ゲームマスタリングの方法

TRPGのゲームマスタリングをする上でよく問題になる項目を検討します。

世界設定

さて、ゲームシステムが決まったら次はどの世界を冒険するかについて考えます。ただ、多くの場合ゲームシステムを選んだ段階で一意に決まってしまうでしょう。ここでは世界設定についての注意点について述べます。

世界設定とは何か

さて、世界設定とは何でしょう。TRPGを買えば「ワールドガイド」というような名前の章があり、そこには大陸の地図や王国や街の様子などが書かれています。つまりはその世界はどういう所なのかが書いてあるのが世界設定です。ここに書いてある世界をPC達は冒険するわけです。

TRPGにおいてはゲームシステムも世界設定も同じ「ルール」です。ゲームシステムに書かれたルールは地球上どこでも(たまに地球でなかったりもしますが)同じように通用するのに対して、世界設定はそうではないというだけです。そしてその目的も同じで、PC達の行動に対する結果を示すものです。「剣で切りつけた。ダメージは?」という時にはゲームシステムを参照し、「酒場で隣の男に声をかけた。どういう反応をする?」という時には世界設定を参照するのです。

世界設定というと往々にして世界地図や大陸といったマクロ面が注目されますが、街の地図やそこに住む人々といったミクロな面もまた重要です。大陸をまたにかけた冒険の旅であればマクロ面が重要ですし、街の中だけで完結するような話では大陸の地図なんかより街の人々の方が重要です。

ゲームマスターはゲームシステムと世界設定の二つを基にしてPC達の行うすべての行為の判定をしなくてはなりません。例えPCがどんな突拍子のない行動をしてもです。これは難しい作業にも思えますが、実際のところはその世界の常識がわかっていればそんなに困難な作業ではありません。「この世界でこんな事をしたらいったいどうなるだろう?」と想像してみて下さい。そしてその程度や確率など数値的な面をゲームシステムや世界設定で補って下さい。結局のところ、それがゲームマスターがゲーム中にするすべてです。

世界観の食い違い

世界設定は結局のところ「その世界の常識」です。そして、常識というのは往々にして各人で食い違っているものです。それがゲームマスターとプレイヤーの間でトラブルを生じさせます。

例えば「中世ヨーロッパ」のイメージ自体が人によって違うでしょう。ある人は立派な城に住まうきらびやかな騎士などが活躍した栄光の時代を思い浮かべるかもしれませんが、実際には「暗黒時代」とも称されるように、当時最先端だったアラビアや中国に比べてずっと科学的文化的に遅れた地域だったのです。「中世ヨーロッパ的ファンタジー世界」をやる時に、「立派な城と騎士」のイメージを持っている人と「暗黒時代」のイメージを持っている人とでは当然様々な面で食い違いが出てきます。

こういう事を無くし、ゲームの対象となる世界について皆同じ認識を持ってもらうのが世界設定の役割です。世界設定はゲームマスターの頭の中にあるだけではだめで、プレイヤー全員の頭の中にも同じものがないといけません。

この点で小説を基にした世界設定は有利です。この問題を「小説を読んでね」で解決することができるからです。そしてその小説が面白ければゲームの楽しみも増します。だからできるだけ小説を基にした世界でゲームをすることをお勧めします。ただその場合は小説が既に完結しているものがいいでしょう。自分達のプレイと矛盾する内容の事が小説の最新刊に書かれると困りますから。

自作の世界設定

ここで一つ注意しておきましょう。自分で世界設定を作ろうとしてはいけません。これは素人には手に負えない大事業だからです。ルールに付属のものを使うか別売のサプリメントを買うようにしましょう。少なくとも既存の小説から設定を借りてくるようにしましょう。

ファンタジー小説などを読んでいると、自分もこうした異世界を構築したいと思う人もいるでしょう。自分で独自の世界でのファンタジー小説を書いた事がある人もいるかもしれません。しかし、小説ですらこうした試みは大変な仕事ですが、TRPGではさらに大変なのです。

理由は簡単です。小説と違って「都合の悪い事には触れない」ということができないからです。その世界についてプレイヤーから何を聞かれてもちゃんと答えられるようでないといけませんし、それに矛盾があってはいけないのです。これがどのくらい大変な事なのかわからない人は「指輪物語」の追補編を見てみて下さい。これだけ膨大な設定が必要なのです(そしてこれはほんの一部なのです)。あなたにはそれをする自信がありますか?

そして世界設定を自作してはいけない一番の理由は、それが無駄な努力であるという事です。ゲームマスターが創造力をはたらかせるべきなのは世界設定ではなくシナリオなのです。

史実とシナリオの矛盾

ほとんどの世界設定では、その世界の年表や主な王国の歴代の王様などが書かれています。ここで一つ疑問に思うことがあります。「PC達が歴史を書き換えるような大事業を成し遂げたらどうするのだろう?」と[1]。例えばPC達が悪の帝国を倒して統一王国の王様になってしまったら、年表に書いてあるような出来事は起こらなくなってしまいます。この問題は特に小説の世界を借りてきた世界設定で起きます。その世界においては、世界を救ったヒーローはPC達ではなく小説の主人公なのですから[2]

これに対しては2通りの解答があります。一つ目の答えは「そんな大それたシナリオは作らないようにしよう」というものですがそれはおいといて、二つ目の解答は「自分の都合がいいように手直ししてかまわない」というものです。この世界はあなたの世界なのですからあなたが好きなように手直しすればいいのです。もし小説を読んだプレイヤーが文句を言ったら「パラレルワールドです」と言えばいいだけの話です。

TRPGは小説の世界をなぞるのが目的なのではなく、小説の世界を使うと便利だから借りてきたというだけなのです。だから自分の使い易いように変えてしまってかまわないのです。

世界設定は重要である

世界設定はゲームシステムと並んで、ある意味ではゲームシステムより重要な要素です。なぜならゲームシステムはその場で「サイコロを2個振って○○以上が出たら成功にしよう」と勝手に決められるのに対し、王国の政治体制や街の地図をとっさに用意するのはとてもできないからです。

世界設定はそういう意味で非常に重要ですからできるだけ既成のものを買ってきましょう。「自分だけのオリジナル世界」というのは魅力的ですがその労力は報われません。一から作る代わりに既製品をあちこち改造しましょう。それが言うなれば「自分だけのオリジナル世界」なのです。


  1. これは多くの人が世界設定を自作したがる理由でもあります。自分で一から年表を作ってしまえばこういった問題も起きませんから。 ↩︎

  2. 例えば「指輪物語」ではPC達がサウロンを葬るようなシナリオはできないわけです。この世界でサウロンを葬るのは例の旅の仲間なのですから。 ↩︎