はじまり
こんにちは. 今回, 私はラグオルの一市民として, この場を借りて意見を述べさせてもらいます. ハンターズの皆さんの目に止まるであろうこの場所であえて話をさせていただきたいのです.
私の父は小さな喫茶店兼レストランを経営しておりまして, 私もそこでウエイトレスとして働いています. 「家庭的で暖かいお店」をモットーに, 大繁盛とまではいかないながらも近所の皆さんによく利用していただいています. そんなうちの店に, とある女性のハンターズの方が「貸し切りでパーティーを開きたい」といらっしゃったのです. 父は心良くOKしました. 「日夜私達のために戦ってくれているハンターズさん達に感謝を込めて, とびきりの料理を作ってやらねば.」と, いつもの仕事のかたわら夜遅くまで創作料理に挑戦したり,仕込みをしたりと, それはもう張り切っていました. 私も失敗作を何度食べさせられたことか. カレンダーに○印をつけ, この日の来るのを待ち構えていたのです.
そして, いよいよ当日. 予約時間にいらっしゃったのが, 私と同じくらいの年の青い服を着た女性と, 頭をつんつんに逆立てた若い男の人でした(後から聞いた所によると, なつめさんとゼロさんという名前だそうです). そして,予約の時にもいらっしゃった, アスタシアさんという若草色の丈の長いワンピースを着た女性の方が小さい女の子を連れてやってきました. 私はもっと筋肉ムキムキの男の人がやってくるのを予想(そして少し期待)していたので少し戸惑いを感じました. 私がさっそく料理をお出ししようとすると, まとめ役らしい一番年上の女の人(緑の服の方です)が, まだ全員揃っていないから少し待ってほしいという事を言っていました.
しばらくすると, 店の扉に取り付けてあった鈴がカランカランと鳴ったかと思うと, 一人の女の子(ひかりさん, という名前だそうです)が顔をのぞかせました. 走ってきた様子で, 息を切らせていました.
ひかり: ごめ〜ん, 遅れちゃったぁ.
彼女はそのままテーブルまで走り込んできました.
ひかり: 本当はね, ひかりのおじいちゃんが来るはずだったんだけど, 持病の腰痛が悪化して来れなくなったんだぁ
なつめ: あのじーさんか. なるほど
アスタシア: あららぁ. 残念ね
ひかり: 元締めとなつめちゃんはひかりのおじいちゃんに会った事あったよね
なつめ: じーさんあたしのこと犬呼ばわりしてた
ひかり: ぜひ, ゼロさんとだじゃれ対戦してほしかったのになぁ
彼女は自分の席に着くかと思うと, テーブルを回り込んでアスタシアさんの所に駆け寄って, 写真を見せていました.
ひかり: 元締め〜, これこれ〜. きれいに撮れてるでしょう
なつめ: うわ, 写真写りわる〜い
女性陣がはしゃいでいる中で, 一人だけ眠そうにしているゼロさんが印象的でした.
私がいつ料理をお出しすればいいのだろうかとじっと待っていると, アスタシアさんがぱんぱんと手を叩いて, それで皆静かになりました.
アスタシア: みんな揃ったし, はじめるわよー
なつめ: あれ? ストライクさんは? 今日も無断欠席?
アスタシア: それがねぇ, 大怪我で入院なんだって
なつめ: つばでもつければ直ると伝えといて
そして, やっと皆席につきました. しかし, ゼロさんは一人うつらうつらしていまして, ひかりさんがつっついて起こしていました.
ひかり: 昨日のお仕事が忙しかったのかなぁ
ゼロ: あっ, みんな集まってる〜〜. みんな遅いから僕寝ちゃってたよ〜〜
アスタシア: 文句はひかりちゃんに言ってね
ひかり: だってぇ……
なつめ: だってもへったくれもない!
ひかり: ひかりのおじいちゃんの腰痛が悪いんだもん. くすん
なつめ: まぁまぁ
なつめさんはそう言ってひかりさんのコップにオレンジジュースを注いでいました. しかし, 当のひかりさんはカウンターの奥の私達を覗いていたのです.
ひかり: ねえねえ, 元締めえ, ひかりの好物の苺タルトはちゃんとあるかなぁ
アスタシア: どうでしょう? 聞いてみて?
アスタシアさんはこちらをちらりと見ました. 実を言うと, 甘い物はあまり準備していなかったのです. てっきり皆さん肉料理なんかを豪快に食べるんだろうと勝手に思っていたものですから. しかし, リクエストには精一杯答えるのが私達のモットーです. さっそく父は準備にかかりました.
なつめ: 元締めが料理をセッティングしたんじゃないの?
アスタシア: 料理は店の人が適当に作ってくれるって
そうです. 私達はこの日のために料理の献立やお出しする順番をいろいろ考えていたのです. でも, 私達も料理人のはしくれ, お客様の注文とあらば何でもお作りいたします.
アスタシア: でも, その前にみんな飲み物の準備してね. 乾杯するわよ
なつめ: お〜〜
なつめさんは, ゼロさんが横を向いているのをいいことに, な, なんと, コップにタバスコを注いでいるではありませんか. ああ, もったいない. それ, そんなに安いものではないんです.
ゼロ: なにこれ〜
なつめ: タバスコだよ
ゼロ: 飲めないですよ〜〜
なつめ: どれ, 試しに飲んでみよう
なつめさんはそう言ってタバスコの入ったコップに口をつけると, そのまま赤い液体を一気に口の中へ! 私まで顔をしかめてしまいました.
なつめ: か, 辛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
ゼロさんはそれを見てふふっと笑うと, カウンターの上のオレンジジュースに手を伸ばしました.
ゼロ: さて, ジュースっと
なつめ: ちっ, 飲まなくて正解だったな
私がハンターズに対して持っていたイメージは見事に崩れ去りました. なるほど, ずば抜けた体力を持つお笑い芸人さんなのかもしれません.
一方, 小さい女の子は部屋の片隅でカウンターの陰に隠れるようにして座っていました.
ジーニ: ふにゅ……いいのかなぁ, ここにいて……
アスタシアさんが再三声をかけると, やっと皆の前のコップにまともな飲み物が用意され始めました.
ひかり: 用意したよぉ, 元締め
なつめ: ねーさん, あたしポン酒!!
私が一升瓶をカウンターに置いて別の容器に移し変えようとすると, なつめさんは即座に瓶ごと持っていってしまいました. うれしそうに一升瓶を振り回しています.
ひかり: みんな飲むぞ〜〜!!
ひかり: ひかりはお酒飲めないよぉ
アスタシア: えー, いきなりポン酒? 最初はビールくらいから……
なつめ: まあ, 無理は言わない. 飲みたきゃ飲んでよ
なつめさんは一升瓶をそのまま自分の席の横に置きました. もしかして全部飲むつもりでしょうか? 人は見かけによらないものです.
ひかり: なつめちゃんってお酒飲んでいい年だっけ?
なつめ: お酒は二十歳になってからだよ. あたしは二十歳だから大丈夫だよ
ひかり: なつめちゃん……20才なのお? え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜,うそだぁ
なつめ: まあね. 人は見かけによらないから
ジーニ: にゅう……私……まだ……一歳
なつめ: まあ, ニューマンの成長は早いっていうしさ. 一歳でも二十歳でも同じだよ
なつめさんはそう言うと, 椅子の脇にある一升瓶を持ち上げました. まさか……
なつめ: ジーニちゃん, 飲もう
と言って自分のコップにお酒を注ぐと, ジーニちゃんのコップにはオレンジジュースを注いでいました. 私はちょっと安心しました.
ゼロ: えと, 私はいくつだろ?
ゼロさんは急に腕組みをしながら考え込んでしまいました. 自分の年もわからないなんて……もしかして触れてはいけない話題だったのかも.
アスタシア: ゼロさん, 何悩んでるの?
ゼロ: えっ? いや, その……あはあはは. なんでもないよ
なつめ: 歳数えるのに指足らないの? 貸したげよっか?
なつめさんは自分の手を差し出しました. そういう問題なの?
ゼロ: いっいらないですよ〜
なつめ: 今なら指圧マッサージのサービスもしてたのに
なつめさんは本当に残念そうな顔をしていました.
アスタシア: ひかりちゃんは?
ひかり: ひかりは苺タルトがあればいいよ
ひかりさんはまた厨房をのぞきに来ました. 突然だったので大きなタルトは用意できませんでしたが, 一口サイズのタルトケースがちょうとオーブンから焼き上がってくる所でした. 大急ぎでクリームを詰めてお出ししました. 彼女の喜ぶ顔がとても印象的でした.
私は皆さんを見ながら一つ疑問に思うことがありました. いつになったら始まるのだろう, と.