たった4人の聖戦

事件の発端は、いつものウォン神父の説教の後のこんな質問だった。質問者のアスタシアは大きく身を乗り出し、今にも飛びかからんばかりの勢いである。

場所はパイオニア2の目抜き通りの一角。ちょっとした公園になっているそこの、一段高くなっている場所に神父は陣どって説教を始めていたのだった。眼鏡をかけた彼の穏やかな顔は、黒服とあいまって一種独特な雰囲気を醸し出している。聴衆は若草色のドレスをまとったショートカットの女性、アスタシア一人。通行人は歩みを止めるどころか、何か見てはいけないものを見たように早々に立ち去ってゆくのであった。

ウォン神父は言葉を切って少し空を見上げた後、こう続けた。

後ろを何げなく通り過ぎようとして突然名指しで呼び止められた男性、一瞬わけもわからず立ち止まり、声の主を見た。肩をすくめ一旦は通り過ぎようとしたが、2歩進んだところでもう一度振り向いた。少しの間立ち止まって考え事をしていたが、やがて向きを変え、2人のもとにゆっくりと歩み寄ってきた。

ストライクは目をキョロキョロさせて現在の事態を推測しようと努めるが、あいにくそこにあるのは、ストライクをじっと見つめる4つの目だけ。助けのなさそうなことと、そしてアスタシアの真剣なまなざしに気がついた彼は、あわてて目をそらせてはみたものの、既に手遅れであった。

ウォン神父はゆっくりと段を降りると、そのまま公園の出口に向かった。ついていくアスタシアと、周囲の目を気にしながらその後をついていくストライク。そして緊張感が解け普段の様相を取り戻した公園が残された。

ハンターズギルドのカウンターに片ひじを付きながら、中のオペレータの画面をのぞき込んでいる男。彼こそが、後に聖戦士としてごくごく一部の人に崇められるランディその人である。そんな彼の肩をポンと叩く者があった。

ランディとウォン神父の歴史的な出会い、それはこんなごく普通の挨拶であった。

ランディが理解できなかったのも無理はない。なぜなら、彼はまだ聖戦士としての覚醒をしていなかっただけではなく(もっとも、結局最後まで覚醒なんてしなかったのだが)、教団の存在すら知らなかったのだから。カウンターで職探しをしている最中にこのように呼び掛けられたら、誰だって同じ反応をするであろう。

ウォン神父は、決して理想主義者でもなければ、狂信者でもない。彼の優れた所を挙げるならば、神に仕えながらも現実をしっかと見据え、目的のためにいかなる手段をも取ることができる行動力を第一に挙げるべきであろう。この素質のおかげで、彼は教会の発展におおいに貢献したのである。

ランディはこう言うと、3人(ウォン神父とアスタシア、そしてついてきているストライク)に向き直り、姿勢を正した。

いつものように挨拶をかわすランディ。しかし次の瞬間から、彼の笑顔は苦笑に変わるのだった。

今まで後ろで見ていたストライクは、ランディの横に進みでると、彼の肩をポンと叩き、首を横に振った。ランディは彼のまなざしから何かを認めると、肩を落としてため息をついた。ストライクもそれを見てため息。

ホーリーエムブレム、それは神とのチャネルをできるだけ効率よく開くよう設計された、直径8cmの丸い青銅板である。紋章学と幾何工学の粋を集めて慎重に設計された図案の中央に、天からのタキオンエネルギーを最大限集められるよう精密にカットされたカットガラスがはめ込まれている。通常なら教会幹部しか身につけられない代物である。

ランディは、ウォン神父の話が途中であるにも関わらず、自慢のマシンガンを担いでハンターズギルドを後にした。そして急いで3人が後を追いかける。

ギルドカウンターの中のオペレータは、机の引き出しからチョコレートを一つ一つ口に運びながら、いつまでも思い出し笑いをするのだった。彼女らの今日の昼休みの話題は決まったようなものだ。