殴り合い
戦いが終わると、シーナとミウはさっさと次の扉に向かって駆け出した。僕も後を追う。そして、ファーンだけが遅れてしまった。
ファーン: まってー
ガート: あ、すまない
僕達はいったん止まってファーンが追い付くのを待った。そして、息を切らせたファーンがやってくると、シーナはまた行ってしまった。ファーンはしばらく立ち止まり、息を整えながら言った。
ファーン: 足早いですね
ミウ: そう?普通だと思うけど
ガート: 仲間を気遣う配慮ってのがなってない
シーナ: 遅いって言い方もできるで。
ファーン: わたしも よく とろいっていわれるんで、先輩たちが悪いんじゃないです
シーナ: ま、徐々に慣れればええねん
ガート: いいや、あいつらが悪いんだよ
まったく……チームリーダーがこんなにいい加減でいいのだろうか。
ファーン: え 先輩が悪いんですか?
ガート: 本当にこの3人、同じ学校の生徒なのか?
ファーンとあいつら2人、まったく違うんだよなぁ。
すると、シーナとミウはまた二人で集まって、またこそこそと話を始めている。なんだか、僕の方をにらんでいるような気がする。
ミウ: 可愛い後輩、いけすかないボケ
シーナ: そこはかとなくシバキたいんやけど……ダメやろか?
ミウ: うんうん、許可します
ミウはうなずいて、悪魔のようなニヤニヤ笑いをすると、空き地の奥へと離れた。そんなことは知らない僕らは、きれいな小川を見て、ラグオルの自然を満喫していた。
ファーン: ほらほら 川ですよ、きれいですねー
ガート: うん、きれいだね
すると、遠くの方から、ミウの声が聞こえた。
ミウ: ファーン、ちょっとこっちきて
ファーン: はーい、なんですか
ミウ: 危ないからね
ファーン: あぶない…… はい 危ないです。気をつけます
ミウ: うん、まあ、見てればわかる
ファーンはミウの方に走っていく。と、シーナが小剣を持って近づいてきた。
シーナ: とりあえずくいしばっとき
ガート: なんだ?
シーナはいきなり、訳のわからないことを言いだす。
シーナ: いくで!
と、彼女は、いきなり僕を殴りつけた! 不意打ちをくらった僕は、その場に倒れる。
ガート: うわ! なにをする!
僕はとにかく叫んだ。そして、ゆっくりと起き上がり、土を払った。頬がまだ痛む。
シーナ: とりあえず……黙っとき
とんでもない連中だ。これが黙っていられるか。
ガート: 今回のことでよぉくわかった。ほんっとうに野蛮人だな、お前ら
僕はシーナをキッとにらみつけた。ミウとファーンは空き地の向こうの方にいっている。ミウは興味津々でこちらを見ているが、ファーンは地面を見ている。
シーナ: ウチらは遊びちゃうんや。命かけてるんや ガート: それは同じだろ? シーナ: それわかっとんか?せやったら……何でどつかれたかわかるか? ガート: お前が野蛮人だからだ シーナ: はぁ……心底アホやな | ファーン: 先輩 なにがあるんです? ミウ: 教育的指導、かな? ファーン: 苔のことかな ミウ: あ、苔ね ファーン: ほらほら 苔ですよ ミウ: うんうん ファーン: 緑色ですね。緑好きなんです |
シーナはお手上げの格好をすると、首を振った。人を殴っておいてなんて態度だ。
ガート: だいたい、いきなり殴るなんて、僕が訴えれば立派に暴行罪だよ? シーナ: くしばれっていうたで ガート: ま、僕は心が広いから助かったんだよ シーナ: 暴行ねぇ……教育的指導って言い方もできるで ガート: 教育?だれがだれに? シーナ: ウチがオマエにや ガート: ははは、お笑い草だね。養成学校のバカに何を教わるってんだ? シーナ: ほぉ…… シーナ: 上等や。せやったらその馬鹿に劣る奴のことはなんていえばええんや? ガート: さあね。そんな奴いるのか? シーナ: ウチの目の前にな ガート: どこ? | ファーン: ほら IDも緑なんです。いいでしょう? ミウ: いいんじゃない? ファーン: へへへ そう思います? ミウ: うん、ホントに ファーン: お気に入りです。友達とお揃いなんですよ ファーンは、今になって、目の前にミウしかいないのに気がついた。 ファーン: あれ?他の先輩は?どうしたんでしょう。一緒したら 駄目ですか ミウ: 今お話中みたい。仲良くなったみたいだね、あの二人 ファーン: あ そうなんですか? ミウ: 気をきかせてあげなきゃ ファーン: 仲の良いことはいいことです |
僕はあたりをキョロキョロ見渡した。あの野蛮人に劣るバカなど、ブーマくらいしかいやしない。いや、ブーマでさえもっとマシだ。 シーナ: こいつだよ! シーナはまた殴りかかってきた。僕はとっさに杖を出して攻撃を受け止める。 ガート: ほら、また手が出る シーナ: わかってないようやからな。つついただけやで ガート: ま、君達はそういう教育しか受けてないから、責めるべきは先生なんだろうな シーナ: はん、じゃあなにかい、上品な教育ちうもん受けたら、敵に殺されないいうんか? ガート: もちろん。敵を知り、己を知り、相手との戦力差を見て行動を決める。これが戦略の鉄則だ。 シーナ: ほお……上等や。ほな一人でも大丈夫やな?敵は待ってくれんで? ガート: 退却も戦略のうちだよ? シーナ: ふーん……せやからか。軍がここに降りようともせーへんのは。自分じゃ勝てないから別のを前に出すんやな ガート: まあ、どう考えようと勝手だがね シーナ: ここは現場や | ファーン: あれ?あの二人なにしてるんですか? ミウ: 美しき、じゃれあいだね ファーン: じゃれてるんですか? ミウ: うん、そう。仲がいいほど喧嘩するって、アレだね。 ファーン: あ そういえば わたしも昔ありました。今なかよしの友達とも最初はあんなふうでした。 ファーン: なにか 白熱してますね ミウ: うん。いいねぇー ファーン: 先輩 今何時ですか? ミウ: えと、何時かな? ファーン: おなかすきません? ミウ: あ、すいたかも ファーン: そろそろ、お昼にしましょうよ。じゃ 二人を呼んできますね |
ここで、ファーンが呼びにきた。
ファーン: 先輩たち そろそろ おひるにしませんか?
ガート: ああ、そうだね
ミウ: 少し、休もうっか
ファーン: おなか すいてると ちからがでません
シーナ: せやな……
ファーン: 友達が言ってました。 はらがすいたら 冷静ではいられない。だから ご飯をたべるんだ
ミウ: 真理、名言だね
シーナ: とりあえず休憩やな
僕とシーナは顔を見合わせた。まあ、いいだろう。
ファーン: あそこの木陰に行きましょう
シーナ: このへんやな
僕達は手頃な木陰を見つけると、そこに座って、持ってきた弁当を広げた。
ファーン: では いただきまーす
ミウ: 熊手くらい、外しなよ
ファーン: あ へへ……
顔を赤くしながら、ファーンはフォトンクローを外すと、脇に置いた。