コラム: 宝くじの分析

宝くじって損?得?

サマージャンボ宝くじの当選番号が発表になった。ということで、今日は宝くじについてである。

宝くじにこんなに人気があるのはなぜだろう。そして、その賢い利用法とはどんなものだろう。あくまで客観的に分析してみたい。

なお、ここで使用するデータはみずほ銀行 宝くじトピックスJRAのものを使用した。


宝くじの損得を考える上で最も重要なデータは払い戻し率であろう。これは宝くじの総売り上げに占める当選金の割合、つまり宝くじを買った時に当たるお金の期待値だ。主なギャンブルの払い戻し率は次の通りである。もちろん、この割合が高いほど、お金が帰ってくる確率が高いということである。

宝くじ46.4%
競馬75%
ルーレット95%

この表をみると、宝くじより競馬やルーレットの方が儲かりそうだ。しかし、ここにはワナがある。この数値には「回数」の概念が入っていない。

一般に、宝くじを買う回数より馬券を買う回数、ルーレットをやる回数の方が多い。だから、「一回に払い戻される金額」ではなく「一年間に払い戻される金額」を考えないといけないのである。

例えば、1万円を元手に1年間、これらのギャンブルをやったとしよう。宝くじならジャンボを年3回、競馬ならG1レースを年20回、ルーレットなら一日で100回くらいはベットできるだろか。回数が増えると戻ってくる確率は指数関数的に減少する。例えば、上の例のでは次のようになる。

種類払い戻し率1万円が1年後に
宝くじ46.4%998円
競馬75%31円
ルーレット95%59円

これを見ると、宝くじは圧倒的に「損が少ない」ギャンブルである。


確率を無視した「最高払い戻し倍率」を考えると、もっと宝くじに分がある。

宝くじは200円払うともれなく2億円が手に入るチャンスが生じる。倍率にして一千万倍だ。競馬だと万馬券でも百倍に過ぎないし、そうそう万馬券が出るものでもない。ルーレットでは36倍だ。

だから一獲千金を狙うなら宝くじが最も効率が良いといえよう。


しかし損が少ないとはいっても確実に損をするのも確かである。なんでそんなものをわざわざやるのだろうか。「バカだから」で済ませるのは簡単だが、合理的な理由もちゃんとあるのだ。

ギャンブルが計算だけで納得できない理由には次のものがある。

  • 人間は小額のお金よりまとまったお金の方を(実際の倍率より)好む。100円をこつこつと1万回に分けてもらうより、一度に100万円もらった方がずっとうれしい。
  • 人間は不確実なものを嫌う。しかし確率的に手に入るのは割と寛容だが確率的に損をするのを嫌う傾向にある。

最初のものが宝くじの根拠だ。200円と1億円を比べると、本来なら価値は500万倍だ。しかし1億円がひょいと手元に入るうれしさはそれよりはずっと大きい。サマージャンボでは確率は1000万分の一だが、妥当なところではないだろうか。最近ではお店の割引サービスでも、5%割引の代わりに20人に一人タダというようなサービスがあって人気を集めている。これも同じ理屈だ。

そして、確実性については次の質問をするとわかる。「あなたの今日のアルバイト代は5000円です。しかし、私とじゃんけんをして勝ったらそれを2万円にしましょう。その代わりに負けたら給料なしです。」さて、どうするだろう?じゃんけんをしない方を選択する人もいるのではなかろうか。2万円はおいしい話だが、さりとて給料なしは痛い。もちろんこのあたりの価値観は、いつも財布の中に何万円も入っている人と札が一枚も入っていない人とではずいぶん違うだろうが。

では、次はどうだろう?「商店街の福引で1等、5000円の商品券が当たりました。そしてWチャンス! 店長とジャンケンをして勝つと、2万円の旅行券をプレゼント! しかし負けると商品券は取り消しになります。」さて、自分ならどうするか?前の例と同じ状況にもかかわらず、やる人が多いのではなかろうか?

人間は、もらえて当然なものに比べて、もらえなくて当然のものを偶然もらった場合はそのものに対する執着が少なくなる。いわゆる「あぶく銭は身につかない」というやつだ。だから給料のようにもらえて当然のものが確率的にもらえないとなると強い拒否感を感じるが、最初からもらえないはずの物は確率的にやっぱりもらえなくなってもさほど強い拒否感は感じない。

日本では株取引についてはほとんどが拒否反応を示すがこれも同じ理屈である。なぜなら、ギャンブルは「負けて当たり前、勝ったら儲けもの」なのに対して、株は「理論上は勝つがたまに負ける事もある」ものだからだ。株をギャンブルではなく資産運用という名前にして定期預金などと比較した時点で「勝って当たり前」という感覚が生じ、確率的な損に対して敏感になるのだ。

つまり、宝くじは「宝くじは当たらないということは分かっている。しかし、例え当たらなくても、もともと200円なんて全然惜しくない。それより1億円が手に入る僅かのチャンスの方がずっと価値がある」と思う人が買うものなのである。


というわけで、宝くじの仕組みがわかれば賢い買い方もわかるだろう。ごみ箱に捨てたとしても惜しくない額だけ買い、金を払ったことは忘れてしまう。あとは当選のわずかなチャンスを楽しみにすればいいのだ。たくさん買う事は損を増やすだけで何の意味もない。当選確率が1000万分の1から100万分の1になっても、投資金額に対する賞金の割合が10分の1になってしまっては「倍率」の面から見て悪くなっているのだ。「たとえ小額でも当たる確率が多い方がいい」という人は宝くじを買わない事をお勧めする。あるいは、100円出せば必ず100円が当たる宝くじを自分で発行しよう。

宝くじを買う量の目安は、「どこかに落としてしまった時にわざわざ戻って探そうとしないくらいの額」あるいは「友達にお金を貸した時に、『ああ、いいよいいよ、別に返してもらわなくても』と言える金額」であろう。そして、それ以上出しても後悔するだけだ。