未来予想図

い。(なんかこんなのばっかり。普段って何だ?)

教え合い

ファーン: とう
ミウ: よっと
転送ゲートを抜けると、雨だった。土砂降りではなかったが、しとしとと降る雨は嫌なものだ。僕達の学校だと野外活動は雨天中止と決まっているが、こちらではそうでもないようだ。
ファーン: あ
シーナ: 雨……か
ファーン: やだなー
ガート: うっとおしいなぁ
シーナ: ま、訓練兼ねるならええやろ……ほな行くで
ファーン: はーい
雨でも行く。少々野蛮ではあるが、甘えていないのも事実だ。

森のこちら側でも、出てくる害獣に大差はない。いつものブーマと狼とラッピーだ。奴らの行動パターンもだいぶ分かってきた。
ミウ: 順調だね。どんどん行くよー
ガート: 雨なんてうっとおしいところ、さっさと行こう
ファーン: それ 賛成です。雨 なかなか やまないですねー
シーナ: しばらくはこのままやろ。ま、しゃーないって
なにか言ったからといって雨が止むわけでもない。愚痴を言うよりは策を考えよう。と思っていると、正面にセントラルドームが見えてきた。
ファーン: 大きい建物ですね
ガート: ドームか
ファーン: あそこまで行けば雨宿りできますね
シーナ: アレ…か。どーしようかねぇ……ま、ええわ。次行くで
シーナがぼそっと言った。意味はまださっぱり理解できないが、後で分かることになる。

Captured Image
突然、大きな動物が僕達の行く手をふさいだ。あれは確かヒルデベアという名前だ。僕はこの目で見るのは初めてだった。こいつは話に聞いていたより数段大きい。思わず自分の持っている短い杖と見比べてしまった。
ガート: うわあ、あれは?
ファーン: なんですか あれは
シーナ: サル……か
そうしている間にも、シーナは果敢に突撃していく。
ミウ: 雷帝招来! 稲妻よ、魔を滅っせ!!
ミウ: 氷雪の女王よ、凍える吹雪の吐息をここに!

ヒルデベアの死体を前に、シーナは武器を収めた。
シーナ: かたづいたか
ファーン: さっきの 大きかったですね。あんなの はじめてみました
ガート: ああ、大きかった
シーナ: ん?アレくらい普通やで
ミウ: ああいうのもいるって事
シーナ: もっとごっついのぎょうさんおるって
シーナとミウは平然としている。やっぱり、何事も経験だろうか。
ファーン: こわいですね
ガート: さすがラグオルだね。驚異の生態系だ。
ミウ: 降りなきゃわからないってね
すごいぞラグオル。やっぱり、僕はここに来てよかった。ただ、襲ってこなければもっといいんだが。

ファーン: よーし また来たら とっておきのを 使います
ガート: とっておき?まあいいや、楽しみにしてよう
ファーン: かけ声のいるやつです。この間みつけたんです
ミウ: うん、たのしみだね
シーナ: 了解。頼りにしてるで
ガート: ま、あんなの二度と来ない方がいいけどね
シーナ+ミウ: くるけどね
やっぱり、奴ら二人は知っていた。僕の望みがあまりにも非現実的だったことを。

ガート: うわっ、来た!
舌の根も乾かぬうちに、また例のヒルデベアがやってきた。ファーンはいつになく真剣な顔になった。
ファーン: いきます……「光よ」
ヒルデベアの体内に強烈な光が宿ったかと思うと、それが皮膚を突き破って現れた。もちろん、光は物質じゃないのは分かっている。しかし、その出来事を描写するにはこう書かざるを得ない。これは、滅多に見ることのできない高等テクニックだ。
ガート: グランツ!!
ファーン: できた! ふふ
ミウ: 凄いじゃない
ファーン: え そうですか?
シーナ: よく覚えたね。ま、才能なんやろな…
ミウ: そうそう出来るもんじゃないよ
そうそう出来るもんじゃないどころか、学生で使える人は見たことがない。
ファーン: でも あれ 一体にしか使えないんです。もっと 広いやつがいいんですけど
ミウ: そういうものだし
シーナ: ま、あれはそうやで。そのかわり破壊力はあるけどな
ファーン: でも あれやると 疲れるんです
ミウ: 一点集中なんだよ、あれは。疲れもするよ。光の力を集めるからね。
シーナ: ウチやて8連続までや。ま、使えるんやったら使った方がええで
グランツを使えるようになれば友達に自慢できる。ああ、僕も使えるようになりたい。
ガート: そうか…グランツにはかけ声か。「光よ」だったっけ?
ファーン: はい。いっぱい試したんですよ、他の言葉も。でも 「光よ」が一番よく出るんです
ガート: そうか…覚えておこう
光よ…光よ…光よ…とぶつぶつ言う僕を見て、ミウとシーナはクスと笑った。

ファーン: でも あれ使うと へろへろですから 回復してくれる人がいないと たいへんです
ガート: あまり無理しないよ
ミウ: 回復はするからさ
グランツまで使えるファーンを回復役にはしていられない。
ガート: そうか、すると僕が回復役か…

シーナ: あと一息やで
僕達はとうとうセントラルドームの建物の前にきた。ドーム前の広場にも獣たちがたくさん巣喰っていたが、ゴールが見えてくると俄然力が湧いてくる。

ファーン: ミウ先輩
あたりの獣を「掃除」し終わった時、ファーンはミウに呼び掛けた。
ミウ: うん?なに?
ファーン: あの ですね
ファーンはしばらくためらっていたが、思い切って言った。

ファーン: 3回連続で攻撃するのって どうやってやるんですか?

ミウ: へ?あ、えーと……
ミウは目を丸くして驚いた。連続攻撃は初歩中の初歩であり、今さら教えるのも難しい。ミウはない頭を絞って何か言うことを考えた。
ミウ: 終わったとこでもう一回かな?力を入れるのさ
ファーン: 終わったところでもう一回……
シーナ: タイミングさ。一連の動作の終わりで次の動作に入るんや
ファーン: タイミングかー
ファーンはそう言いながら、熊手(と彼女が呼んでいるフォトンクロー)を振った。
ミウ: それを続けてみな
ガート: そこで手首を返して
ファーン: 手首ですか?
ガート: そう、そして手の振りを生かすんだよ
シーナ: まぁ少し練習すればすぐできるで
ミウ: 流れるように、ね
ファーン: 手の振りを……こう……
Captured Image
そう言って、またファーンは熊手(カッコの中は省略)を振った。一回、そして手首を返して二回目。
ファーン: あ できた
ガート: そうそう、うまいじゃないか
もう出来るようになったとは。三段攻撃までもうすぐだ。
ファーン: あと どうすればいいんですか?
ガート: んー、後はだなぁ…おんなじ要領だよ。
ファーンはさっそく熊手を振り回した。一回振ってそのまま二回目。そこで重心を崩して止まってしまった。
ガート: ただ、2回目でふらつかないようにね
もう一回やってみる。一回、二回、そこで足を踏んばって三回目。
ファーン: あ できた できました!
ファーンは手を叩いて喜んだ。僕は思わずうなずく
ガート: うんうん
シーナ: しっかし、随分とちぐはぐやなぁ……グランツ使えるのに……
ミウ: なんか不安定。未知数な感じ、かな?
シーナ: せやな。たぶん一番化けるで
ミウ: かもね

ファーンは僕の所に寄ってきて、僕の顔をまじまじと見た。
ファーン: がっちゃん先輩は教えるのがうまいですね
ガート: いやあ、君の才能のおかげだよ
ファーン: わかりやすいですし
ガート: 感覚だけでわかってると人に教えられないから、ちゃんと理屈で覚えるのさ
ファーン: はい。わかりやすかったです
ガート: 手の振りと手首の返しだよ
僕は念を押した。まあ、その必要はなさそうだけど。
シーナ: 下心あるからね。全員にアレできりゃ……ええんやけどね
ミウ: それできたら、心の広い人だよ
シーナ: ま、実戦で使えればいいけどねぇ……
ミウとシーナは、またまたクスクス笑っている。

ファーン: ものを 教えるのうまいんですね。そういうの 向いてるんじゃないですか?先生になればいいのに
ガート: そ、そうでもないさ。先生ってのは楽じゃないんだよ。君みたいのだけだったら楽なんだろうけどね。
ファーン: でも わたしは おちこぼれですから
ガート: たまにあーんな奴がいると…
僕は後を見た。案の定、シーナとミウの二人は小声で話しながら、僕の方を指差して笑っていた。
シーナ: アレじゃ、ロクなの育たんって。思想が偏りすぎ。
ミウ: 思い入れのある生徒になら、いいんじゃない?それ以外は駄目
シーナ: はぁ…どーすっかね…アレ…
どうせ僕の悪口だろう。まあいい、言いたい奴には言わせておいてやるさ。僕は、後の二人にも聞こえるような声で、ファーンに向かって言った。
ガート: さあさあ、覚えたんだからさっそくやってみよう
ファーン: はい、次いきましょう

僕達はとうとうドームの入口までやってきた。
シーナ: 散りな!!
シーナは目の前のヒルデベアを文字通り蹴散らすと、額の汗を拭った。
ガート: さあ、ここまできたぞ
ファーン: これで終わりですか?
シーナ: どーすっかね……
シーナは腕を組んで考えている。
ガート: どうするって?
シーナ: ん?こっちのこと
ファーン: まだ あるんですか?
シーナ: ま、ね
シーナとミウはまたまた何やら相談している。しかし、顔は笑ってはいない。
ミウ: 荒療治、必要かな?
シーナ: と、思う
ミウ: じゃ、いきましょ
シーナ: ま、死にはしないやろ
何やら決まったようだ。シーナは僕の方に向き直った。
シーナ: あの先にゲートあるんみえるか?あの先や
見えるもなにも、目の前に大きなゲートがどっかと居座っている。 ファーンは、てててとゲートの方に走り寄った。
ファーン: なんか おっきいですね
ガート: なんだかよくわからないけど、行こう。掃除すべき所なら、ね
シーナ: 準備はええか?ちっとは気合いいれとき
ガート: 準備って、いつでもできてるよ
ミウ: いっくぞー!

僕達は意気揚々とその大きいゲートをくぐった。