森の奥で
ずっと気持ちよく晴れていたのに、森の奥ではじとじとと雨が降っていた。悲喜こもごもの4人。
なつめ: 雨だっ!!
アスタシア: 雨か……
ゼロ: 雨〜〜♪
そんな中、なつめがまた大きな声を上げた。
なつめ: あっ!!
アスタシア: また?
なつめ: ってかたつむりかよ
アスタシア: なあんだ
がっかりする3人を後目に、ストライクはかたつむりがよたよた歩いている葉っぱに近寄った。
ストライク: 見つけたぞ……
なつめ: なぬっ!?どれどれ?
アスタシア: どこどこ?
後の3人もあわてて近寄った。
ストライク: 2つ目確保……
ゼロ: ほんとだ〜。すご〜い。わたしも見つけるぞ〜
なつめ: さっきのとおんなじだ〜。がんばるぞ〜
アスタシア: なぁんだ。ごろごろしてるじゃない。
ゼロ: わたしたち運いいね〜
なつめ: 悪運が強いのかもね
片隅にぽつんと置いてあったスイッチを見つけて、ゼロが走り寄った。得意気にスイッチを操作するゼロ。その背後から突然ブーマのおたけびが聞こえた。後ろ三方を4匹のブーマに阻まれ、前は大きなスイッチ操作盤だ。
すぐに後の3人が追い付いて乱戦になったため、幸い大事には至らなかった。
ゼロ: びっくりした〜 いきなり出てくるんだもんなぁ
なつめ: 大丈夫?
アスタシア: 気を抜いちゃだめよ。いい?
ゼロ: はい
なつめ: は〜い
森をさらに進むと、いつも見かける例の柱があった。
アスタシア: あっ、あの柱だ
ストライク: また……か
ゼロ: ほんとだ〜
なつめ: どうしても壊れないんだよなぁ
アスタシア: 何なのかしらね
ストライク: 気になるな
アスタシア: 気になる?やっぱり?
なつめ: 変な形してるから気になるのかなぁ?
アスタシア: あの柱の前で調子が良くなったり悪くなったり、いろんな人がいるから、やっぱり気になる
なつめ: 皆それぞれだね。あたしは関係ないけどさ
アスタシア: わたしはなんともないからよけい気になる
なつめ: あの柱見てるとさ、どうも壊したくなる
アスタシア: あはは。なつめちゃんは何を見てもそうでしょ
なつめ: あうっ!!
アスタシア: まだ総督府での分析ってできてないのかしら?
なつめ: いいじゃん、分析できてなくてもさ。これはこれで風流だし。
アスタシア: でも、やっぱ気になるし
なつめ: そうだな……
なつめは柱の前で少し考え込んでいた。そして、懐からペンを取り出した。
なつめ: 落書しちゃえ
ゼロ: これこら
アスタシア: あ、あ、そういうことをすると……って、止める必要ないか。どんどんやっちゃっていいわよ〜
なつめ: これで森に来た記念になるだろう
なつめは何でも屋のメンバーを描いていた。
そんななつめを見ながら、ストライクはなおも考え込んでいた。
ストライク: 森……洞窟……坑道……すべてにあの柱がある。それに……夕暮れ時にこの森に来た時……エネミーが強くなっていなかったか?
アスタシア: ええ、なんか動物たちが変な形になってたわ
なつめ: あれ?もとからそんな形じゃなかったの?
ストライク: 夜が近づくと力が強くなるのかもしれんな……
なつめ: 夜になると強くなるなんてまるで吸血鬼みたいだね
ストライク: ふむ……
ゼロ: なんでだろうね
アスタシア: 夜行性なのかな?
なつめ: みんな柱のせいで夜遊び好きになったのかな?
ストライク: 亡霊のたぐいかもしれん……
アスタシア: 亡霊?まさか。そんなものがこの世にいるとでも?
ストライク: あながち違うとは言いきれんぞ……
アスタシア: まさか。お話だけでしょ
ストライク: 人の意思は強いものだ……意思の力でどうにかなるかもしれん
アスタシア: うーむ、難しくてよくわかんないけど
なつめ: へぇ。ぜんぜんわかんない
ストライク: 意思の力の最たるものがテクニックだ
なつめ: それがイシの力だったのか……
ストライク: つまり、テクニックで身体は死んでも、魂は生き残るかもしれん……ということだ
アスタシア: 死後の魂ってやつね
ゼロ: 魂か……
なつめ: よくわかんないけどすごいね
なつめは感心したように言った。そして、思い出したように走り出した。
なつめ: おっといけない。いちごだっ!雨でいちごが腐ったらどうしよう
アスタシア: ちょ、ちょっと、そんなに急がなくても……
残りの3人も慌てて後を追った。
アスタシア: ドームだわ
アスタシアの目の前には、パイオニア1の残した巨大なドームがあった。
アスタシア: ドームの近くってことは……ここかな?
なつめ: どこかにないかなぁ?
4人はあちこち探し回ったが、いちごは見付からなかった。
アスタシア: うーん、壁がコンクリートではなぁ
なつめ: さすがにないでしょ
アスタシア: だめね
アスタシアはふーっとため息をついた。そしてストライクに向き直った。
アスタシア: ねね、ところでさ、ストライクさん
ストライク: なんだ……
アスタシア: 一つ、ずばり聞くわよ。姫って女の人とあなたとの関係は?上司、ってのはわかってるけど
なつめとゼロはその雰囲気に気がついて、ちょっと二人から離れて見ていた。
なつめ: やっぱ気になってるんだ
ゼロ: そうだね。私たち邪魔かな
ストライク: 上司と部下、仲の良い友人、手のかかる妹……
アスタシア: へー、仲がいいんだ。友人?妹?
ストライク: ああ……
アスタシア: うーん、妹のためにいちご狩り、か……わかったわ。今ひかりちゃんのためにいちご狩りしてるようなもの?
ストライク: ああ……一言言っておく。姫に恋愛感情は一切ない
アスタシア: そうなんだ。ふーん。わかったわ
ストライク: そうか……
アスタシアはふらふらと戸口の方へ出ていった。そこにはなつめとゼロがにやにやしながら待っていた。
ゼロ: もういいの?
アスタシア: あ、待っててくれたの?別によかったのに
ゼロ: なんか、とりこんでたみたいだから。どうしたの?
アスタシアは何かを考え込んでいた。
アスタシア: ストさんの言ったこと、本当かしら
ゼロ: う〜ん、嘘は言わないよね。ストさんって
ゼロはにこりと笑った。
なつめ: そうだそうだ
アスタシア: まあね
ゼロ: じゃ、そういうことですよ
アスタシア: でも、どういうつもりなのかいまいちわからない。心の奥がわからないのよね。あの人。
ゼロ: もっと自信持っていいと思うけどなぁ〜
アスタシア: やだぁ、いつの間にお世辞を言うようになったの
ゼロ: あはは。お世辞じゃないよ〜
アスタシア: ま、そこでお世辞だって言ったらなつめちゃん並にぶん殴ってるとこですけどね
ゼロ: こっ怖い〜
アスタシア: あ、変な話してごめんなさいね。先行きましょう
アスタシアの掛け声に従って、一行は歩き始めた。
なつめ: 残るはあと2つ!
アスタシアとなつめを先頭にして4人は歩き始めた。ゼロは後ろでストライクにこっそりと耳打ちをした。
ゼロ: ストさん〜、もっとしっかりつかまえとかなきゃ
ストライク: ゼロ……俺がいなくなったら……三人を頼むぞ
ゼロ: なんですか、いきなり〜
ストライク: もしもの話だ……
ゼロ: もう、冗談はよしてくださいよ〜。とにかく、しっかりつかまえなきゃだめだよ
ゼロとストライクが話をしている間、アスタシアとなつめの二人はそそくさと先に進んでしまって、木の陰から様子を見ていた。
なつめ: 男二人でなんかやってるぞ
アスタシア: ふふふ、ここなら見えないでしょう
なつめ: ばっちり聞こえるね
とこっそりと会話を聞いていると、二人が戻ってきた。
ゼロ: おまたせ〜
なつめ: 遅いっ!!
アスタシア: あ、えーと、お話終わった?
ストライク: ああ
アスタシア: 何話してたの?
なつめ: 木になるなぁ
ストライク: 色々と、な……
ゼロ: ひみつ〜
ゼロは笑って言った。