はじめに
RPGという言葉がこれだけメジャーなのにも関らず、ロールプレイングゲームの本質というのは案外知られていないようである。「ロールプレイって何?」という質問をあちこちで見かける。
そしてそれに対して「自分の作ったキャラになりきる」という回答がよくされる。なぜなら「ロールプレイって何?」って聞かれても簡単に答えられないからだ[1]。そして質問した方は「ああ、ロールプレイってなりきりのことなのか」と理解して去っていくわけだ。
一方RPGとは関係なく最近「なりきり」という言葉も一般によく聞かれるようになってきた。昔はコスプレとか風俗店などどちらかというとネガティブなイメージの場所が多かったが、現在は一般に浸透してきている。
さて、これはゲームとはおよそ縁のない一般人だけの話かと思っていたがどうもそうではないらしい。そして困ったことに、皆が「ロールプレイはなりきりのことです」と説明を逃げてしまったがために、「ロールプレイ=なりきり」の図式が定着してしまった感がある。
そもそも同じ事を表すなら2つの言葉はいらないのだ。ここでは「ロールプレイ」とは何かについてくどくど述べていきたい。ここではテーブルトークRPGの話をする。なぜならなりきりとロールプレイの違いが一番はっきりするのがテーブルトークRPGだからだ。
例によってまず注意
この文書では「なりきり」を非難する文章が多いかもしれない。しかし勘違いしないで欲しい。私は、「世間一般で言うところの『なりきり』という言葉では、本来のなりきりの意味とこの文書でいうロールプレイとがごっちゃになってしまっている」とここでは主張したいのだ。私はロールプレイは賛成派だ。だからこそ「ロールプレイ=なりきり」という図式には我慢がならないのだ。
もしあなたが「なりきり賛成派」で、なりきりという言葉を侮辱する輩は我慢できないのならば、次章以降の「なりきり」という言葉を「メロン」とか「オレンジ」に置換して読んでほしい[2]。その上で置換した後の「メロン」という言葉に対する言及が我慢できないのであればそれは仕方がない。意見の相違というやつだ[3]。逆にもしこの文章の言う事に賛成だったら、あなたが今まで「なりきり」だと思っていたのは実は「ロールプレイ」という別概念のものだったのだ。あなた自身「自分の思っているのはなりきりとは何かが違う」と思っていなかっただろうか?それもそのはず。別物だったのだから。
私は意見の相違についてとやかく言うつもりはない。趣味が合わないというのは誰にでもあることで、人に無理矢理趣味を合わせなければならないというものでもない[4]。そして「なりきりの好き嫌い」の問題は単なる趣味の問題だと思っている。理屈で割り切れるものでもないし、説得してどうにかなるものでもない。他人が「なりきり」を面白いと感じていればそれは結構。別に犯罪行為でもないのだから、自分が面白いと思っている事をやるのに人から文句を言われる筋合はない。
私は「なりきり」は嫌いではない。ゲームの色付けとして「なりきり」は面白い。ただ「なりきり」と「ロールプレイ」は違うと言いたいだけなのだ。私が「ロールプレイ万歳!」と言うのを「なりきり万歳!」と勝手に翻訳されたくないだけなのである。
もう一つ付け加えておくが、ここでは「ロールプレイ」をかなり狭い範囲を表わす言葉として使っている。そしてこれが本来の正しい意味だと思っている。しかし他の文書では「ロールプレイ」をもっと広い意味で使っている場合もある。「お前、他の文書と言ってることが違うじゃないか」と反論する向きもあるかもしれないが、まあそれはそれ。言葉の定義は難しい問題だから適当にごまかして使っていると解釈してほしい。ただこの文書の中では「ロールプレイ」という言葉の表す意味は一貫している。
言葉の使い方に関する注意
本文書では「ロールプレイングゲーム」とカタカナ書きにする場合と「RPG」と略記する場合[5]を厳密に使い分けている。カナ書きの「ロールプレイングゲーム」には、「ここで言っているロールプレイの概念をわきまえた上で遊ばれる」というニュアンスがあり、「RPG」は「なりきりも何もかも一緒くたになった現在ルールブックとして存在しているゲーム」のことを表している。
もう一つ、例として出てくるキャラクターは架空のもの[6]である。そして例も実例ではない。
細かい所だが詳しい人向けに注釈しておきたい事がある。本文で「D&D」と書いた場合、これはAD&DではないD&D、それも特にベーシックセットやエキスパートセットを指す。本文ではD&Dを「古い」と形容している個所が多くあるが、現在ではD&Dも着実に進化して現在でも人気のあるゲームの一角をなしている。古いと形容しているのは昔の話で、現在のD&DやAD&D(AD&Dは3rdからD&Dという名前になったが)にはこれらのコメントがあてはまらない事に注意していただきたい。