たった4人の聖戦

神殿を邪教徒に占領され嘆き悲しむ民衆。神は、そこに聖戦士をおつかわしになられた。これは、ラグオル真理教会(RagolCharchofTruth)の勃興期の1エピソードである。

邪教と聖戦

ウォン: うう、なんと汚らわしい…
アスタシア: ほんとに‥ われらの神殿がこんなことになってるなんて

一行が向かった先、そこは昔神殿だった大きな建物である。しかし、白い壁の美しい姿は今やそこになく、あるのは黒く塗られた壁一面に見たこともない形の金の文字が書かれた異様な姿であった。

ウォン: 邪教徒は人ではありません。ウジ虫です。遠慮なくやってしまってください
ウォン神父は手に爪をはめながらこう言った。アスタシアもクマさんリュックからホーリーセプターを取り出す。2人が武器を取り出したのを見て、ランディは銃の安全装置を外し、ストライクは刀を鞘から抜き出して構える。幸い、こんな物騒な一行を見とがめる人影は皆無であった。

玄関から中に入ると、そこは大広間であった。天井には八卦図が描かれ、床にはにぶく光る水色の床に模様とも文字ともつかないものが一面に彫りこまれている。そしてそこには、数人の大男が目を閉じて座禅を組んでいた。
その中の一人が、一行が入ってくるのに気づいてゆっくりと目を開けた。その目の前には、既に刀を上段に振りかぶったストライクが…
ストライク: ガシッ
相手の剃り上げた頭にまともに刀が叩き込まれた。驚愕の表情を見せる余裕もなく昏倒する。そんな彼を見て、急いで他の大男も戦いの準備を始めた。しかし、孫子を引くまでもなく、奇襲戦では攻め側が圧倒的に有利である。広間から敵の立っている姿が見えなくなるまでにさして時間はかからなかった。
ウォン: ははは…ウジ虫だけあって対した事ありませんねえ…
アスタシア: もちろん、わたしたちには神様がついてますから

初めての戦闘で大勝利を収めた彼等は、勝利の余韻に浸りながら、しばしその場に立ちつくしていた。
ウォン: わが神殿を汚すとは不届き千万。神もお怒りです
アスタシア: ほんと、なに考えてんのかしら?ねえ、そう思わない?ストライク?
ストライク: さあな……
ウォン: 冷たい! 男はそれではいけません! 女性にはガッと行ってグッです!
ストライクは、ちらちらと彼を見やるウォン神父に気づくと、わざと目をそらして大きなため息を一つ。
ストライク: なんでだ… なんで俺がこんなことをやらねばならんのだ…
アスタシア: やらされるんじゃなくて、やらせてもらえるのよ。感謝しなさい!
ストライク: はいはい……
ストライクはまたため息を一つついた。帰るまでにいくつため息をつく羽目になるだろうか、そんなことをぼんやりと考えながら。

ウォン: では参りますか‥神の名のもとに!
アスタシア: 神父さま、祭壇はどっちの方角でしょう?
ウォン: 神は知らぬ間に我々を導いてくださいます。心配は無用ですよ
ランディ: 向こうだな
場慣れたランディは、戦闘が終わった直後からずっと周りを素早く調べていた。そのため、彼は既に向かうべき先の見当はついていたのである。そして、一行の休憩が終わり、再び行く気になるのを、絶え間なく周囲を警戒しながら待っていたのだった。

アスタシア: 神父さま、いかがです?我々のはたらきは?
ウォン: さすがにハンターはお強いですね
ランディ: そりゃあな、これで食ってるからな
ストライク: ……当たり前だ
ウォン: やはり神に選ばれし者達に違いありません!
賢明な神父は、ここまでの活躍で彼等二人と神との関わりを見たのであった。「聖戦」、この言葉が実感されたのも、この瞬間をおいてである。神がお遣わしになった聖戦士、彼等が戦うは聖戦、そして聖戦においては全てが正義で、参加者の行いは全て正しいのである。神の前での一方的な正義、これ以上の強い味方があるだろうか。もっとも、聖戦士である彼等の本音は次の一言でまとめられる。
ストライク: 選ばれたくないな…

行く先々の部屋には、黄金の仏像や立派な鎧兜、絵画掛軸、あるいは札束までもが無造作に棚に置かれていた。一行にとってこれらが目を引かないはずはない。
アスタシア: けがれた品の数々、持っていって清めてあげないと…
そう言って、目につく品々を次々にクマさんリュックに放り込むアスタシア。
ウォン: 良い行いです。清めた物は売りさばいて協会運営資金にしましょう
アスタシア: はい! この地上にこやつらの息のかかったものなど残してはおけません
ウォン: これは神のお恵みです。すべては神の御心のままに…
神の意思である以上、これは強盗でもなんでもない。聖戦とはそうしたものなのだ。