選挙制度の話

なぜ小選挙区制でなくてはならないのか

最近、「やっぱり中選挙区制の方が良かった」なんてことを言い出す人がちらほら出てきたように見受けられます。ひどい議員がわんさかいる今の状況をなんとかしたいのはわかりますが、「前に戻せ」と安易に言う人は、まずはなぜ変えたのかを思い出す必要があります。(どうも、最近この「思い出す」が軽視されているように思うんですよ。)

中選挙区制の問題は、大多数が「こいつはダメだ」と思っている人でも、一部の人が支持していれば当選してしまうところにあります。たとえば、3人当選する選挙区であれば、票は最高でも1/4ちょっとあればよく、普通はもっと少なくても大丈夫。となると、住民全員にアピールするのではなく、一部の人が必ず投票してくれるようにした方がいいことになります。その結果、いわゆる地盤を持っている人はどんな不祥事があっても必ず当選するようになります。いったん当選してしまえば、1位であっても2位であっても同じなので、積極的に1位を狙いに行く必要がないことになります。

一部の人が必ず自分に投票してくれるようにするにはどうすればいいか。一つは何があっても支持してくれるカルト的な団体を味方につけることで、もう一つは一部の人の利益になるように行動することです。どちらも、普通の人にとっては害悪でしかありません。


特定の団体が影響力を持つことが悪いと言っているのではありません。特定の団体が不相応な影響力を持つのが悪いのです。1位でも最下位当選でも同じ1人なのが悪いのです。だったら、得票率に応じて影響力を割り当てる比例配分方式の方がまだマシです。

比例配分方式の問題として、選挙区が大きくなるとか、政党に属していない一匹狼が当選できなくなるというような問題もありますが、日本について言えば、もっと本質的な問題があります。多くの政党が連立して内閣を形成することになるという問題です。

日本では、政党が「理念を同じくする団体」であると思われていて、特にその理念に対する純粋さが問われます。少しでもその理念に反することをすると、「裏切者」と呼ばれることになります。妥協を良いことではなく悪いことととらえ、妥協しないことが良いことだと思われてしまっています。そのせいで、複数の政党が連立を組むことができず、意見が分かれるような問題が持ち上がるとすぐに喧嘩してバラバラになってしまいます。

さらに問題なことに、日本には1つだけ、理念がなく、政権のためならどんな妥協でもし、誰とでも組む政党があります。そのせいで、必ずその政党が入ってどこかと連立して政権をとることになってしまいます。だから、日本では比例代表制は機能しないのです。


結局、一強多弱の今の日本では、一強に政治を任せるか、それは嫌かの二択しかありません。だから、目指すとしたら二大政党制しかないのです。

小選挙区比例代表並立制は、今の日本にとって、ギリギリの落としどころと言えます。「お前らちゃんとまとまらないと生き残れないよ」と言いつつ、いきなり小選挙区だけにしてしまうと本当に他の党が全部潰れて焼野原になってしまうので、他の党が存続できる最低限は確保しておく。そうやって、政治に対する意識を育てるしか方法はない、ということです。

われわれ有権者が考えを改めなくてはならないのは、党の中にいろんな考えの人がいるのは悪いことではなく良いことだということです。一つの方向しか向いていない人々の集まりが考える法律や政策は、どうしても偏ったものになるでしょう。いろんな考えの人が事前に党の中で議論することによって、多くの人が納得できる結論が出てくるのです。それは、単なる「数合わせ」ではありません。

多様な議論を嫌い、一方的な押しつけをしたい人は、「考え方の違う人は出て行ってくれ」と言いつつ、出て行ったら生きていけないような状況を作り出します。他人に踏み絵を迫るような人に、権力を渡してはいけません。

今の日本に本当に必要なのは、「この日本を良くしたいと思う人は誰でもいいから来てくれ。大いに議論しよう」という懐の広さと、「なんとしても政権をとる」という意気込みを持つ党です。もしそんな党ができたら、ぜひ応援してあげてください。