今回の目的
シーナは頭をぽりぽり掻きながら、何か言いにくそうにしている。何かを隠しているに違いない。
シーナ: お掃除…ちーっとばかし意味ちがうやけどな。ま、気合いいれていこか
ミウ: 掃除の意味を知らないみたい…ま、いっか
シーナ: えーっと、掃除の経験者は?
ガート: 掃除くらいしたことが……まあ、ちょっとはあるよ
ファーン: はい 毎日です。きれい好きですから。熊手も持ってきました
シーナとミウの二人は笑った。僕はなぜそこまで笑うのかが理解できなかった。
シーナ: あはははは
ミウ: いや、ありゃ
シーナは一通り笑うと、ふぅと息をついてファーンの顔を見た。
シーナ: えーっと……
ミウ: ま、世話役に任せるか
ファーン: ??
シーナ: 一応周辺モンスターの掃除も含まれるんやけど…それ知ってる?
ファーン: モンスタ? 聞いたことのないゴミですね。新しい電化製品ですか?
ミウ: はあ?
シーナ: 大丈夫かいな
ファーン: 困ったなー そんなのは一人で持てない
ミウ: 不正解
ファーン: 間違いなんですか?
僕は完全に混乱した。何がどうなっているのだ。掃除といえば、ゴミ拾いだろ?モンスターの掃除って何だ。まったく、言葉が通じないとは思わなかった。
シーナ: まあええわ。一応説明しとく。
ミウ: メンドイこって
何だか分からないが、説明を聞くのにやぶさかではない。僕とファーンはシーナの方に向き直った。
シーナ: 今回の清掃範囲は森エリア全域や。
ガート: ああ、それは聞いてる
ファーン: はい。森はきれいな方がいいです。
シーナ: で、清掃ちうんは周辺のゴミ拾いもやるんやけど
ファーン: はい、大丈夫です。熊手あります。
シーナ: それ以外に、周辺に棲息しているモンスターの退治も含まれるんや。せやからウチらハンターズがやるねん
ファーン: え?退治……えーっと、今日は清掃活動って聞いてたんですけど……あら、間違った所に来てしまいましたか?
ミウ: モンスターの退治?ということは戦闘?
シーナ: そや
話が全然違うじゃないか。何ということだ。事実を知らされていなかった二人を見て、ミウは「熊手……」と言っては口に手を当てて一人でクスクス笑っている。
シーナ: ミウ……気持ちはわかるから笑うな
ガート: でもまあ、モンスターが出てこなければいいんだ
シーナ: これが……ぎょうさんでてくんねん
ファーン: えーーーー
ファーンは周りをきょろきょろ見回した。うろたえているようにも見受けられる。
シーナ: あー………まあ、何事も経験や
シーナはそんなファーンの肩に手を置いて言った。
ファーン: あ あの 私 実戦なんてやったことないですよ
シーナ: けど授業で習っとるんやろ?
ファーン: え? それは まあ
シーナ: まぁ実地訓練思ってもらえればええねん
ミウ: うんうん
シーナ: 早い内に実戦経験しとけば大きなプラスになる。
ガート: 大丈夫。習った通りにすればできるよ
といっても養成学校でどう教えているかは知らないが。
ミウ: 幼年学校だって、してるんでしょ?訓練
ガート: もちろん
週一回のシミュレータ訓練がある。一度だけだが地表にも出たことがある。バカにするなよ。
シーナ: なら大丈夫や。そない強い奴らは出てこないから
ミウ: その通りやれれば大丈夫だね。やれれば。
ミウは「やれれば」を妙に強調すると、にやりと笑った。どうあっても僕をバカにしたいようだ。
ファーン: あうあう
シーナ: ま、練習思ってやればなんとかなるもんや。がんばりやー
ミウ: 簡単、簡単
ファーン: は はいー
ガート: うんうん、がんばろう! 共に!
シーナ: ま、何かあったとしてもウチとミウでフォローするから
ミウ: へ?ボクが?
ミウはきょとんとした顔で言った。まるで、ここで自分の名前が出てくるのが場違いだとでも言わんばかりに。シーナはそんなミウを見てニヤリと笑う。
シーナ: せやで。
ミウ: んな面倒な…
しぶるミウを見て、シーナはミウの耳もとへ口をやると、小声で言った。
シーナ: ま、見捨てることはせーへんよな?
ミウ: むう、そりゃ、まあね
シーナ: せやったら大丈夫や。
ミウはなにやらうなずいている。どうやら納得したようだ。シーナはミウの背中をぽんぽんと叩いた。
ファーン: お願いしますね。わたし 実地でうまくいったことないんで。いつも不可ばっかりで。
ガート: そうか、きっと養成学校の教え方が悪いんだ
ファーン: いいえ、わたしが悪いんですー
シーナ: ま、とにかくウチらがフォローするから、二人とも落ち着いて頑張ればええねん
ファーン: はい、がんばります
ミウ: ちぇ、適当にやるつもりだったのになぁ
シーナ: ミウ、何か言った?
ファーン: ミウ先輩 見捨てないでね。ずっと 一緒にいてね
ミウ: う、うん
ファーンはミウの手を握ろうとした。ミウは慌てて手を引っこめた。
ミウ: 仕方ないなあ
ファーン: 離れたら 大声でナキマスヨ
「ナキマスヨ」は早くも泣かんばかりの口調である。ミウは両手でまあまあと制した。
ミウ: うぎゃ、そんなみっともない
ファーン: そう思うんでしたら離れないで下さいね
ミウ: わかったよ、わかりました。離れませんよ。……もう
シーナ: ま、ミウ、精いっぱいフォローしてやるんやな
ミウ: ちぇ、はいはい
ファーン: おねがいしますよ ほんとうですよ
ミウ: うん
ファーン: 約束ですからね
ミウ: や、約束ね
ファーンはとうとうミウの手を握ると、ミウの顔を穴が開くほど見つめながらにっこり笑った。ミウは天井を見ながら答えている。シーナはうんうんとうなずいて遠くから見ている。
シーナ: ウチはコイツの面倒みるさかい
シーナも僕のレベルをまったく理解できていないらしい。人を見る目がなっていない。本当なら、僕がファーンを含め三人の面倒を見てあげなければいけないところだ。
ガート: あっちにいっちまったか……ちぇ
シーナ: ? ……あ、そゆことか。残念やったな。狙いが外れて。
シーナは僕の方をちらりと見て下品にニヤニヤ笑いながら、出口に向かった。
シーナ: ま、雑談はこの辺で終わって現場にいこか
ミウ: あ、うん、そうだね
シーナ: あ、二人とも武器はあるんか?
もちろん、僕は持っている。でも、ファーンさんは?
シーナ: 熊手はダメやで
ファーン: ええっと 一応 熊手があります
二人はまったく同時に言った。ミウがうぷぷと笑う。
ファーン: えっ、ええと……なにかあったかな……えっと えっと
ファーンは学生鞄の中を探している。とりあえず何か見つけたようだ。
ファーン: あ、杖があります。
シーナ: 杖……な。OK。それで大丈夫やろ
ファーン: でも、手に馴染むのは熊手なのに……
ファーンは鞄の中を見ながら残念そうに言った。
シーナ: ガートは大丈夫か?
ガート: ああ、武器はいつも肌身離さず……
シーナはどうしても僕の世話を焼きたいようだ。まあ、それだけなら勝手にさせておくんだが…
シーナ: 使い慣れとるんやろな?その武器は
ガート: もちろんだ! バカにしてるのか? 30年後後悔するぞ?
シーナ: 30年ねぇ……あんさんが30年でどうなるかは見物やけどな
ミウ: 記憶力ないから、そんな先、覚えてないな
シーナ: その前に倒れないようにしときや
はあ、これだからこいつらは……いちいち相手にしていては僕の身が持たない。何度も言うように、僕はレベルの低い相手に対しては寛大なのだ。
シーナは全員を偉そうに見渡して、満足したように言った。
シーナ: ほな、準備OKやな?
ファーン: あ、はい
ガート: ああ
ミウ: うん
シーナ: じゃあ目標ラグオル地表。森エリア1にいくで
ミウ: ほい。わかったよ
まあいい、今日は養成学校の行事なのだから、リーダーは彼女に譲ってあげよう。