何でも屋13: ひかりと影

ひさしぶりに何でも屋に帰ってきたひかりちゃん。でも、なんだか様子がおかしいのです.

慈悲

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ひかりの目がかすかに動いた。ゼロはひかりの身体を揺さぶった。
ひかり: ん……
ゼロ: ひかりちゃん、しっかりして
ひかり: かわいそう……あの子、かわいそう。憎しみと悲しみに支配されて……
アスタシア: あの子?そんなことより、ひかりちゃんは大丈夫なの?
ひかり: 大丈夫みたい……だよ
その声を聞いてアスタシアはほっと一息ついた。ストライクはそんな3人に背を向けると一歩足を踏み出した。
ストライク: 決着をつけてくる。自分のミスは自分で消す
アスタシア: ストライクさん、いいじゃない。そんなの放っておけば
ひかり: 待って。ひかりも行くよ。このままだとあの子がかわいそう……きっと寂しかったんだよ。ひかりがお話を聞いてあげる
アスタシア: さびしい?
ひかり: うん。誰にも望まれず、生まれることさえ出来なかった悲しみ。それが積み重なって強い憎しみになったんだよ……かわいそう……ストライクさん、とにかくひかりも連れてって。あの子、ほっとけないよ。準備はできたよ
アスタシア: まったく……どんな境遇だか知らないけど、他人に迷惑かけるなんて最低よ
アスタシアは吐き捨てるように言った。だが、ストライクとひかりの2人はドームへ通じる転送機へとどんどん足を進めた。
ゼロ: アスタシアさん?
アスタシア: 困ったわねぇ
ゼロ: 仕方ないですから行きましょう。ここまで来ちゃったらね。私もほんとはこれ以上は進みたくないんですけどね
アスタシア: もう、ほんとに……使命感が強いというかなんというか……人生、もうちょっとお気楽に過ごせないものかな
ゼロ: そうですよね。楽しく生きられないのかなぁ
アスタシア: 今の発言、ゼロさんには当てはまりませんからね
ゼロはにこっと笑って空を見上げた。その時、ドームの方から声がした。
ひかり: 元締め〜、ゼロさ〜ん
ゼロ: もう、いつもいつも僕を置いていくんだからぁ……待ってくださいよ〜、みんなぁぁ


アレス: クハハハ! ツイニ身体ヲ手ニ入レタゾ。アトハコノ場所カラ森ニ出ルダケダ!
ひかり: やめて! 待ってて。ひかりが今行くよ
アレスはドラゴンと融合した。雄叫びはドーム中に、いやドームを越えて外まで聞こえた。
ひかり: もうやめてよ、アレス。誰も喜びはしないんだよ。
ひかりはドームの中に向かってそう言うと、皆の方を向いた。
ひかり: 助けてあげられないかな……ストライクさん。何か方法はないのかな……ひかりはアレスを助けてあげたいけど……
アスタシア: どうやって助けてあげるっていうの?
ひかり: このままほっとくわけにはいかないし……ひかりは説得してみるよ
アスタシア: 説得!?できるのかな……
ひかり: とにかく行ってみる。じゃあ、行こう……ストライクさん。
ストライクは首を横に振った。
ひかり: 絶対ひかりは行くからね
アスタシア: もし説得できなかったら?
ひかり: でもひかりは会いに行きたいんだ。アレスに
アスタシア: 会って、説得できなかったらどうするのよ?はい、だめでしたで済む話ならわたしもこんなに言わないわよ
ひかり: 駄目かもしれない……けど、でも何もしないのも嫌なの。ごめんね、元締め。どうにもならなかったら、ストライクさん、後はおねがい
ストライク: 殺す……それまでだ

しばし4人の間には重苦しい沈黙が続いた。それを破ったのはゼロだった。
ゼロ: 私も行きますよ〜
アスタシア: え?ゼロさんも?今日はどうしちゃったのよ?いつもなら真っ先に逃げ出すくせに
ゼロ: だって、人数多い方が生き残る確率高いでしょ。なんか、今日は力が湧いてくるんだ
ゼロはふふふと笑った。
ストライク: 好きにしろ……
アスタシア: うーん、わかりました。そういうことならわたしも行きます
ストライク: そうか……ひかり、ゼロ……アスを頼むぞ
アスタシア: え?わたし、ゼロさんにも頼まれちゃうわけ?
ゼロ: なんですかそれは〜〜
ストライク: 行くぞ

4人は揃って転送機に乗った。


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アレス: 見ロ! コノ俺ノ姿ヲ! クハハハハ! 今コソ復讐ノ時ダ
ひかり: アレス、もうやめて! 心が痛くなるだけだよ
アレス: ウルサイ。コノ復讐ガ今ノ俺ノスベテダ。クラエ、我ガ恨ミノ一撃ヲ!
ドラゴンの攻撃は激しかった。口から吐き出される冷気は身も心も凍りつくようだった。長い激闘の末、ドラゴンは倒れた。
アレス: バカナ……マ……マダァァァ
ドラゴンの身体から何かが抜け出し、ひかりの中に入った。
ひかり: あ……う……
アスタシア: どうなっちゃったわけ?
ひかり: ストライク……貴様……ニ……
ひかりは突然また苦しみ始めた。
ひかり: お願いだから……
ひかりの背中に生えていた羽に変化が現われた。黒い羽が白く変わった。ひかりは羽をいとおしそうになでた。
ひかり: うん……さびしかったんだね……もういいんだよ。ひかりが全部聞いてあげるよ
アレス: アリガトウ
ひかり: うん……もう、おかえり
ひかりの羽が消え、光が天に昇った。
ひかり: さよなら……アレス……
ストライク: 眠れ……愚かなりし研究と共に……
アスタシア: ひかりちゃん、終わったの?
ひかり: うん
アスタシア: ひかりちゃん、本当にもう大丈夫?
しかし、返事はなかった。ひかりは気を失って倒れていた。
アスタシア: あらら。ひかりちゃん、疲れたのね。きっと。