未来予想図

い。(なんかこんなのばっかり。普段って何だ?)

呪文

扉の奥に立ちはだかるブーマを指さして、シーナは命令した。いつもとは全然違う厳しい声だ。関西弁のアクセントはすっかり抜けている。
シーナ: 雷の精霊よ! 我が命に従いて我の敵を滅ぼせ!
と、指先から稲妻がほとばしった。いったん空中に昇り、そこから目の前のブーマ全部に向かって落ちていく。
ミウも負けじとゾンデを放つ。
ミウ: 雷帝招来! 稲妻よ、魔を滅せ
そして、最後に、ブーマの輪の中心を指さして
ミウ: 朱雀の王よ、全てを燃やし尽くす轟火を!!
炎の大爆発に吹き飛され、ブーマは一斉に倒れた。のはいいんだけど……

ガート: さっき君達何かブツブツ言ってなかったか?テクニックをかける時に……
ミウ: さっき?ああ…あれね。なんていうのか、集中の為の決まり文句とでも思ってよ。理解できないならね。
シーナ: ウチのは精霊ちうもんを使役してるねん。せやからその呼びかけや
ファーン: セイレイさんですか
僕は本当にびっくりした。精霊なんてもの、まだ信じている人がいるとは。
ガート: かぁー、これだから野蛮人は……そんな癖がつくと、速くテクニックを出せなくなるよ?
シーナ: はははっ。ま、理屈だけのおぼっちゃんにゃ無理なんやろな
ミウ: ま、人それぞれじゃないの?
無理もない。まともな師もなく、独学でテクニックを覚えたんだから。
でも、僕はN先生のすごい技を見たことがある。1m離れた台の上にコップを3つ置くと、それらに次々とテクニックを当てていくという。先生は1分間、目をつぶって精神集中すると、いきなり目を開けて、そして……
同時に火と雷と氷が先生の前から飛んでいき、それぞれのコップに命中した。先生が言うには、正確には0.05秒おきにフォイエ、ゾンデ、バータを放ったのだそうだ。僕はただただ驚嘆して、その時、フォースになろうと決心したのだった。そして、やおら先生はスクリーンに向かうと、テクニックの中心理論の講義が始まった。僕はそんな学校に通えて幸せだったわけだ。
ガート: 思考レゾネータ理論によると、思考からテクニック発動まではミリセカンド単位にまではなるはずなんだ。
しかし、養成学校の奴らの反応は芳しくなかった。
シーナ: ま、お偉い講義は他の人にでも頼むわ
ファーン: あ でも かけ声あるといいですよね。わたしも 声出さないと使えないのあります。
ガート: あまりそういうクセをつけちゃいけないよ。一流になりたかったらね
シーナ: その理屈で一流になった人がおるんやったらええけどな……
ファーン: そうですか?
ミウ: 気合いを入れるようなもんと思ってもいいんだし
ファーン: がっちゃん先輩もやってみればいいのに
ガート: そ、そうか?
ぼ、僕が、かけ声をかけてテクニックを?まるで、駅のホームで大声で独り言を言うような恥かしさを感じる。
ファーン: かっこいいですよ。かけ声考えてあげますよ
ファーンはそう言うけど、でもなぁ……
ガート: そういう事はいったんやるとクセになるからなぁ
ファーン: そうですね。やみつきになります。
でも、恥かしいよなぁ……
ファーン: でも 声出すとほんとにテクニックが成功します
ガート: いや、声に出さなくても成功するようにならなくてはならんのだ
ファーン: えー、でも……出した方がかっこいいのに
いや、そうだそうだ、恥ずかしいとか、かっこいいとかの問題じゃない。声を出してテクニックをかけたんじゃ、N先生のような芸当はできない。
ガート: かっこいいかどうかの問題じゃない! 合理的に言ってだなぁ…
シーナとミウは僕達二人を遠くから見て、なにやらひそひそ話をしていた。
シーナ: 単純な奴…
ミウ: ふむふむ(にやにや)
シーナ: アイツ絶対に女でヘマするやろなぁ
ミウ: もうひとおしだな
シーナ: そういや、あいつの言ってた理論、この間完全に否定されなかったっけ?知らないんやろなぁ
ミウ: そういえば……
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そして、ファーンは突然、思いもよらない質問をしてきた。
ファーン: 合理てきってなんですか?
僕は一瞬、身を後に引いた。答に窮する。もちろん、言葉の意味を知らないわけではない。あまりにも当たり前の単語すぎて、どう説明していいのかわからないのだ。
ガート: おい、合理的も知らんのか?
ミウ: 頑張れ、後輩!もうちょっとだ
シーナ: あのコンビおもしろい……
ファーン: ごうり、ごおり……
ガート: 理屈に合うってことだ
ファーン: 氷?
ファーンはぷぷっと笑った。氷???
ガート: 氷じゃない!
シーナ: おもしろすぎや
ミウ: しばらくほっとく?
シーナ: せやな
ファーン: ごうり と 氷……
ファーンはまだこんなことを言って思い出し笑いをしている。そして、人の言ったことは全然聞いていなかったらしい。
ファーン: あ なにかいいました?

僕は遠くでひそひそ話をしている例の二人に向かってどなった。
ガート: おい! おまえら! 大丈夫なのか?新入生がこんなんで?
シーナ: さぁ……な
ガート: ちょっとは心配しろよ
シーナ: 少なくともハンターズに必要なのは理屈じゃなくて感覚だからな……ま、ウチはええとおもうけど?
ミウ: 実戦はよさそうだし、いいんじゃない?別に
養成学校の感覚では、これでいいらしい。いや、僕も、別に他人としてならいいんだけど……
ガート: 感覚だけならサルでもできるよ
シーナ: サルでもできる……ねぇ……軍のやつらはサル以下か
ミウ: 頭で戦うわけじゃなし
ガート: 人間は頭で戦うんだ!
ミウ: いや、まあ、頭を使わないって意味じゃなくね……
そうやって言ってるミウの袖をファーンが引っぱっている。
ファーン: 先輩 先輩 次 次
ミウ: あ、うん
シーナ: せやな。ほな、いこか

ファーン: あとで見せてあげますよ。かっこいい かけ声
ここで暴露してしまうが、この後、本当にかっこいいのを見せてもらうことになるのだ。


次の空き地にいたのは、巨大な虫の巣だった。モネストだ。ぶよぶよしていて、触るのも気持悪い。ここからはモスマントがうじゃうじゃ出てきて、こいつがまたうっとおしい。僕の大嫌いな奴の一つだ。

シーナ: 我が名の元に……集え! 光よ!!
ミウ: 氷雪の女王よ、凍える吹雪の吐息をここに!
シーナ: 美しき氷の精霊よ! 汝の微笑にてかの者を滅ぼせ

やっぱり、呪文を唱える癖は直らないらしい。いや、直そうともしないらしい。