目的
ひかり: ここが……
遺跡はどこか異質な雰囲気だった。ひかりとゼロが入ってくると、待っていたアスタシアが腰を上げた。
アスタシア: あ、来てくれたのね。良かった。本当に一人だったらどうしようかと。
ゼロ: 一人で行かせられないよ〜。ストさんが帰ってきたら、僕殺されちゃう
アスタシア: ありがと。ではさっそく。
3人が一歩遺跡に足を踏み入れた途端、目の前に広がった凄惨な光景に圧倒された。モンスターも人間も含めて無数の死体が転がっており、そのほとんどは斬り殺されていた。
アスタシア: うわぁ、死体がごろごろ
ゼロ: ん?だれか、ここに来たね
アスタシア: ストライクさんね。追いかけましょう
ひかり: なんか……いやな感じがするよ……
ゼロ: そう?確かに気持ち悪い所だけど
アスタシアは一目散に奥の通路へと駆け出した。
アスタシア: こっちこっち!はやくはやく!
しかし、ひかりは周囲の風景を見て嘔吐感を覚えた。
ひかり: きもち……わる……い
ゼロ: 大丈夫?ひかりちゃん
ひかり: う……ん
ゼロ: 気をつけてね
ひかり: そ……だね
ゼロ: 一人で先行っちゃ危いよ〜〜
しかし、アスタシアは脇目もふらず前へ進んだ。そして、長い通路を抜け、部屋を駆け抜けて、と繰り返すうちに、目的のものを発見した。
アスタシア: あ。ストライクさん見ーっけ
ストライク: 何をしに来た
アスタシア: あなたを追いかけて来たのよ
ひかり: いちごタルト、ありがと。お礼言ってなかったし。ずっと会えてなかったから。
ストライク: 戻れ。
アスタシア: せっかくここまで来たってのに何言ってんのよ
ストライク: ここはお前達がいる場所じゃない。
ひかり: また戦うんだね……
アスタシア: ストさんならよくてわたしはダメだっていうの?そんなの差別よ!
ストライク: お前は……人を嫌な顔せず殺せるか……?
アスタシア: でき……
アスタシアは一瞬言葉につまった。
アスタシア: できますとも!
ストライク: 子供を殺せるか?無邪気な子供を……
ゼロ: 子供……
3人はその言葉に呆然とした。
アスタシア: いえ、ごめんなさい。強がりを言い過ぎました。
ひかり: ねえ、殺さないといけないの?……まだ
アスタシア: ストさんはそんなことをするっていうの?
ストライク: できるさ……
アスタシア: できるかどうかじゃなくて、やるの?
ストライク: やる……
アスタシア: なんでそんなことするの!
ひかり: もう……やめようよ……そんなの
ストライク: ……親に裏切られ……思いを寄せた人を殺され……そして、自分を捨てて機械となった
アスタシア: まったく、いつまでそんなこと言ってるのよ!
ひかり: そして、どんどん近づいていくんだよ。闇の波動に。
ストライク: 闇か……いいさ……闇に飲まれても……それが俺の死ぬ時だ……
アスタシア: よくない!残された人はどうなるの!
ひかり: 死ぬんじゃないよ。消滅しちゃうんだよ。存在そのものが……
ストライク: 俺には死んで悲しむ人はいない……
アスタシア: 悲しむ人はいない、ですって?まだそんなこと言ってるの!!
アスタシアはぷいっと後ろを向いた。
アスタシア: ホントにあなたの目は節穴ね。もういいわよ!勝手にしなさい!
そしてアスタシアは部屋をすたすたと出て行った。
ゼロ: わわ、アスタシアさ〜ん
ゼロが慌てて彼女の背中から声をかけたが、無駄だった。
ひかり: はぁ……はぁ……ここの感じ……変だ
ひかりはその場にうずくまった。
ひかり: きっとみんなのこころをおかしくしちゃうんだよ……何があるのか知らないけど、ここにいない方がいいよ
ストライク: 駄目だ
ひかり: おかしくなっちゃうよ。心が。
ストライクは何も言わなかった。ひかりはまた気分が悪くなってきた。と、ストライクが突然片膝をついて叫んだ。
ストライク: じゃ……ま……だ!
見るとストライクの身体から黒い霧が出ていた。
ストライク: はぁ……はぁ……
ゼロ: なになに?今の
ひかり: あれの事なのかな?おじいちゃんがここに決して近づくなって行ってたのは……
ストライク: くっ……ゼロ、ひかりを連れて一旦出ろ
ひかりも苦痛がひどくなってきた。頭をかかえて荒い息をしている。
ストライク: 早くしろ……ゼロ!
ひかり: 駄目……だよ……先に行っちゃ……駄目……
ゼロ: ひかりちゃんも。ここにいちゃ危険です。さっきから苦しそうでしょ
ひかり: でも……ストライクさんが……
ゼロ: ストライクさんは、私が追いかけるから
ストライク: 俺はアスを連れて出る。ひかりも出ろ
ひかり: じゃあ……帰ってくれる……んだ……ね……よかっ……た……
ひかりやよろよろと立ち上がった。
ひかり: じゃあ……一緒に……行……こう…………さぁ……
ストライク: 先に出ろ……アスを探さなくてはいけない
ひかり: うん……早く探して……
ストライク: 必ず戻る
ゼロはひかりの手を引いて、入ってきた扉へ引き返そうとした。ひかりもとぼとぼと歩き出した。
ゼロ: ひかりちゃん、行くよ。しっかし、ここに何があるんだろ?
ひかり: うん。早く探してきてね……
ひかりは心配そうにストライクを何度も振り返って見ていた。
二人が部屋から出て行ったのを確認すると、ストライクは刀を握りしめて反対方向へ出ていった。
ストライク: すまんな……俺は悪い大人だ
ひかりとゼロは、通路を抜けた先の部屋でアスタシアを発見した。
ひかり: 元締め……
アスタシア: あれれ?ストライクさんは?
驚いたのは、3人とも同様だった。
ひかり: どうして……ここに?
アスタシア: どうしてって……
ひかり: ストライクさんが、元締めを探してくる……って言ってたのに……
アスタシア: え!どこへ!?
ひかり: わからないけど……
ゼロ: 先に進んだのかな?
アスタシア: もしかしてわたしのせい!?まったく……で、あなたたちはどうするつもりなの?
ゼロ: どうするって……行くしかないでしょ
ひかり: ここにいたらおかしくなっちゃうよ……早く止めないと
アスタシア: 追いかけましょう
ゼロ: 私は全然平気だから、ひかりちゃんは戻った方がよくない?
ひかり: 早く……しない……と
ゼロ: ひかりちゃんは戻った方がいいよ
ひかり: 止めないと……
ゼロ: 止めるのはまかせて
アスタシア: これはお仕事でも何でもないんだから、無理して来る必要はないわ
ひかり: ストライクさん……から……変な感じ……した……から……このままだと……
ゼロ: それに、そんな状態じゃ、危いですよ〜
ひかり: ひかりが……止めないと……このままだと……
アスタシア: とにかく、時間ももったいないから、行くなら行く、帰るなら帰る、はっきりしなさい。じゃあね
アスタシアはそう言うと、奥の方へ向かう通路にさっさと走っていってしまった。ひかりも脇目もふらずついていった。
ゼロ: ふぅ。私だけでも冷静でいなきゃね。さて、追いかけるかな