帰還
二人はなんとか店に帰りついた。
なつめ: 元締め……どうして、どうしてなの……
なつめはアスタシアに抱きついてわんわん泣いた。アスタシアも同じだった。
アスタシア: こんなことになっちゃうなんて……悪い予感がした時点で引き返せばよかった。なのに……わたしのせいなんだわ。
なつめ: なんで?
アスタシア: そもそも探しに出掛けなければこんなことには……途中で帰ってくることだってできたのに
なつめ: ううん、元締めが言わなかったらあたしが言ってたよ
アスタシア: それに、ゼロさんを見つけた時にすぐ病院に連れ帰っていれば……
なつめ: 誰が悪いわけじゃないよ
アスタシア: そうだわ。それはわかるんだけど……
なつめ: あんなにつんつんが好きだったひかりちゃんがかわいそうだよ……
アスタシア: なつめちゃんは?
なつめは答えるかわりにまた泣き出した。
アスタシア: ご、ごめんなさい
なつめ: あたし、わかってたんだ。つんつんが好きな子はひかりちゃんだって。さっきわかったよ……
アスタシア: え、ええ……なつめちゃん……
なつめ: でもね、せめてつんつんとひかりちゃんは幸せになってもらいたかったし、応援したかった。なのに、なのに……
アスタシア: ひかりちゃんに何と言ったらいいのか……だめだ。わたしはひかりちゃんにはとうてい報告できない
なつめ: だめだよ。嘘を隠し通すなんてできない
アスタシア: わたし、わたしの事だけで精一杯だもの
アスタシアはずっと形見の剣を胸に抱いていた。
なつめ: ひかりちゃんの事はあたしが告げるからさ。元締めは……元締めの……
アスタシア: でも、それはわたしの仕事だわ。はぁ……
なつめ: とにかく、今は何もできないよ
アスタシア: うん、今はまだ何もできないわ。落ち着いてから……
なつめはその場にくずおれた。
なつめ: お願い……しばらく休ませて……
アスタシア: ええ、もちろんよ。ゆっくり休んでね
なつめは床に寝転がって丸くなりながら延々とぐずついていた。アスタシアもソファに座ってぼうっと天井を眺めていた。
しばらくすると、店の電話が鳴った。
アスタシア: 電話!?こんな時に……
なつめ: あたしが出る
なつめは身体を起こそうとしたが、アスタシアが制した。なつめはまた身体を倒した。
アスタシア: いいのよ。休んでて。
なつめ: ごめんね
アスタシアが受話器を取ると、聞き慣れない女性の声がした。
イリア: もしもし
アスタシア: はい、こちら何でも屋です。何のご用でしょう?現在臨時休業中でして……
イリア: 私はイリアと言う。ストライクの妹だ
アスタシア: ストライクさんの妹さん!?
なつめ: 妹だって?
イリア: 兄はそちらにいないか?
アスタシア: あのぉ、まことに申し上げにくい事ですが……ストライクさんは……ストライクさんは……
アスタシアはその後言葉を続けることができなかった。しばらく受話器の前で泣いた。
アスタシア: 死にました……
イリア: 兄の生命反応が弱まっている
アスタシア: 弱まっている!?ということは!?
なつめ: いったい、どういうこと!?
イリア: ギグランツの反応もあったのだが、何かわからないか?
アスタシア: 何か薬品のようなものを使って、大爆発が起きて、あとは何も……いえ、形見の剣だけが……
イリア: 兄の身体は、森の川を流れてくるようだ。すまないが、行ってくれないか?
なつめ: いったいどういうこと!?
アスタシア: こうしちゃいられない
なつめ: 元締め!!早く行こう!!
アスタシアは受話器を放り投げて、そのまま店を飛び出した。
イリア: もしもし?
なつめ: あっ!!
川岸に倒れた人影が見えた。紫のハンタースーツだった。
アスタシア: ストさーん
なつめ: 無事だったんだ。
アスタシアは倒れたストライクに飛びついた。
アスタシア: よかったぁ
しかし、ストライクは苦しそうにうめき声を上げていた。
なつめ: でも怪我してない?早く病院へっ!!
アスタシアがストライクをかついで急いで帰ろうとしたところ、近くにもう一人誰かが倒れているのを発見した。
アスタシア: ゼロさん!?
なつめ: 無事……だったんだ
ゼロは気を失っているようだ。身体が冷たい。心臓も止まりかけていた。
なつめ: 身体が冷たいよ!!急いで、早く二人を病院へ!!
二人は大急ぎでシティの病院に駆け込んだ。
アスタシア: もう大変なんです!大至急お願いします!
なつめ: 早く治して!
看護婦は傷と異様な血を見て驚きながらも、二人をすぐに空いたベッドに寝かせた。
アスタシア: ほらほら、しっかりして。もう安心よ
なつめ: つんつん、死んじゃいやだよ〜
そこに、病院の先生が大慌てでやってきた。
医師: なんじゃなんじゃ、どうした?
なつめ: あ、先生、早く、とっととこの二人を治して!!
アスタシア: お願い!
医師: む、こりゃいかん!!お前ら、こいつらを運べ。すぐ手術じゃ
二人は病室からすぐに手術室に運ばれた。ストライクはその間も苦しそうにうめき、口から紫に近い色の血を吐いていた。
医師: こやつも相当身体を酷使しとるようじゃ
『手術中』のランプが点灯し、なつめとアスタシアの二人は外で数時間待たされることとなった。
アスタシア: 大丈夫かなぁ……大丈夫かなぁ……
なつめ: まだかなぁ
なつめはいらいらしながら、手術室の扉の前をうろうろと往復していた。