「ロールプレイ」と「なりきり」

「ロールプレイ」は「なりきり」ではありません。どう違うのかをじっくり見てみましょう。

シナリオ

キャラ設定の次はシナリオについて話をしたい。そもそもシナリオとは何か?何のためにあるのか?これも「なりきり」と「ロールプレイ」ではずいぶん違う。

「なりきり」におけるシナリオ

「なりきり」においてシナリオとは各人が演技をするための共通の土台である。だいたい筋書きは決まっていて起承転結にのっとっている。最初に街の人から頼み事をされて捜索を始める。すると敵が妨害工作を仕掛けてきたり、探索の途中でモンスターに出会ったりする。やっと敵のアジトを突き止めたと思った瞬間、本部は別の所にあることを知る。そして、キャラクター達は全員でそこへ殴り込みをかけて、大活躍をして、敵を倒して終了、とまあこんな感じの筋書きだ。

この筋書きにのっとってプレイヤーは演技を求められる。この場面で戦士にふさわしい行動は?巫女にふさわしい行動は?かっこいい台詞を言ってキメてくれ。

と、こう言うと「シナリオってのは一本道じゃない」と反論する人もいよう。キャラの行動次第で変わってくる、と。途中で戦士がお姫様に恋をしてラブラブ話になるかもしれないし、あるいは満身創痍、全滅覚悟で立ち向かう悲愴な話になるかもしれない。それはみなプレイヤー次第であり皆で即興で話をつくるのが醍醐味なのだ、と。

「ロールプレイ」におけるシナリオ

「ロールプレイ」においては筋書きは最初から存在しない。あるのは舞台設定だけだ。どこにどんな人がいてどんなモンスターがいてそれらは何時になるとどこへ移動する、というようなことが決められている。

たいていは依頼から始まるのは同じだがそれをどうやって実行するかはプレイヤー達にまかされている。マスターから出されているヒントを元に依頼を達成する方法を皆で考えるのだ。

慣れていないと敵のアジトに正面から殴り込みをかける事しか思いつかないかもしれないが、大抵は下調べとか聞き込みから始まる。敵の防御が薄いのは何時かとか、どこかで罠を仕掛けると効率がいいとか、あるいは市当局にかけあって戦力を回してもらうだとか、そういった方法をいろいろ考えてみる。

プレイヤーが行動をするたびに時間が経ち状況は変化していく。モンスターをうまく倒せば早く中心部に到達できるかもしれないが、手間取ったりすると増援が到着するかもしれない。しかし、その増援はこちらが仕掛けた罠に落ちて全滅するかもしれない。そういった様々な状況を生み出すのがシナリオである[1]

プレイヤーは様々な行動が可能だ。それをした場合どうなるかを示すのがシナリオであり、ゲームマスターの役割だ。

シナリオとドラマ性

さて、こう書くと「もし敵が罠で全滅したりしてしまったらどうするんだ。見せ場もドラマもあったもんじゃない」と言う人がいるかもしれない。その通り。ロールプレイには見せ場もドラマも必要ない。あえて言えば、敵が罠で全滅するなんてドラマチックじゃないか?

もう一度言う。ロールプレイにドラマチックな場面は必要ない。それどころかドラマチックな場面に出くわしたとしたらそれはよくないプレイだ。プレイヤーは最も危険が少なくなるように行動すべきなのだから。自分たちは危険を犯さず、しかも確実に敵をやっつけるのが一番よいプレイなのである。

もっとも、確実に勝てる敵を相手にしたのでは面白くないから相応の量の敵が用意される。だから、プレイヤーはどこかで危険と隣り合わせになるはずだ。しかし、そこを知恵と作戦で切り抜けてこそドラマだと筆者は思うが、あなたはどうだろうか?

キャラに「見せ場」が存在するとしたら、それは罠を仕掛ける場面であり、知恵を出す場面であり、インヴィジビリティの呪文を使って敵のアジトを偵察する場面だ。決して敵を前にファイヤーボールを撃って大ダメージを与える場面ではない。実際に例を挙げるまでもなく面白い映画では緊迫した場面で発揮されるのは主人公の知恵と作戦だ。ただ見た目が派手な場面が面白いのではない。

シナリオの必然性

ロールプレイの場合、シナリオはキャラが行動した結果できるものだ。だからそこで起こる出来事はキャラの行動に沿ったものではなくてはならない。特に悪い出来事ではそうだ。「なりきり」の場合では「面白いから」というだけでどんな場面でも突然出すことができるので、その点の相違に注意しなくてはならない。

「一本道のシナリオではなく、キャラに選択を持たせよう」というのはよく言われる事だが、「なりきり」と「ロールプレイ」ではその理由が違う。なりきりの場合は「人間の葛藤を描くのが面白いから」であって、ロールプレイの場合は「どっちがよい選択かを考えるのが面白いから」である。なりきりの場合は場が盛り上ればいいのだが、ロールプレイの場合にはそれが後につながらないといけないのである。

例えば、「戻ってみると宿が火事だった。中には逃げ遅れた人がいる。さあどうする?」なんて場合だ。そのまま飛び込むと自分も焼け死んでしまうかもしれない。

「なりきり」の場合はここでキャラなりの解を見い出せばいい。勇敢なキャラや自己犠牲のキャラだったら飛び込むだろうし、冷たいキャラなら静観を決め込むかもしれない。心の葛藤を表現するなんてのもいいプレイだろう。盛り上がる場面だ。

「ロールプレイ」の場合、プレイヤーは「どうしろって言うんだ」とぶつぶつ文句を言うだろうし、こんな場面を設定したマスターの方が悪い。火事はキャラの責任じゃないし、飛び込んでも死ぬ危険性の方が大きい。もちろん中の人を助けるに越したことはないが危険を犯してまでやる理由がない。おそらくできるのはバケツリレーに参加することくらいだろう。

「なりきり」と「ロールプレイ」の大きな差は、ここでキャラが飛び込んで焼け死んだ時に出てくる。なりきりの場合は「○○さんらしい感動的で壮絶な死に方でした」と皆から賞賛されるのに対し、ロールプレイの場合は「馬鹿だなぁ、だからやめておけと言っただろ」と皆から非難される。

シナリオのまとめ

「なりきり」にとってはシナリオとはキャラとして演技するための舞台である。そのキャラにふさわしい場面であればキャラはうまく演技することができプレイは盛り上がる。「場面=シナリオ」である。

「ロールプレイ」にとってはそうではなく、シナリオはキャラ設定と同様にメリットとデメリット、そして目標と条件の寄せ集めである。様々な条件を考慮して一番いい行動を考えるのが「ロールプレイ」だからだ。

「ロールプレイ」においては話はあらかじめ決まっているものではなくキャラの行動によってできるものだ。そしてそれは抑揚のある面白いストーリーになるとは限らない。しかしそれでもいいのだ。ストーリーが目当てじゃないのだから。


  1. 「これのどれがシナリオ?」と聞かれるかもしれないので念のため記しておく。中心部はどこにあるか。モンスターがどこに待っているか。そして増援がどこからどこを通っていつ到着するか。これがシナリオだ。 ↩︎