休息
ガート: うわぁ
ファーン: うわーー
そこにいたのは、奇怪な化物だった。二本の足に大きな翼、長い尻尾と頭には角。見たことはないはずなのに、なぜか見覚えがある。そう、これは、絵本で出てくるドラゴンそっくりなのだ。
ミウ: きたきた
シーナ: ま、気合いいれや
ガート: こ、こんなのを倒すのか?
僕が呆然と目の前の生き物を眺めているうちに、シーナは奴の足元にまで駆け寄った。
シーナ: 我が名の元に……集え! 光よ!!!
ファーン: 光よ
またまたグランツだ。ドラゴンの体内から光が発散する。しかし、ドラゴンはびくともしない。
奴は翼をばたつかせ(あんな翼であの巨体が持ち上がるとは信じられない)、飛び上がった。と、頭を先に急降下して……いなくなった。
ミウ: もぐるよ
ガート: どこへいった?
シーナ: 下や!
下? 反射的に地面を見ると、地中がぼこぼこと盛り上がっているのが見える。そして、それが僕の方に向かってくる。
ガート: いたい!
ファーン: 大丈夫ですか?
何かが僕の体に直撃し、跳ね飛ばされた。ファーンの心配そうな声が聞こえる。でも、受身がきちんと取れたおかげで軽症ですんだ。レスタですぐ回復する。しかし、ミウはその後のドラゴンの炎を受けて倒れてしまった。シーナがすかさずリバーサーで助ける。
しかし、ドラゴンも長いことはもたなかった。僕達の猛攻撃を受けて、やがて大きな図体を地面に横たえた。僕は下敷きにならないようにあわてて逃げ出さなくてはならなかった。
シーナ: ふう……こんなもんやな
ガート: とんでもない奴だった
シーナ: 二人とも大丈夫?
ファーンは肩で息をしている。
ファーン: こわかったです
ガート: 二人とも、って、どの二人だ?
シーナ: アンタもだよ
ガート: 僕も?
そりゃ、僕は初めてだったけど、僕なんかより危ない人がいたよなぁ。
ガート: 僕よりミウさんの心配をするべきだな
ミウ: 悪い、ちょっとドジったね
シーナ: ま、気にせんでええよ
ミウは片手を上げるとシーナから微妙に視線をそらせて言った。悪だくみのアテが外れたか?まあいい。
ガート: しっかしあんなのがいるとはなぁ…
シーナ: ま、こんなんで驚いてりゃ世話ないしな。もっとごっついのはいくらでもおるしな
ファーンは持っている杖を本当に杖がわりにして立っていた。全体重を杖にあずけている。
ファーン: 早く帰りましょう。もう つかれました。
同感だ。僕ももう立っているのがやっとだ。
ファーン: へろへろー
ミウ: あ、平気?
ファーン: 平気じゃないです
シーナ: ま、とりあえずは戻って休もか
足もともおぼつかないファーンをミウが支えると、僕達はそのまま帰りのゲートに向かって歩いた。
ゲートをくぐると、そこは見慣れたパイオニア2の景色だった。今日のような日は、この景色は本当にほっとできる。
ファーン: はー やっと終わった
シーナ: とりあえずお疲れさん
ファーン: ただの掃除だと思ってたのに。先輩たちはいつもこんな大変なことしてるんですか?
ミウ: うん
シーナ: これぐらいなら楽な方やで
ミウ: まあね
ガート: こんな行事に僕達まで巻き込まないで欲しいよな
確かに大変だ。ハンターズの仕事はいつもこうなんだろうか。いい成績をとって軍の研究所か戦略立案室に配属にならないと、毎日がこうなるのだろうか。
ファーン: ふぁー なんか 眠く……
僕達は朝集合したギルドに入った。ファーンはふらふらしていて……中央の柱にゴンと頭をぶつけた。
ファーン: あいた
ミウ: 平気?無理させたかな?
ガート: 保健室の方が良くないかい?
シーナ: んー、その方が良さそうやな。テクニックの使いすぎやな
ファーン: らいじょうぶ
「だ」が言えない時点で大丈夫ではない。保健室へ連れてってあげたいけど、僕は他の学校の保健室なんてどこにあるのかもちろん知らない。
シーナ: とりあえず、こっちや
シーナは後を振り返り振り返りしながら歩き始めた。
養成学校の保健室は、がらんとしていて、ベッドが3つと薬品棚があるだけの簡素な部屋だった。
シーナ: とりあえずそこのベッド使いや
ファーン: ちょっと 休んできます
ミウ: 少し、休みな
ファーン: すいませーん ちょっと ベッドを……
と言うなり、ファーンはベッドに倒れ込んで寝息をたて始めた。シーナはそっと毛布をかけてやった。
シーナ: ま、大丈夫やろ。TP使いすぎて眠いだけやろし
さあ、長い一日も終わった。だが、帰る前に一つ聞いておくことがあった。
ガート: ところで、ファーンさんって何年何組?
ま、知ってどうなるわけでもないが、このまま別れてそのままというのも寂しい。僕はそう思った。
シーナ: 一年やね。クラスは……えーっと……ゼファ先生のとこだから……Cやけど
ミウ: そんなの聞いてどうすんの?ところで。
ミウがもう見慣れたニヤニヤ笑いをしている。
ガート: い、いや、なんでもない。さて、帰るとするかな。
僕は身の回りをもう一度点検した。忘れ物はなさそうだ。
ガート: じゃあね。もう会うことはないだろうけど
シーナ: せやな……生きて会うことはないやろ
ミウ: そう思うなら、それでいいけどね
ガート: ま、30年後の選挙の時には頼みにいくかも……
僕はそう言って手を振ると、部屋を出ていった。
シーナ: はぁ……ぜんぜんこりてなさそうやな、ありゃ
ミウ: 軍はホントにラグオルの事、考えてんのかねー
シーナ: 考えてないやろ
ミウ: ま、ボクの知ったこっちゃないけどさ。
シーナ: 直接関り合いなけりゃええんやけどね。
ミウ: いつか分かりあえるといいけどね
シーナ: それよりファーンやな。変なムシつかんようにせんと。
ミウ: 大事な未来の大物だから。こっちの将来が楽しみ。
シーナ: うかうかしてると抜かれそうやし。さーて……ウチらもがんばらんとな
二人も身支度を済ませると部屋の扉を開けた。シーナはそこから外に出ようとして、そしていきなり立ち止まった。ミウが後からぶつかりそうになった。
シーナ: あ、レポート、書かせるの忘れてた……
ミウ: あちゃ
シーナ: アイツ……帰ったよなぁ……
ミウ: たぶん
シーナ: ま、先生にはなんとか言っておこう
シーナはそう言うと、今度こそ部屋を出ていった。ミウも後に続く。
ファーン: Zzz 竜が竜が… うーうん Zzz
ファーン: ラッピーさんだー Zzz
ファーン: 合理と‥氷 Zzz
ファーンさんは、寝言を言う癖があったようだ。
(おしまい)