冒険の対価
4人の目の前にいたのは、大きな翼を広げたドラゴンでした。その幅は4人が手をつないで広がったよりもずっと大きく、頭だけで自分の背丈と同じくらいあります。
ミル: うわあ、なにこれ!
ウォン: うおーーー! かっこいいい
ウォン君が叫んでいると、ドラゴンは空中から地面に向かって炎を吐き出しました。
ミル: あちち
ウォン: ドラゴンだぜあれ、ドラゴン! かっこいいいいいい! すっげーでっけー!
ウォンが回りを見渡すと、女の子たちは思い思いに散っています。
ミル: こわいよー
ウォン君は視線を空中から自分の手元に移すと、剣を握り締めました。
ウォン: やるぜ、俺はドラゴンバスターになるぜ!
ウォン君はそう叫ぶと、剣を前に突き出し突進していきました。
ウォン: でりゃあ!
ドラゴンの活動範囲は空中だけではありません。固い角のついた頭を下にして急降下すると、一気に地面の中に潜って見えなくなりました。
ウォン: うおー、潜ったーー。すっげーすっげー
そして地中から妙な盛り上がりが発生すると、それが猛スピードで走り回ります。
ミル: 助けてぇ〜、痛いよ〜
ウォン: うおおー!
アヤちゃんがドラゴンに氷の矢を放ちました。かなり高度なテクニックです。これが、熱い所が好きなドラゴンには相当のダメージでした。地面でぐったりしている所をマットちゃんとウォン君が剣でめった打ちにします。ようやくドラゴンはばったりと倒れて、そして静かになりました。
ウォン: やったー!
ウォン君はばんざいしました。そして、ミルちゃんはと見ると、隅にしゃがみ込んでいます。
ミル: うわーん、お母さーん
マットちゃんとアヤちゃんがミルちゃんの所まで駆け寄ってきました。
アヤ: 大丈夫〜?
ミル: 終わった、の?
マット: うん
ミル: よかったぁ
ミルちゃんは力のない笑顔を見せて立ち上がりました。
ウォン: すっげーすっげー、見たかよアレ。かっこいい〜
ウォン君は倒れたドラゴンに見とれていましたが、女の子3人が帰ってくるのに気がつきました。
ウォン: 俺が倒したからな!
ミル: ウォン君が?ホント?
ウォン: ほんとほんと
ウォン君はミルちゃんの心持ち下を向いている顔に気付きました。
ウォン: 泣くほどこわいんなら言えば良かったんだよ
ミル: ミル大丈夫だもん! 泣いてなんかないもん!
ウォン: ま、いいけどさ……怪我しなくてよかったぜ!
その間、マットちゃんはあたりをきょろきょろ見回していました。
マット: そうそう、お宝は?
アヤ: ドラゴンがお宝?そんなことは言わないよね
ウォン: 何言ってんだよ、あんなすごいもん見といて。結構なお宝じゃねえか
アヤ: あんなのお宝じゃないもん
ウォン: あー、てめえらロマンってのが解ってねえ! あれは最高のお宝なんだよ、わかんねえのか?
そしてウォン君は自分の剣を見せびらかしました。
ウォン: そして俺がこの手でアレを倒したことがお宝だ! すげえぜ、手が震えるぜ
ミル: わからない! なーにがお宝よ、つまんないの……
アヤ: 見解の相違ってやつね
ウォン: ったく解ってねえ、ホントに解ってねえ
ウォン君はがっかりして手を引っこめました。
アヤ: 罰ゲーム、罰ゲーム、罰ゲーム、罰ゲーム
マット: 罰ゲーム何がいいかな?
ウォン: ばかやろう、お宝あったんだから罰ゲームは無しだ!
すると、マットちゃんはアヤちゃんとミルちゃんに頭を寄せて小声で話しかけました。
マット: ねえ、アヤちゃん、ミルちゃん、ドラゴンの次に倒すモノ見つかったね
ミル: なに?
マット: あそこの人
マットちゃんが指さした先には、ウォン君の姿がありました。
ウォン: お、おいおい、待てって
ミル: 約束だもんね
アヤ: 罰ゲーム
ウォン君は、女の子3人の視線に気がつくと、一目散に走り出しました。
ウォン: じゃ、そういうことで
ミル: そういうことってどういうこと?
アヤ: 逃げるの?男の子でしょ?
ウォン: 逃げるんじゃないない、家に帰るんだ! どけー!
女の子の間を無理矢理駆け抜けると、パイオニア2への転送ゲートにさっさと乗りました。
ウォン: みんな寝る前には歯を磨けよ、怒られるぞ
そして、さっさと行ってしまいました。
ミルちゃんは、パイオニア2に戻ると、家までの道のりをとぼとぼと歩いていきました。家には怒ったような、心配したような顔のお母さんが待っていました。
お母さん: どうしたの?そんな格好で、こんな遅くまで!
ミル: お母さん、あのね、ウォン君に連れられて、森で迷子になっちゃったの〜
お母さん: まあ
ミル: ミルじゃないもん! ウォン君のせいだもん!
アヤちゃんは、パイオニア2から家に戻る道々、腕組みしながら考えていました。
アヤ: やっぱり男の子ってわかんないわねー。さあて、どうやっていじめるか考えないと……
アヤちゃんは一人でふふふと笑いながら歩いていきます。
アヤ: えーと、ああしてこうして………
マットちゃんは、家に帰ると、さっそくデータを主任に渡しました。
主任: 修復代、ウォン君の家に送っておくか。10万メセタくらいだが……
主任はいろんな器具がいっぱいつまった棚からごそごと何かを探しています。
マット: あ、主任、それはちょっと痛そうですよ……え?そんな道具まで?
マットちゃんは不気味にくっくっと笑いました。
ウォン君は、さっそうと気分よく家まで帰ってきました。
ウォン: かあちゃんタダイマ
かあちゃん: こんな遅くまでどこへ行ってたの!
ウォン: いや〜、冒険だよ、冒険! ぼうけ……え?
ウォン君の言葉は、母ちゃんの様子を見た途端止まりました。
ウォン: ちょっと待ってくれよ〜 うぎゃあああ〜〜〜!!
さて、ウォン君はその後どうなったでしょうね。
(おしまい)