ゲーム脳とは何だったか

懺悔、お詫びと訂正

今まで「ゲーム脳の問題を真面目に受け取れ」などとくそ真面目に言っていたものだから、自戒をこめてこの本を笑い飛ばすことにします。本論とは違って、ここでは「ゲーム脳の恐怖」という本がどうおかしいかを書きます。


この本はまえがきにトンデモ本の典型を見ることができます。「今の若いモンはなっとらん」と「昔はよかった」の2つの考え方です。幕張のゲームショーで見かけたコスプレにいたく衝撃を受けたそうで。なんとも小市民的な話で微笑ましいです。そういやドリフも今ではコメディアンの神様みたいに言われているけど当時はPTAにさんざん非難されていたなぁ。よく知らないけどプレスリーも同じですよね。

で、義憤にかられて脳波調査をしてしまいます。もともと痴呆とα波/β波の関係を研究されていたそうで、そう専門外でもなさそうです。痴呆老人かどうかを見分けるにはなかなか有効な手立てになるかもしれません。そしてゲームをすると人の脳波は痴呆老人並みになる!! これはショッキングな発見です。安静時には誰でも痴呆老人並みになる、という点を忘れれば。

で脳波などのデータを挙げた後、また若者への愚痴になってしまいます。電車で化粧をする、人前でキスをする、などなど。私なんかは別にいいんじゃないかと思いますが、おじさんには相当ショックなのでしょう。でこれも全部ゲームが原因だということになってしまいました。ちなみに世の中の悪い事の原因がすべて一つの所にあると理由なく言い切るのもトンデモ本の悪い癖です。


で章が変わるといきなり退屈な脳科学の講義になります。まあこれが間違いということはないでしょう。一応教授だし、あたりさわりのない事しか書いてありませんから。ぱらぱらとめくって見ると、ばばーーん!! 出ました「ブレインモニターEMS-2000」。トンデモ研究者お得意の怪しげな測定マシーンですよ。いえ、測定マシーンが悪いというわけではないのです。普通、一般向けの新書では測定方法なんて省略しますよね。書いてもせいぜい大まかな原理くらいで、フィルタがどうとか積分器がどうとかいう専門的な話は省略するものなのですが、それを自慢気に書くところがまた……。しかし次に出てくる痴呆についての研究成果はほーなるほどという感じ。ここで終わっていればまあ論文の数本も書ける普通の研究者ですわな。

そしていよいよ本題、脳の4つのタイプが出てきます。大学生をゲームをする頻度で4つに分けます。驚いたのがノーマル脳の人たち。なんと生まれてこのかたゲームをしたことのない大学生だそうです。へー、そんな人がまだいるんだ。礼儀正しく成績も上位だって書いてあるけど……ってちょっと待った! 「人たち」っていうのは間違いでした。複数形じゃないんだね。冷静に考えてみれば女の子ならそう不思議でもないのかも。

まあ普通の人はビジュアル脳でしょう。この人達はゲームをやめるともとに戻るのでまったく問題なし。成績も優秀なのだそうです。って、やっぱりいちいち「成績」とか「礼儀正しい」とか書くからトンデモ本って言われるんですよ。まったく。で問題は半ゲーム脳とゲーム脳。ゲームをよくやる人の脳で、はじめからβ波が出ていません。確かにこれは明らかに何か違います。

その後ゲームの種類によってパターンが違うという話があって、RPGの話になります。でゲーム脳の人がRPGをやった時の脳波が出てきます。ここでなんとびっくり! ゲーム脳の脳波が正常の脳波に戻っているではありませんか。ゲーム脳はRPGで直せ?RPGバンザイ!! よくわからないけどとにかく一安心。

あと、ブロックパズル(テレビゲームではなく立体のもの)をやってもβ波は出なくなるようです。ご注意あれ。やっぱり悪いのはゲームではなくブロック操作なのでしょうか……。そしてなんと、読書も良くないそうです。活字を追っている瞬間にはDDRと同じくらいにまで下がってしまうそうです。しかし読書しながらあれこれ考えるとβ波が出てくるのだそうで。つまりあれこれ考えよと。まあこれは読書に限らずゲーム全般にも言えることですね。


そして次へ進むと、4章はなんと「β波を上昇させるゲームもあった!?」です。好感度アップ。トンデモ研究者は自分の主張の否定は普通しないものですが。とはいっても、RPGで脳波が戻ったことに対する言い訳でした。

内容はというと、RPGは常にストレスにさらされるからよくないという話です。私はこれも思います。私はRPGでは感じないけどキツめのアクションゲームで感じます。ここでジャンプにしくじったら……なんて時には胃が痛くなります。ホラー映画なんかも強烈なストレスだそうで。まさに「手に汗握る」というやつですが、確かに毎日何時間もそんな状態だと体を壊しそうです。

もう一つβ波が上昇するゲームがDDRだそうです。音ゲーは脳にいい!? って、体を動かすゲームでないといけないのか……ドラマニくらいではダメですかね。本では歩けと書いてありますが、面白くない運動はしても意味がないと書いてあります。ゲーマーというのはたいてい運動嫌いですからそれじゃ意味なし。


さて、締めくくりの第6章と第7章ではデータはおいといてトンデモ本らしさ爆発です。子供のうちはゲームをさせてはいけないとか、親子のスキンシップが大切とか、お手玉をしろとか、いろいろ言っています。脳に必要な栄養素なんていうドクター中松じみたことまで言っています。だからトンデモ本だって言われるんだって。

でも、当初思っていたほど笑い飛ばしてはいおしまい、という気には私はなれませんでした。全般的に散見されるトンデモ本的なお説教臭さを抜けばそう変なことも言っていません。事あるごとに「昔はよかった」と言う癖と「テレビゲームは」とひとくくりにしてしまう癖さえ抜けば、わりといい線いってるんじゃないでしょうか。要は底の浅いゲームをサルのように長時間やるな、ということでしょう。

しかし、学園祭であの怪しげなブレインモニターを使って「ほら、脳波が低下してるぞ~」と子供を脅すというのは、やはりトンデモ研究者ならではだと思います。別に多少低下してもいいじゃん。お手玉すれば復活するんだし。