上げてゼロを威嚇するように言った. ゼロは頭をかかえた.
ゼロ: あぅ, 鍋振り回さないでよ〜
なつめ: しょーがないでしょ, 急な仕事なんだから. 料理してる最中なのに

ひかりは二人の方は見ずなおも質問を続けた.
ひかり: ふうん, ちなみにどんな依頼なの?
アスタシア: 超機密事項だから残念だけど教えてあげられない
ひかり: そかあ. 早くひかりもライセンスをとってお手伝いしてあげられたらいいんだけどね
アスタシア: がんばってね. 試験
ゼロ: ひかりちゃんがんばれ〜
なつめ: 試験, がんばってね
ひかり: う……ん
3人の励ましの声に対して, ひかりの返事は曖昧だった. そして, 相手の顔色をうかがいながらためらいがちに言った.
ひかり: あ, あのね, ちなみにぃ……
アスタシア: なに?
ひかり: みんなはどこにいくのかなあ?それも秘密?
3人は黙って顔を見合わせた.
なつめ: 元締め, どこだっけ?
ゼロ: どこいくんだろ
なつめ: あ, そうだ!! ついでだから食料プラント寄らない?材料が足りなくなっちゃって押収に行くわけなのよ
アスタシア: そうそう, 食料プラントよ. 食料プラントに早く行かなきゃ
ひかりに笑顔が戻った.
ひかり: ふうん, 偶然だねえ. ひかりの目的の場所もそこなの
なつめ: そうなの?偶然だねぇ
ひかり: そこの奥にドラゴンの巣があってねえ, そこのドラゴンをやっつけて赤い牙を取ってこないといけないんだってさあ
ゼロ: ドラゴン!! すご〜い
ゼロは目を輝かせた.
なつめ: あれは高級食材だからなぁ. できれば肉片欲しいなぁ
ひかりは3人の表情を見ながら, さも突然思いついたかのように声を上げた.
ひかり: あ, そうだ! どうせ行く場所が同じなんだし, お仕事の邪魔はしないからさぁ, 途中まで一緒に行こ〜
なつめ: それはお互い様だよ
なつめはうんうんとうなずいた.

しかし, アスタシアが厳しい顔で首を横に振った. ひかりの表情は一転して失望のそれに変わった.
アスタシア: だめです. 試験中でしょ?そういうのをズルって言うのよ
なつめ: そっか, 試験に手助けは厳禁か
ゼロ: そうなんだ. ふむふむ. ズルはだめだぞ. 自分の力でなんとかしなくっちゃね
ひかり: じゃあ, 仕方ないねえ
それでもひかりはある企みを思いついた. こっそり後をつけよう. とすると, この場はいったん別れておいた方が得策だ.
ひかり: あのね, ずっと1人だったから, さびしかったんだあ. それで一緒に行きたかったんだよ. 心細くて……でも元締めの言う通りだね
なつめ: 大丈夫!!! ひかりちゃんは一人じゃない!! 陰ながら応援してるよ
アスタシア: そうそう. わたしたちがいつも応援してるからね
ひかり: みんな, お仕事頑張ってね
なつめ: ありがとうね
アスタシア: さて. じゃあ, わたしたちはこれで……
アスタシアがゆっくりと前に歩き出した.
ひかり: ひかりは武器の手入れをしてから移動するから. またね
なつめ: じゃねぇ〜!!
ゼロ: がんばるぞ〜! またね, ひかりちゃん
アスタシア: 試験がんばってね
3人はぶんぶん手を振りながらひかりを置いて先に進んだ.

ひかり: 見つからないように後をつけなきゃ. 試験官さんが言ってたもんねえ. 駆け引きというものもあるって. えへへ
ひかりは3人が扉の向こうに行ったのを見届けてから, 柱の陰にこそこそと隠れた.