企み
建物は広かった。3人は長い廊下を進んでいた。
アスタシア: ストさん、奴らはいったいここで何しようとしてるわけ?
なつめ: 悪いことしてるに決まってるじゃん!!
アスタシア: ま、まあ、そうだけど……
ストライク: 強化兵の製造だ
なつめ: さっき言ってたストライクさんのそっくりさん?
ストライク: なぜかは知らんが女だったがな……
なつめ: 女!?元締めのそっくりさん!?
なつめは考え込んでいたが、思わず身震いした。
アスタシア: わ、わたしは関係ないって。ない……よね?
ストライク: ああ、違う
なつめ: じゃ、だれだろ?
ストライク: 俺のクローンだ
なつめ: 女性じゃなかったっけ?あれ?おかしいなぁ
ストライク: クローンが女だったんだ……
なつめ: つまり、顔がストライクさんで身体が女性ってこと!? いや〜〜〜ん!!
ストライク: さすがに右目の傷は無いがな……
なつめ: BPも相当ヘンなこと考えつくね。こんなお間抜けな事考えた奴の顔が見たいよ
なつめは笑った。それに対して、アスタシアは真剣な表情をしている。
アスタシア: とにかくよ、ストさんみたいなのがうじゃうじゃいて悪事を働いたら困るでしょ?
なつめ: みんな無口だったら怖いよねぇ
アスタシア: うるさいよりはいいです。
なつめ: そっかなぁ?あたしがたくさんいるよかマシなんだ……
アスタシア: うーん、そういう意味じゃなくって……えーと、先行きまあしょ、先
アスタシアはいきなり走り出した。
廊下の先も似たような部屋だった。緑が基調の暗い部屋で、多くの敵がいた。なつめは長い棒を振り回して突進した。
なつめ: とっちめてやるー!! うら〜〜〜!! なめるなぁ〜〜〜!!
声: ほほう、なかなかやりますね。おちびちゃん
アスタシア: まだのぞいてる……
なつめ: 聞く耳持たぬわぁ!!
銃弾が飛び交う中、なつめは敵をどんどんなぎ倒していった。あたりにまた静寂が戻った。
アスタシア: 大丈夫?逃げてるだけでも結構大変だわ
なつめ: どーせデータ取られてるんだから戦っても一緒でしょ
3人が荒い息を整えていると、ストライクが何を思ったか突然アスタシアに近づいて耳打ちした。
ストライク: あいつに会ったら、給料下げると言ってくれ……
アスタシア: あいつ?
ストライク: 今のぞいている奴だ
アスタシア: わたしが給料?うう、わからない……
ストライク: ともかく言うんだ。いいな……
アスタシア: は、はい。わからないけど……言うのはわかりました。
3人が休憩していると、部屋の奥から突然、巨大な機械が現われ、すべるようにこちらへ向かってきた。両肩のミサイルポッドの蓋が開いた。そこに多数のミサイルが収まっているのが見てとれた。
ストライクの行動は素早かった。上から下までを一瞥すると、装甲の継目に剣を突き立てた。攻撃ごとに、まるで皮を剥くように装甲が外れていく。相手はミサイルを数発発射するのに成功しただけですぐに沈黙した。
ストライク: 戦車まで出すとはな……
声: そいつもやられてしまいましたか
アスタシア: あっ、あいつの声だ
天井からまたもや例の声が響いた。
声: リクエストどおり出したんですがね
なつめ: 弱かった。BPってこの程度なんだ〜〜
なつめはきっぱりと言った。
声: ふふっ、おもしろい。強がりもそこまでくると愉快ですね
なつめ: ばーかじゃないの〜〜
声: くくっ。さて、子供にかまってる暇はないんでね。私は次の作業にとりかからせてもらいましょう
かすかにピピッという電子音がして、音はぷっつりと切れた。
3人は照明のない暗い部屋に入った。もともとこの区画は照明は抑え気味だったが、この部屋は前も見えないくらいだった。
なつめ: 暗いよ〜
アスタシア: ゼロさん、大丈夫?
アスタシアはきょろきょろと見回して、はっと気がついた。
アスタシア: あ、えーと、いなかったっけ
なつめ: なんでか、つんつんの匂いがするんだよなぁ
アスタシア: 獣並みね
ストライク: こっちだ……
ストライクの声がする方に行ってみると、そこには大きな転送機があった。そして、そこにはさっきの男がいた。
なつめ: 出たな、三下!!
ゼロ: ふふ。よくここまでたどりつけましたね。ほめてあげますよ。でも少し遅かったですね。私の作業はすべて完了しましたしね
なつめ: うわぁ、三下っぽい台詞
アスタシア: 給料下げるわよっ!
なつめ: だからつんつんと違うって。つんつんはもっと間抜けだよ
アスタシア: だって、ストさんがあいつに言えって
なつめ: ストさん、勘違いしてるんだよ。今ごろは押し入れにいるはずなのにね
二人の話に男が気をとられている隙に、ストライクは衝撃波を相手に見舞った。しかし、男は軽々とよけた。
ゼロ: まだまだですね。そんな事では私は倒せませんよ
なつめ: むむっ、なかなかやるな
なつめも加勢して混戦になった。どれだけの攻撃をヒットさせても、男は平然と起き上がってきた。
ゼロ: くらえ
男の反撃をまともにくらい、ストライクは倒れた。男はにやにや笑いを浮かべながら、彼に手を差しのべた。
ゼロ: これまでですかな?さあ、立ち上がってください。
なつめは武器を構えたまま後ずさりした。そのずっと後ろにはアスタシアがいた。
なつめ: あのおっさん、ゾンビみたいなんだもん。つんつんとは大違いだね
アスタシア: わたしでは手に負えないわ
ストライクは起き上がりざまに相手の胸めがけて攻撃をしかけた。今度も正確な狙いだった。男は倒れた。そして、起き上がってはこなかった。
なつめ: あら、倒れちゃった。間近で見ると冴えない顔だよね
アスタシア: な、なに?どうしたの?大丈夫?
なつめ: おっさん死んじゃったよ
アスタシア: やっつけた?
アスタシアもおそるおそる近寄ってきた。ストライクが男の胸を踏みつけると、男はごほごほと咳をした。
ゼロ: さすがですね。でも、もう遅いですよ。データの移行はすべて完了済みだ。
男はゆっくりと左手を持ち上げた。その手の中には小さな装置が隠されていた。男が左手を強く握ると、部屋が赤く点滅しだした。
なつめ: なんだなんだっ!?
ストライク: 自爆する気か……
ゼロ: くくっ。これで君たちもおしまいだ
なつめ: それはどうかな?やってみなくちゃわかんないよ
ゼロ: ふふ。それは楽しみですね
放送: 爆破まで20分を切りました。すみやかに退避して下さい
ストライク: 先に行け
ストライクは顔で転送装置を指した。アスタシアとなつめは駆け寄った。
アスタシア: どこへ?
ストライク: オリジナルを殺す……
ストライクはラフォイエを放った。そして同じように転送装置に乗った。
転送先はコンピュータルームだった。端末を片っ端から破壊する。すると、マザーコンピュータ本体が姿を現した。防衛機構が動作し、侵入者を撃退し始める。装置全体を破壊して沈黙させるまでにさらに十数分が経過した。
なつめ: よっしゃ
アスタシア: やっつけたわ
放送: 爆破まであと3分です。すみやかに退避して下さい
ストライク: これだからBPは質が悪い。先に行け
アスタシア: わかったわ
なつめ: 逃げるぞ〜〜
3人は部屋の隅の転送装置に一目散に飛び込んだ。遠くで爆音が響いた。