何でも屋17: 病院にて

病院に運ばれたまま、意識が戻らないゼロとストライク。そして、彼らを待つ3人の女性たち。

病院にて

病院の壁は白く殺風景でした。独特の匂いが立ちこめていて、嗅いだ人の気持ちを沈み込ませる効果がありました。二人は一般病棟に戻ったものの、以前として昏睡状態が続いていました。
病院はとても静かでした。物音一つしませんでした。わたし達が病院に入ってから、もう何時間経ったのでしょう。病院の堅くて座り心地の悪い椅子にずっと座っていると、時間の感覚がだんだん麻痺してきます。
ふと、遠くから足音が聞こえてきました。顔を上げてみると、それはひかりちゃんでした。
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ひかり: 病院か……今度はゼロさんやストライクさんがここに……
アスタシア: あーよかった。ひかりちゃんに連絡がとれて。もう、ホント大変なのよ
ひかりさんはベッドに寝ている二人を交互に見ていました。わたしはあわてて説明を続けました。
アスタシア: まだ目を覚まさないのよ。もしかしたら永遠に覚まさないかもしれないって
ひかり: そっか

ベッドの周りに座っている人はひかりさんを含めて3人になりました。皆心配そうにベッドを見ています。ひかりさんは複雑な面持ちでした。
ひかり: ゼロさんは……ブラックペーパーの幹部だったなんて
なつめ: 早く目を覚ましてよ……
アスタシア: ストライクさ〜ん、ゼロさ〜ん
なつめ: う〜〜ん
アスタシア: 反応なしか……
なつめさんはゼロさんの頬をつっついていました。
なつめ: 起きてよ〜
アスタシア: やっぱりわたし達、待ってることしかできないのか……

わたしとひかりさんはじっと座っていましたが、なつめさんは落ち着かなさそうに歩き回ったり、ベッドをつっついてみたりしていました。すべてが止まった病室の中で、彼女だけが動き回っていたのです。彼女はストライクさんのベッドでふと立ち止まり、声を上げました。
なつめ: 見てっ! ストライクさんの左手
見ると、ストライクさんの左手が妙な形になっていました。手が融けているように見えました。
アスタシア: 何がどうなってるのかしら……お医者さ〜ん
なつめ: 医者〜〜!! ヤブ医者!! 医者いるの〜!?
わたしが行動を起こすより早く、なつめさんは勢いよくドアをバタンと開けてそのまま飛び出していってしまいました。廊下から、彼女の大きな声が聞こえました。
しばらくすると、お医者さんが現われました。金縁の眼鏡をかけて白いひげを生やした、年配の方でした。
医者: なんですかな?
アスタシア: あ、よかったよかった。あの、お医者さん、ストライクさんの手が……
なつめ: 見てよっ!!何がどうなってんのよ!?早く左手見てよっ!!
医者: これは……
なつめ: 何?なんなの!?
お医者さんはストライクさんのハンターズスーツを脱がし、上半身を裸にしました。左手の部分の皮膚が融け、機械が露出していました。そして、その機械もぐにゃりと曲がっていました。
アスタシア: 機械が融けるほどの熱ですって!?先生、ストさんどうなっちゃうの?
なつめ: 医者!!早く腕切断して義手つけてよっ!!
医者: 生きるか死ぬかの瀬戸際じゃろう……
なつめ: そんなのはわかってる!!いったいどんな病気なの!?
医者: わしらには何もできん……
なつめ: それが医者の台詞かっ!!
アスタシア: やっぱり何もできないのか……いつもそうだった……
なつめ: やっぱりじゃないよっ!!
ひかりさんは自分の背中を見ながら何やらつぶやいていました。
ひかり: もう、力を貸してくれないよね……アレス
医者: わしらにできる事はすべてやったのじゃ……
なつめ: くそっ、あたしらには何もできないの……
アスタシア: わたしにできるのはただ見てることだけ
なつめさんは隅にあるごみ箱をいまいましそうに蹴っていました。ブリキのごみ箱のガンガンという軽い音が響きました。