降伏の儀式

「現代の地球にいきなりエイリアンが侵略してきた!!」ってテーマは実はSF小説には多くない(B級SFには多いが)。あまりにもストレートなテーマすぎて、リアリティを持って書くことが難しいのだ。数多いようで実は少ない地球侵略テーマの傑作といえばこれ。

ストーリーは実にベタベタ。「侵略してきたエイリアンが地球の大都市を次々と破壊していく。地球人類の必死の抵抗やいかに?」というもの。なぜこのテーマが難しいかというと、常識的に考えてそれほど進んだ技術力を持ったエイリアンに人類が勝つなんて考えられないからだ。どうしてもウソっぽくなってしまう。であるからして、「どこかの天才科学者が作り出した怪しげな超兵器でエイリアンを蹴散らす」というなんじゃそりゃ的な結末と、「地球人が負けました」の悲劇的結末の間のどこかに落着くのが普通である。しかし、この小説はそうではない。安心して読んでほしい。

この小説のすごいところは、舞台が現代世界でしかも途中で非現実的な超兵器がでてこない、非常にフェアなところである。そう、まさに地球人の持てる力を最大限に結集して、エイリアンと真っ向から勝負するのである。出てくるのはすべて現状の科学技術で出来るものばかり、それと知恵を結集した戦いを堪能できる。

ベタなSFテーマでありながら、ちゃんと物語になっているところがまたすごい。現実の世の中にはヒーローもいれば自己中心的な人もいる。地球人側にも足を引っぱる輩がいる。ただただパニックになっている人もいる。そういった現実の人間社会がよく描かれているところがまたいい。

最後に、ニーヴンSFの特徴、ヴィヴィッドなイメージと滲み出るユーモアがこの作品にも色濃く表れている。まるで映画のワンシーンがそのまま出てくるような描写、そしてそれを思い描いて思わず吹き出してしまうユーモア、これが適度な緊張と弛緩を与えて飽きさせず、読後まで印象がずっと残るようにさせているのである。

私がこの小説を手に取ったのは(*1)ちょうど映画「インディペンデンスデイ」が上映されていたころだと記憶している。同じテイストなのに完成度はまるで違う。こっちの方が映画化されていればよかったのにと思う。


*1: 「日本語訳が同時期」と書いてあったのは間違いでした。お詫びします。