「ロールプレイ」と「なりきり」

「ロールプレイ」は「なりきり」ではありません。どう違うのかをじっくり見てみましょう。

まとめ

これまで長々と「なりきり」と「ロールプレイ」の違いについて見てきた。一番の違いは冒頭で述べた「このキャラだったらどうするか?」と「自分だったらどうするか?」の違いであり、あとはすべてそこから演繹されるものだ。この通り同じゲームに見えてまったくの別物なのである。例えていえば「囲碁」と「連珠(五目並べ)」の違いのようなものだ。

なりきり派ロールプレイ派ともども相手の非難は意味のない事である。違うという事実を認識せよ。なりきり派は堂々と「なりきり」だと、ロールプレイ派は「ロールプレイ」だと言おう。

違いは外見ではわからない

「なりきり」と「ロールプレイ」の違いは今までさんざん言ってきたように「目的」だ。だからプレイを見ている限りでは同じように見える。ここが問題なのだ。キャラが何かした時に「自分はこれが正しいと思って行動する」のか「キャラはこういう場面でこうするに違いないと思って行動させる」のかは本人でないとわからない。そして外見では違いがわからないから、相手がどういうつもりなのかがわからないのだ。そしてそれが様々なトラブルを引き起こす。

よく「なりきり」はキャラの口調で演技をして「ロールプレイ」はキャラの口調による演技をしないという人がいる。これは誤解だ。ロールプレイでもキャラが怒っている時は強い口調になるし、人に何か頼む時はへりくだった口調になる。しかしこれは「人に何か頼むキャラの様子を演技している」わけではなく「自分が頼んでいる」のだ。「演技=なりきり」と言っているわけではない。演技をする事が目的であるという意識をなりきりだと言っているのだ。

「ロールプレイ」の説明をするとよくここを誤解される。演技もなにもなく淡々とゲームが進行するより、それらしい台詞を言ったり口調を真似たりして臨場感が出た方が面白いじゃないか、という反論がよく出てくる。この反論は二重の意味で間違っている。まず、淡々とゲームが進行しても十分面白い。そしてそれは置いといたとしても、ロールプレイ派のほとんどはこうしたノリノリのプレイをしている。それを目的としているわけではないというだけなのだ。

例えば「人生ゲーム」を皆ノリノリでプレイしているとしよう。誰かのコマが「結婚」のマスに止まったら、きっと「ちゃんららら〜ん」と結婚行進曲を歌うし、祝い金は「○○さん結婚おめでとう」と言って手渡すだろう。しかし人生ゲームの目的はお金持ちになることであって、結婚式の真似ごとをするのが目的ではない。結婚行進曲を歌って「○○さん結婚おめでとう」と言うのが目的なら別に人生ゲームの盤なんていらないじゃないか。

人生ゲームの本来の目的を放棄すると、「とにかく面白い選択肢をとる」という方針に変わってしまう。二手に分かれた道で片方が「何もなし」でもう片方が「勤め先が倒産。無職になる」だったらどちらを取るか?後者を取れば笑えるネタになるし、給料日が来るたびに「どーせ俺は」と嘆くネタにもなる。そしてどちらを取るかが「ロールプレイ」と「なりきり」の境目なのだ。

自由と責任

最後に一つ付け加えたい事がある。プレイヤーの自由と責任についてだ。「なりきり」と「ロールプレイ」、どちらが自由に行動できるだろう?

答えは「ロールプレイ」である。ロールプレイでは、基本的にキャラがとれる行動は何でもしていい。ただしそのデメリットを受ける覚悟がある場合は。そしてデメリットを受ける覚悟というのは「責任」である。つまりロールプレイではキャラの行動に責任を持つかわりに自由に行動ができるというのだ。

ロールプレイでキャラが他人に悪口を言ったならば「キャラ=プレイヤー」なのだからそれは自分自身が相手の「キャラ=プレイヤー」に悪口を言ったことになる。悪口を言うなというのではない。悪口を言う事に決めたのはキャラではなく自分自身だということを念頭に置いて、反撃覚悟で望むべきだ。

それに対して「なりきり」では基本的にキャラの行動はキャラの設定に合うように制限される。冷酷な人間は人情にほだされたりはしないのだ。そしてその代わりにプレイヤーはキャラの行動に責任を持つ必要はなく「キャラがこうなんだから仕方がない」ですむ。これが「なりきり」のルールだ。

「なりきり」の人にひとつお願いをしたい。「なりきり」のルールを一般に適用しないでほしいということだ。「これはロールプレイングゲームだ。そしてロールプレイ=なりきりだ。なりきりではキャラの行動に責任は持たない。」という三段論法でキャラの行動を正当化する人がいるが、これは2段目が間違いだ。「ロールプレイ=なりきり」ではないのだ。ロールプレイではプレイヤーはキャラの行動に責任を持つ。あなたの行動はロールプレイングゲームだからといって正当化されるべきではない。

だから「なりきり」をするなら、閉じた場でやってほしいのだ。「ここではなりきりをする」ときちんと決めて、その場にいる全員に了解を取って、その上ではじめて「なりきり」をしてほしい。何も知らない一般人相手に「なりきり」をしてもトラブルを起こすだけだ。[1]


  1. そして、個人的なお願いとしては、こういう事をしたいのなら「ロールプレイをします」といって集めるのではなく、「なりきりをします」といって集めてほしい。なぜなら、「ロールプレイ」だと称すると、こんなのはロールプレイじゃないとかみつく筆者のような頭の固い奴がいるからだ。 ↩︎