名古屋城の木造復元計画の話

エレベーターくらいつければいいと思うのに、なぜこだわるのか

名古屋城の木造復元計画が、ずっとエレベーターをつけるつけないでもめていて、ちょっと前には差別発言で問題にもなりました。不思議なことに国政政党(になろうとしている団体)の重点政策にもなったので、ちょっと書いてみようと思いました。


名古屋はずっと、「魅力がない街」「行きたくない街」No.1と言われ続けています。とにかく、名古屋で「観光スポット」と言われても思いつかないんです(なお、「ジブリパークは?」と言った人はアウト、レゴランドはNGワード)。地方の人や地元の人が行く場所なら、名駅や栄などの都会も、水族館や動物園や科学館といった各種施設も充実してはいるのですが、「観光でわざわざ行くか?」と言われると、東京や大阪の人がわざわざ来る理由にはならないように思うのです。

他の地方の人は、もしかしたら「名古屋城」を観光スポットだと思っているかもしれません。しかし、「尾張名古屋は城で持つ」と事あるごとに言っている割に、名古屋城に観光に行きたいと言うと「あんなエレベーターまであるコンクリート造りのハリボテやめときゃあ」と名古屋の人は言うのです。その代わりに勧めるのは犬山城。なんたって日本最古の天守で、日本に5城しかない国宝の城ですから。電車で25分で行けて、川岸の丘の上に建つ絶好のロケーション。城下町にはインスタ映えする茶屋が並び、観光するにはもってこいの場所です。

名古屋周辺には、犬山城の他にも、岐阜城、岡崎城、小牧城、大垣城、清州城、墨俣城、かに本家豊田城、ぎふ初寿司など、名だたる城もそうでないものもいくつもあります。しかも、戦国の大河ドラマで必ず出てくる有名な史実の舞台があちこちにあります。それに対して、名古屋城は江戸時代になってから建てられたので、そうしたかっこいいエピソードとは無縁。しょうがないので徳川宗春を推したりしていますが、信長や家康と比べてしまうとやっぱりちょっとインパクトに欠けます。

あと、地味に困るのが、名古屋城の周囲が区割りの広い官公庁街で、散策してもまったく楽しくないところです。結局、すぐ近くにある地下鉄の駅と城を往復するだけになってしまいます。Googleマップで名古屋駅から徒歩35分というのを見ると、街散歩も兼ねて歩いてみてもいいかなと思うかもしれませんが、楽しいのは円頓寺までで、そこから先はひたすら殺風景な道が続きます。金シャチ横丁を作ったりしてなんとかしようとしてはいるものの焼け石に水。周囲に何もなければまだ発展の余地があるんですけどね。

結局、名古屋周辺は戦国時代の史跡や城が豊富にありすぎるため、ただの大きなハリボテ城の名古屋城では観光地になれないということです。


だからこそ、名古屋城を当時そのままの姿で木造復元しようという計画が持ち上がったのです。幸いなことに、詳細に測量された図面が大量に残っているので、それを元に作れば「寸分たがわぬ当時そのままの姿」と胸を張って言えるという好条件。なんでそんなにエレベーターなしにこだわるのか、もめるんだったらエレベーターくらいつけておけばいいじゃないかと思うかもしれませんが、名古屋で長いこと言われ続けてきた「エレベーターまであるコンクリート造りのハリボテ」というフレーズを払拭するには、木造でなくてはならないし、エレベーターがあってはいけないのです。ここが、このフレーズを知らないよその人には理解できないところなのです。

図面通りにエレベーターのない木造復元をしないと、「名古屋に来たらぜひ名古屋城見てってちょ」と胸を張って言えない、と(一部の)名古屋人は思っています。もしかすると、観光客にとっては木造かコンクリート造りかなんてどうでもいいことなのかもしれませんが。


史実通りエレベーターなしの木造復元をするという計画に対して、「バリアフリー化に配慮してエレベーターをつけろ」とクレームが入って、今もゴタゴタが続いています。この問題が、普通のバリアフリー化の話と構図が異なっているのが面白いところです。

普通、バリアフリー化でエレベーターをつけようというと、問題は予算と場所だけです。たいてい場所も拡張工事をすれば済む話で、結局はお金の問題になります。だから、バリアフリー化を要請する側は「エレベーターを付けてください」と言うだけでよくて、要請される側は懐具合に応じて予算をつける、という対応になります。つまり、理想を主張するだけでよくて、現実を考えるのは役所の側ということになります。

それが今回の場合は、木造で復元したい、そのためにはエレベーターは付けられないという制約がまずあって、逆に解決のためには多少のお金は出すつもりでいます。「何かいい方法があったら教えてほしい。お金なら出すから」と、ボールはバリアフリー化を要請する側に投げられているんですよ。それを利用すれば、車椅子モビリティの新規開発にかなりの予算がつくということにもなりそうなんですが、木造復元をつぶすの一点張りで、まったく話し合いになっていない。木造復元された名古屋城を車椅子でも観光したい、なんてことはこれっぽちも思ってないんですよ。「反対しかしない人たち」なんです。

「市長こそ人の話を聞かないんじゃないか」と思っている人も多いと思いますが、少し違います。あの人は、「お前のやろうとしてることに反対だ!俺の話を聞け!」と言っても絶対に聞いてくれないんですが、「困ってるんでどうか助けてください。私の話も聞いてください」と言うと喜んで聞いてくれるんです。よくよく考えれば、普通の人はそうですよね。政治家としてはそれじゃダメなのかもしれないけれど。

あの人は後ろ盾となる組織がないので、どんな人の話もホイホイ聞いて、そっち方面の考え方に染まってしまうんです。そして、複数の人が互いに矛盾(というか、利害が衝突)することを言うと、「どうせいっちゅうんじゃ」と怒り出してしまうんです。本当はそこから先が政治なんでしょうけど。


とにかく、名古屋城の木造復元は、(一部の)名古屋人のこだわりなんです。これで、名古屋にようやく観光スポットが一つはできるかもしれないんです。三種の神器がある熱田神宮でも、世界一大きなプラネタリウムの名古屋市科学館でも、日本一広い名古屋港水族館でも、動物の種類が日本一多い東山動物園でも手が届かなかった、「観光スポット」の称号。まあ、木造復元したとしても得られるとは限らない(というか、得られない)気もしますが。やっぱ、名古屋の魅力ってB級なとこなんですよ。やたらデカくしたがるのも含めて。

個人的には、城=戦国のイメージを完全に忘れて、宗春推しの元禄文化テーマパークにした方が人を呼べると思うんですがね。暴れん坊将軍の時代、みんな好きなのに意外とそういう施設ないですよね。キンキラキンの殿様衣装で舞い踊るカルナバルな城というのはどうでしょう。名古屋の人って斜め上の発想で妙なスポットをつくっちゃうのは大得意だと思うんです。