お宝への道は遠い
ミル: なあに、これ?
4人は、森の奥まった所に、奇妙な柱を見つけました。全体的に不気味に黄色く光っていて、3方向に赤いマークがついています。
ミル: これがお宝?へんなの〜
アヤ: ゴーゴーいってる
マット: えー、こんなの持って帰りたくない
ウォン君は手をあごに当てています。
ウォン: これがなんかの目印になってるんだろ
アヤちゃんが柱の上のほうを指さしました。
アヤ: 湯気が出てるね
ウォン: 温泉かな〜?
ミル: 温泉!?
ミルちゃんは柱の周りをぐるぐる回りました。
ミル: お湯ないじゃん
ウォン: だからこの近くに温泉があるんだろ
アヤ: 光ってるのは?
ウォン: さあ、熱いからじゃねえの
ミルちゃんは、ウォン君が広げている地図を後からのぞきこみました。
ミル: その×印って、もしかして温泉?
ウォン: だから宝は行ってみないとわかんねえって
アヤ: ここじゃないの?
ウォン: 地図見ろよ
ミル: 地図見るのはウォン君の役目でしょー
ウォン: えーと……
ウォン君は指で地図上の線をたどっていましたが、しばらくその指が止まり、そしてやめてしまいました。
ウォン: どこだろう……
ミル: ほあほら、どこよ?どこ?んもぅ〜、どこなのよ?
アヤ: わかんないの?
ウォン: えーと
ウォン君はマットちゃんの方に向き直りました。
ウォン: AWは、ロボだからわかるよなっ
ミル: もしかして…道、わかんないの?
マット: 迷ったの?
ウォン: わかってる、わかってるって
アヤ: 本当?
マット: じゃあ、この先間違えるたびに罰ゲーム厳しくするね
ウォン: まーそれで苦しむのはお前らだけどなっ
マット: ウォン君だよー
ウォン: まったくわかってねえぜ。おし、多分こっちだ
ウォン君は、地図と周りの風景を2回交互に見てから、地図をたたんでポケットにしまいました。
マット: たぶん?
ミル: 道、ホントにわかってんならいいんだけど……
4人は、薄暗く雨がしとしと降る中をとぼとぼと歩いていきます。ウォン君は大きな木の下で立ち止まってポケットから地図を取り出しました。
ウォン: このでっかい木が目印の一つになってるから……
マット: はやく〜、さびる〜
アヤ: 錆止めは?
マット: 今日は塗ってこなかったの
ミル: ミル、おなかすいた〜
ウォン: だー、もううるせえな!
ウォン君は地図を急いでたたみました。
ウォン: ロマンがねえ、ロマンが
ミル: もう晩ご飯の時間だよぉ
ウォン: 腹は減った。だが冒険が俺を待っている!
ウォン君が腰に手を当てて気取った口調で言いました。
アヤ: 冒険ではおなかはふくれないわ
ウォン: へっ、帰りたかったら帰るんだな
ミル: 早く帰らないとお母さんに怒られるよぉ〜
ウォン: おとながこわくて冒険ができるかっ! つまんねーことばっか言いやがって……
ウォン君はミルちゃんにどなりつけました。
ミル: だって……
地図をポケットに入れたウォン君は、すたすたと歩き出しました。
ウォン君は、やっつけたブーマの前でうれしそうに剣をぶんぶん振っていました。
ウォン: ふー、ま、こんなもんだな
ミル: ご飯! ご飯!
ウォン: あーもう、ミルもう帰れ
ミル: やだ! 行くもん!
ウォン: わけわからんな
アヤ: 帰ったらわかんないじゃん
ミル: 早くウォン君の悔しがる顔見て、そして晩ご飯までに帰るんだもん
ウォン: けっ、悔しがるのはどっちかな
そう言ってウォン君が前に進み出した瞬間、向こうから何やら大きな影がせまってきました。踏み出した足を急に止めたので前のめりになります。
ウォン: うお
ミル: うわぁ! なにこれ!
ウォン: でっけえサルだ!
現われ出たのはヒルデベア。身の丈は4人を合わせたくらいあります。
ミル: こわーい
ウォン: 俺に任せな!
ミルちゃんは逃げ出しましたが、ウォン君は果敢に向かっていきます。
ウォン: ねっけーつ!
ウォン君は思い切り剣を振り降ろしました。相手の身体が大きいだけあって、大きなモーションでも必ず当たります。しかし、その代わり、はるか上方から振り降ろされるパンチには覚悟しなくてはなりません。
こんな大きなモンスターに皆は大苦戦しましたが、アヤちゃんの的確な援護もあり、なんとか倒すことができました。
アヤ: だ、だいじょうぶ?
ウォン: ぜえ、ぜえ。なかなかやるじゃねえか……
ミル: 無理しないでいいんだよ?素直に負けを認めれば……
マット: 無理しない方がいいよ。どうせ宝もないんだし
アヤ: そうそう、ごつんって言ってたし
ひじの打ち身をさすりながら、ウォン君はなおも強気です。
ウォン: ばっかやろう、冒険は危険がツキモノなんだよっ
そして、ふふっと笑って付け加えました。
ウォン: お前らの方がホントは恐いんだろー
ミル: うっ……恐くなんかないもん! 恐くなんかぁ……
ウォン: 強がるなって
ミル: 強がってなんかないもん! ほら、行くぞぉ〜っ!
アヤ: ウォン君の方が強がってるんじゃないの?
ウォン: 馬鹿言ってんじゃねえ、行くぜ!
ウォン: ここだ
地図をしまったウォン君が喜んで指さしたのは、三方を茂みに囲まれた行き止まりでした。
ミル: ここ?ようやく着いたの?
ウォン: お宝が近づいてきたって感じだなー!
ミル: まだなのぉ〜?
ウォン: 文句ばっか言うなって
ミル: あぁ、疲れたなぁ
ウォン君は後からついてきている3人の女の子を見渡しました。
ウォン: さーて行くぜ
マット: OK
ミル: はいはい、いきますよ、いきますよ
ウォン: まー、無理しなくてもいいけどなー
ミル: 行くったら行くんだもん!
4人は茂みに細々とついている道なき道を分け入りました。
そして、道の続く先は、パイオニア1の人達が建設したセントラルドームでした。
ウォン: お宝にどんどん近づいてきたぜ
ミル: おっきな建物!
ウォン: お宝のスケールも最高にでかいぜ
ミル: お宝、ないけどね
アヤ: まだなの?
ウォン君は地図を広げました。
ミル: もしかして……この中に行くの?
ウォン: いや……
ウォン君は地図を見ながら答えました。
ウォン: この中じゃないみたいだな
ウォン君は地図の線を指でなぞりながら、周囲の風景と比較しています。
ウォン: えーと、もうすぐだ。んー、どきどきしてきたぜ
ミル: ホント?もうすぐ、すぐって……
ウォン: うそつきはドロボーの始まりだからな。俺は嘘はつかないぜ! どろぼーになりたくないからな
ミル: ふーん、お宝なんてウソ言ってるくせに
ウォン: とにかく行くぜ! お宝が待ってるぜ!
そして、細い廊下を進んで行くと、ブーマが行く手に現れました。しかし、張り切るウォン君は、いつものブーマなどものともしません。
ウォン: 邪魔すんじゃねー!
4人はセントラルドームの正門前に到着しました。ドームの扉は壊れていて開きません。そして、ドームのベランダはそこで終わっています。しかし、ウォン君の話では、お宝はドームの中ではないようです。
ミル: 行き止まりだよ〜
ウォン: いや、すぐそこだよ、お宝
ウォン君は地図を見ながら答えました。
ミル: だからぁ、どこにそんなお宝があるのよさ?
マット: ないよ
ウォン: この形から見て……ここだ!
ウォン君が指さした先には、一段高いステージのようになった台がありました。かすかにぶんぶんうなっています。
マット: え?
アヤ: ここ〜?
ウォン: ここ、ここ! 着いたぜ〜〜〜
その台の前に4人は並びました。
アヤ: これがお宝?
マット: なにもないけど?
ミル: やっとお家に帰れる〜
ウォン: 一つの冒険をついにやり遂げたって感じだな
ウォン君は満足そうにうん、とうなずきました。そして、その奇妙な台のまわりを一周しました。
ウォン: で、なんだろう、これ
ミル: お宝、じゃないよね?
アヤ: やっぱり、お宝なんてなかったんだ。最初からわかってたことだけど
ミル: ウォン君の負け〜
アヤ: 負け〜
ウォン: ち、ちがうって! こ、ここになんかあるんだよ。掘るとかさ……
ウォン君は台の上にはいつくばって何かを探しています。
ミル: どこに?どーこにもないじゃないのよさ
アヤ: ないじゃん
マット: 罰ゲーム
ウォン君が台を降りて側面を調べ始めると、女の子3人は台の上に乗ってはやし立てました。
ウォン: うっせーうっせー、お宝があるに決まってる
ウォン君がそう言ってもう一度台の上に乗った瞬間、ぶーんと音がして、一瞬のうちにあたりの風景が変わってしまいました。