何でも屋3: 二人のひかり

なつめはひかりと格好がそっくり。そんなこととはつゆ知らず、いつもののんきな店長とそのバイト君はなつめをひかりと勘違いしていつものように仕事にひきずり込んでしまいます。偶然が引き起こした珍騒動です。

ゼロの災難

ゼロ: 痛い、なんだよこれ〜〜
アスタシア: ゼロさん、そんなところでなにやってんの!
見ると、ゼロが地面にばたんと倒れていました。
ひかり: 大丈夫かな?
ゼロ: うう、おこんないでよ
アスタシア: あ、ええ、ごめんなさいね
ひかりはゼロに近寄って頭をなでました。
ひかり: あ、こぶだあ
ゼロ: つまずいたらトラップに引っかかっちゃったんだよ
ひかり: そかあ
なつめも、拳に息をかけながら近寄ってきました。
なつめ: 二段こぶ作りたいよね
ゼロ: なっ、なに?そのこぶしは
なつめ: 二段こぶにしたいんだもん。アイスクリームのダブルみたいでかっこいいでしょ
ゼロ: やめてよ〜〜かっこよくないよ
ひかり: すごーい
ゼロはもちろん嫌がっていますが、ひかりは期待のまなざしを向けています。ゼロはたまらなくなって逃げ出しました。
ゼロ: うわぁぁ
なつめ: 逃げちゃった……冗談なのに
しかしなつめは真剣な目をしていました。
アスタシア: やりすぎた?
ひかり: じゃいこっか。お仕事早くしないとね
ゼロも後から恐る恐るついていきました。


通路の向こうは暗い部屋でした。暗いと言えば、ゼロが気になります。
ゼロ: うっ、暗いよ〜
ゼロ: うわぁ! たすけてぇ
アスタシア: ゼロさぁ〜ん
ひかり: あ〜、今いくよ〜
ひかりが慌てて駆け寄りました。灯りがつくと、ゼロがばったり倒れていました。すかさずひかりはリバーサーをかけました。
ゼロ: いててて
ゼロは上半身を起こしてきょろきょろ周りを見回しました。
なつめ: 死んでないよね
ひかり: あーもー、だいじょうぶなのお?ばったり倒れてるから心配したよお
ひかりの目には涙がたまっていました。
ゼロ: わわ、なっ泣かないでくださいよ。ほらっ、僕元気ですよ
ゼロは急いで立ち上がり、その場で飛んでみせました。
ゼロ: ほらね。大丈夫ですから。皆さん。
ひかり: ごめんね、無理言いすぎたね、ひかり。くすん。
なつめ: じゃ、おとりってことは無しだね。ごめん。こっちも言いすぎたよ。おとりはしなくていいから、しびれたって嘘はつかないでね
ひかり: よかったあ。たんこぶはもういいかな?
ひかりはゼロの額に触ってみました。
なつめ: こぶはひいてるんじゃないの?
ひかり: うんうん、大丈夫みたい。じゃ、一応
といってひかりはレスタをかけました。
ひかり: これでどう?
ゼロ: あっ、ありがと、ひかりちゃん
アスタシア: 少しは楽になった?
ゼロ: うん
アスタシア: 倒れた時より楽になった?
ゼロ: ばっちりですよ
ゼロはにこにこして答えました。
なつめ: んじゃ、いこっか
ひかり: じゃあがんばるよ、ひかり
アスタシア: ゼロさんもいつも通りでいいからね
ゼロ: うう、やっぱり暗いの苦手だなぁ


一足先行していたなつめは、奥の小さな部屋でスイッチを見つけました。自慢の拳で殴りかりましたがびくともしません。自分の手が腫れただけでした。
なつめ: 堅くて壊せない!!
ゼロ: 今行くよ〜
ゼロもスイッチのある小部屋に到着しました。
ゼロ: あっ、スイッチだ
ひかり: これこれえ、この機械、なんとかなりそう?
なつめ: 壊せないの
ゼロ: くすくす、壊せないモノが出てきたね
ひかり: 力の2号も返上かなあ?あはは
なつめ: ちきしょう!
なつめはスイッチを足蹴にしました。
なつめ: こわれなーい
ゼロ: やめてくださいよ
アスタシア: そもそも力で解決できる方が異常なのよ

ゼロはなつめに代わってスイッチの前に立ちました。
ひかり: ゼロさん、なんとかなるかなこれ?
ゼロ: ちょっとまってね。えとえとえと……ふむふむ、これかな?
なつめ: つんつん、壊せる?ツボがあったら教えて
ゼロ: こっ壊せないですよ。動かすんです
なつめは適当にあちこち押してみましたが、当然のごとく動きません。
なつめ: 動かなーい
ひかり: 2号、ゼロさんにまかそ
ゼロ: これだな。じゃ、いくよ
ピッという電子音がして、作動中のランプが消えました。
ゼロ: うっ動いた
なつめ: すごーい。こういう壊し方もあるんだ
アスタシア: だから壊すんじゃないの
なつめ: 頭の避雷針は伊達じゃないね
ゼロ: 避雷針じゃないやい

ひかり: やったあ、ゼロさん、頼りになるう
ひかりはうれしそうに言うと、アスタシアに言いました。
ひかり: 元締め〜、ゼロさんの時給もとに戻してあげてね
アスタシア: ええ、わかったわ。それにしてもひかりちゃん、なんでそんなにゼロさんの給料を気にするのかしら
なつめ: そうだよ、ひかりちゃん
ひかり: だってえ、またおごってもらうからだよお
なつめ: なにぃ〜〜〜!!
アスタシア: あ、おごってもらったの?へぇ〜
ゼロとひかりは顔を見合わせました。
ひかり: 前見た映画、面白かったねえ
ゼロ: うっうん
ひかり: また連れてってね
なつめ: どんな映画? シベリア超特急? ……じゃないみたいね
ひかり: 元締めが前見に行った映画だよお
アスタシア: ああ、あれね。「愛と追憶の日々」。よかったなあ……主人公の男がまたかっこいいのよ
なつめ: すんごい重そうな内容だなぁ
ひかり: うんうん、素敵だったよ。ねーゼロさん
ゼロは急に話を振られてびっくりしました。
ゼロ: うっうん、そっそだね
ひかり: おもしろかったよね映画
ゼロ: うんうん
といっても、ゼロは本当はあの映画はよくわからなかったのです。
アスタシア: でもゼロさん向きじゃなかったんじゃ?
ゼロ: えとえと、おっ、面白かったよ。僕は
ひかり: だからゼロさんのお給料もう少しないとひかりが困るの
アスタシア: そういうことなら、応援してあげる

なつめは少し寂しそうに3人を見渡しました。
なつめ: みんな恋愛もの好きなんだぁ。ツンツンは何が好きなの?
ゼロ: 僕はやっぱり、アクションがいい〜。こう、えいやぁって。
なつめ: あたしも好き。ホンコン映画とか?
ゼロ: うんうん
ひかり: ゼロさんは2号と趣味が合うみたいだねえ
なつめ: それで見た後思うんだよ。自分は強くなったんだ、って。悪役をバッタバッタとなぎ倒すとこがかっこいいんだよねぇ
ひかり: 格闘得意なんだねえ、2号は
なつめ: そうなるのかなぁ?ジャキーチェンや千葉真一が好きだけどなぁ
ひかり: ひかりは恋愛ものがいいなあ。ね〜、元締め〜
アスタシア: 同じく
ひかり: 今度は元締めに連れてってもらおうかなあ
アスタシア: ええ、いいわよ
ひかり: いい映画があったら教えてね、元締め
アスタシア: ええ、まかせといて

映画論議に花を咲かせていた4人は、ふと、ある事に気がつきました。そう、まだ仕事中だったのです。
ひかり: じゃあ、時間もないし急いで仕事を進めないとね
アスタシア: ま、そんなに急ぐ必要はないけど今日中にはね。お話はその後でもいいでしょ
なつめ: いこう!!


洞窟に群生する例の大きな花は、本当にどこでも見られました。そして、その毒牙にかかるのも既に日常茶飯事のことになってしまっています。
ゼロ: あぅ、しびれた……うっ動けない
ゼロはその場にばたりと倒れました。すかさずアンティがかけられました。
ゼロ: あっ、なおった
なつめ: よかったぁ
ゼロ: ありがと、ひかりちゃん。助かったよ
なつめ: つんつんいないと張合いがないからね
ひかり: どっちどっちい?
ゼロ: えとえとえと
ゼロは困った顔をしました。二人は笑いました。
ひかり: どっちでもいいよお。ひかりはゼロさんの味方だからね
ゼロ: どっどっちもありがとです
アスタシア: ひかりちゃんだけじゃないわよ。わたしだってそうだからね
なつめ: 元締めも味方だよ
ひかり: ストライクさんもね
ゼロは照れ臭そうに頭をかきました。
なつめ: あたしは?
アスタシア: ひかりちゃん?
ひかり: ひかりず ということで
なつめ: 複数形かい
ひかり: じゃ、がんばっていこー


一行の前に、さらに奥地へ向かう転送ゲートが見えてきました。
アスタシア: ようやくゲートだわ
ゼロ: 大丈夫かな?これ
なつめ: 壊してみる?
ゼロ: わわ、壊さないで
ゼロは機械のパネルの前に陣どりました。
ゼロ: たしか、ここをこうして、こうだったかな?
ひかり: うんうん
ゼロ: あれ?違った……えとえとえと、あっ、こっちだ
なつめ: じれったい!! うりゃっ!!
なつめは機械を蹴飛ばしました。
ゼロ: ああ〜〜!! ひかりちゃん、なんてことするんですかぁぁ
なつめ: 堅くて壊せなーい
アスタシア: ちょっと、こういう精密機械は乱暴しちゃだめよ
なつめ: はぁい
ひかり: ふうん、結構めんどうなんだねえ、ゲートの調整。座標がずれるとあぶないからなあ
ゼロ: ストライクさんならすぐなんだろうけどね
ゼロは装置をいじるのをやめて立ち上がりました。
ゼロ: わかったぞ。これだ。OKですよ。安全みたい
ひかり: よおし〜、じゃあいこ〜
アスタシア: 本当に大丈夫?
ゼロ: もう大丈夫でしょ。まかせてよ。えっへん
なつめ: じゃ、人柱になる
と言い残して、なつめはさっさとゲートの中に入っていってしまいました。
アスタシア: っていってもなあ。これじゃよかったのかどうかわからないじゃない
ひかり: あ〜2号いっちゃったあ。追いかけないとぉ
と、ひかりも同様にゲートの中に飛び込みました。
ゼロ: いっちゃた
アスタシア: しょうがないわねえ、わたしたちも追いかけましょ
ゼロ: うん
残った2人もゲートをくぐりました。


ゲートの先ではひかりとなつめの2人が待っていました。
アスタシア: ふう、大丈夫だったみたい。みんな揃ってる?
ゼロ: 計算どおり
ひかり: さすがゼロさん。やるねぇ
なつめ: さすが機械マニアだね
アスタシア: 少しは頼りにしていいのかなぁ
ゼロはVサインをしました。