楽しい旅
4人は洞窟の入口に集まった.
冴: ごめ〜ん, 自己紹介まだだっけね
アスタシア: え, いいんですよ
冴: なんで?
アスタシア: お客様のプライバシーは尊重します
冴: そういう問題じゃないでしょ. 相手が誰かもわからずに商売なんてできやしない
ゼロ: じゃ, ひかりちゃん3号で
ゼロはくすくす笑った.
冴: なんでやねん!!
冴は持っていた鎌をゼロに向かって勢いよく振り降ろした. もちろん本気で狙っていたわけではない.
冴: た〜く
ゼロ: わわ, あぶないじゃないですかぁぁ
冴は大きな鎌を垂直に立て, 一息ついた. 逃げていたゼロがおそるおそる戻ってきたところで話し始めた.
冴: あちきは冴っていうんだ.
アスタシア: 冴さんですね.
冴: まぁ, 噂で何でも屋がすごいってことを知っていたから
アスタシア: そりゃ, なんてったってPSO7位の実力ですから
冴: あはは
冴は一通り笑った後, 不満げに言った.
冴: あちき名のったんだから名前おせーてよ
ゼロ: 私はゼロです〜
アスタシア: わたしは, この何でも屋の責任者のアスタシアと申します
ストライク: ストライクだ……
冴: それじゃ, まいりましょっか!!
ちょうど冴が一歩を踏み出そうとする時, タイミング悪くアスタシアが声をかけた. 冴は憮然とした.
アスタシア: 冴さん, 失礼ですが, ラグオルに降りたことは何回くらいございますでしょうか?
冴: うーん, 知らない. 覚えてないよ
ゼロ: いっぱいあるんだ
アスタシア: 覚えていないくらいたくさんでございますか?
冴: 覚えてないくらい少ないのよ
冴は残念そうに言った.
アスタシア: あらら
ゼロ: そうなんだ
アスタシア: 一般人のお客様にはわたし共も怪我のないように最新の注意を払うことにしておりますが, 慣れたお方にはそれはかえって迷惑なので, それでお聞きしたのでございます.
ストライク: うんうん. なるほどねぇ. 気のきいたサービスだねぇ
アスタシア: そう言っていただけると光栄です
冴: 気にいった!! よし, それじゃ, 行こう
アスタシア: はい
一行は意気揚々と洞窟に入っていった.
洞窟にはいつものようにシャークやかまきりでいっぱいだった. しかし, 銃やテクニック, そしてストライクの剣と冴の鎌で, なんなく退治した.
アスタシア: 十分お強うございますね. いらぬ心配でした
ゼロ: 私が守らなくてもいいですねぇ
冴: つまり, 一人で行けってことかいっ!!
冴は語気を荒げた.
ゼロ: そんなこと言ってないじゃないですかぁ
アスタシア: いえいえ, とんでもございません
冴: ごめん, 言いすぎた
アスタシアは小声で独り言のように言った.
アスタシア: 一人で行ってしまわれるとわたし共の報酬が……
冴: そうだね
アスタシア: あーいや, 何でもございません
冴: みんなで行こう!! おーっ!!
冴は自分のかけ声に自分で返事をすると, 勢いよく洞窟の奥へ駆けていった.
ゼロ: うーん,おてんばさんだ
冴: 何か言った?
ゼロ: いっ, いえ, 別に〜です
冴: あはは
笑う冴の後をゼロは冷汗をたらしながら追いかけた.
冴: しかし, みんな強いねぇ
アスタシア: 皆さん, 大丈夫? なーんて聞くまでもなさそうね
洞窟に巣喰うシャークや巨大花などは軽く退治されてしまった.
冴: あはは. 大丈夫大丈夫. 宇宙が滅びても死ぬ気はないね
ゼロ: 気はなくても死んじゃうよ〜
冴: まあ, これだけ皆強けりゃ楽に行けそうだよ
アスタシア: ええ, 大船に乗ったつもりで安心してください
今回の依頼はそんなに大変なものじゃない. 一行に安堵感が広がった.
ゼロ: 天然水ってどんな味なんだろうね
冴: なめてみないとわかんないよ. でもパイオニア2の水はまずいっ!!
アスタシア: なめてみてわかるものなんですか?
冴: まぁ, 味がないほどおいしいのかな?
アスタシア: うーむ, わたしにはわかりそうもないわ
ゼロ: 天然水かぁ. どんなんだろ. 飲んでみなくちゃ
楽天的ムードの中, 一行はストライクを先頭に細い通路を抜け, 広い空洞に出た. 冴が喜々として空洞の中に足を踏み入れた途端, かすかな音がして天井から爆弾が現れた. ストライクがすかさずそれを射ち落とした.
冴: トラップだ. 壊してくれてありがとうね
ストライクは無言でうなずいた.
冴: しかしさぁ, なんでストライクさんはあんまししゃべらないの? おしゃべりした方が人生楽しいよ〜〜
アスタシア: 男の人はあまりおしゃべりはしないものですよ
冴: なぬっ!? ってことは, ゼロさんは女性ってこと? よくしゃべるじゃん
ゼロ: あぅ, 違うよ〜
アスタシア: 中にはそういう人もいますけどね
ストライク: 確かに女々しいな……
ゼロ: あああ〜〜〜, なんですかそれは〜〜
ゼロは非難とも嘆きともとれるようなうめき声を上げた.
冴: まあ, 女々しいからダメってことはないよ. あちきはどっちかというとおしゃべりしている人の方が好きかなぁ. ストライクさんには申し訳ないけどね.
アスタシア: ゼロさん, 好かれてるのね. よかったわね.
ゼロ: むむむ〜
冴はさっそく歩き出そうとしたが, そこには入ってきた扉とは別に扉が2つあった.
冴: あれ? 道どっち?
アスタシア: ほら, ゼロさん, 出番ですよ
ゼロ: えと, 道ね. ちょっとまって. えとえと……
ゼロはポケットから手書きの地図を取り出した.
冴: なるほど. ゼロさんはマッピングが得意なのね. 一家に一台欲しいなぁ
アスタシア: 男の人の方が地図は得意なんですよ
しばらくゼロは地図を指でたどりながら見ていたが, やがて顔を上げた.
ゼロ: こっちだ〜〜〜
冴: 行ってみよう
ゼロが指さした方の扉を開けると, 短い通路があってその先は転送機のある部屋でした.
冴: なんだ?
アスタシア: これ?
ゼロ: たぶん
冴: ゼロさんを信じよう
4人は転送機に入っていった.
冴: うらーー!!
冴は元気よく敵を蹴散らしながら洞窟を駆けていった.
冴: いぇーい!!
扉に到達した4人は, 勢いよく扉を開けた. しかし, その奥は……
冴: あのさぁ, いきどまり?
ゼロ: まぁ, こんな時もあるでしょ
ゼロはあわてて地図をまた取り出した.
ゼロ: 地図逆さまだった……
冴: 気にしない気にしない
ストライク: 戻るぞ……
4人は来た道をまた元気よく駆けていった.