何でも屋17: 病院にて

病院に運ばれたまま、意識が戻らないゼロとストライク。そして、彼らを待つ3人の女性たち。

退院して

ようやく、二人揃って退院となりました。わたしとなつめさんの二人は病院の入口で出迎えました。ストライクさんの左手は包帯でぐるぐる巻きにされていましたが、二人とも元気そうでした。
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ゼロ: やぁっと退院だぁぁ
アスタシア: おめでとー
なつめ: 退院おめでとー
なつめさんはゼロさんに向かって走っていきました。よほどうれしかったのかな、と思っていると、いきなりドロップキックをくらわせました。
ゼロ: ありがと〜……ごふっ
なつめ: よし、体調も万全だ
ゼロ: いたいよ〜、なつめちゃん。また、入院するところだったよ
なつめ: ごめんごめん。みねうち狙ったんだけどなぁ

この時、わたしの通信機が鳴ったのです。
アスタシア: あらら?だれかしら?
ひかり: もしもし、元締め聞こえるかな?
アスタシア: はいはい。ひかりちゃんだわ
わたしは皆に聞こえるようにスピーカーモードにして音量を上げました。
なつめ: ひかりちゃんだ〜
ゼロ: あっ、ひかりちゃんだー
ひかり: ひかりだよ。そろそろゼロさんとストライクさんが退院するころだよね
なつめ: そうだよー
ひかり: そっか、よかった
アスタシア: ええ、ちょうど今日なのよ。ひかりちゃんも通信じゃなくてこっち来なさいな
ひかり: うん、本当はそうしたかったんだけどね
なつめ: そうしたいんならそうしとけ〜
ひかり: 今日は大事な日なんだよ。こっちも
ゼロ: そっかぁ
アスタシア: 何かあるの?
ひかり: リコが……あ、前に話したリコリス2ってレイキャシールの子が、今日ハンターズライセンスの試験を受けにいくんだよ。だから、一緒についてきてって言われてて
なつめ: おっ、こりゃ大事だね。がんばってちょうだいって伝えといて
アスタシア: どうせ今日はお店でお祝いなんだから、ちょっと顔出してね
ひかり: だから、お店の方にあとで顔を出すようにするね
なつめ: うん、待ってるよ
通信はここで切れました。わたしは通信機をしまうと、歩き出しました。
アスタシア: さーて、じゃ、お店に戻りましょうか?
ゼロ: うん
なつめ: おー
ストライク: ああ……


アスタシア: 到着〜
わたし達4人はお店に到着しました。わたしにとってはいつものお店ですが、ストライクさんやゼロさんにとってはそうではありませんでした。
ゼロ: うわぁ……なつかしい〜〜
なつめ: あはは
ストライク: 久しぶりだな……
アスタシア: さあさあどうぞ。サンドイッチとかお酒とかいろいろあるから
ドアを開けると、テーブルには食べ物と、お酒やジュースが並べてありました。すべてわたしが準備したものです。
なつめ: じゃさっそく
なつめさんは、いつものように勢いよく部屋に入ると、なんと、人が苦労して用意した食べ物をがつがつ食べ始めたではありませんか。
アスタシア: あ、こら! 全部食べちゃだめ!
なつめ: ふごふご
アスタシア: まったく……苦労して作ったのに一瞬で……
皆、席について食べ始めました。わたしはなつめさんが食べ散らかした跡をうらめしそうに見ながら、残り少ないサンドイッチがちゃんと皆の所に渡るかどうかだけを心配していました。
すると、玄関が開いて、ひかりさんが入ってきました。
ひかり: あ、始まってるね。こんちはー
アスタシア: あ、いらっしゃい。ひかりちゃん
なつめ: いらっしゃーい!!
ゼロ: ああ〜〜ひかりちゃん
ひかり: お久しぶり
なつめ: 久しぶりっ!!
ストライク: よぅ……
アスタシア: ひさしぶりね。こうして店で一緒になるのは
ストライク: ああ……
ひかり: すっかり2人ともよくなったみたいだね
ゼロ: まっまかせて、げんきげんきだよ
ひかり: うんうん
なつめ: じゃ……
なつめさんは自分のロッカーからマラカスを出してきて、ゼロさんに渡しました。
ゼロ: うっ、こっこれは……
なつめ: いけー
ゼロ: うずうずうず
なつめ: 師匠、一発お願いしますっ!!
なつめさんがおだてると、ゼロさんは席を立ってマラカスを振り始めました。
ゼロ: しゃかしゃか……うーマンボ
アスタシア: あはは
なつめ: いよっ、大根役者!!
ゼロ: てへへ。そんなに誉めないでよ〜、なつめちゃん
一同: あはは
ストライク: 相変わらず……か


しばらく皆で笑いながらおしゃべりしていました。こうして全員で楽しく食事をしたことはずっとなかったように思います。久し振りにくつろいだ気分になりました。
食べ物も飲み物も底をつきかけた頃、ひかりさんはちらと腕時計を見て慌てて身仕度を始めました。
ひかり: っと、あんまり時間がないんだった
アスタシア: あら、もう時間なの?
ひかり: リコも試験に受かったら、もっと自分に自信が持てるようになると思うんだ。だから、絶対受かってもらわないとね
なつめ: やったね
アスタシア: そうなるといいわね
なつめ: ところでさぁ、みんな試験受かってんの?
アスタシア: なに? 試験?
なつめ: ハンターズ試験
なつめさんは全員の顔を見回しました。みな意外そうな顔でした。
ひかり: え?みんなライセンス持ってるんでしょ
アスタシア: ああ、あのペーパーテストのやつね
ストライク: 受かっているぞ……
ひかり: 実技もあるんじゃないの?
アスタシア: フォマは実技は軽いのよ
ゼロ: えっと……
なつめさんとゼロさんは下を向いてしまいました。
ひかり: えーまさかゼロさん
ストライク: 受かってないんだな……二人とも……
ゼロ: もっ持ってますよ。ぎっ偽造だけど
最後の方は声が小さすぎて聞きとれませんでした。
なつめ: 腹が立ったから試験官を殴って帰ってそのまま
アスタシア: そうか、何であんな安月給で仕事してるのかずーっと不思議だったんだけど、そういうわけか
なつめさんは隣のゼロさんとひそひそと何か話していました。
なつめ: つんつん、あとで勉強しよう
ゼロ: そっそうだね……
ひかり: 何の相談なのかな〜?
ストライク: ふむ……そういえば今年の試験官をやってくれと言われたな
なつめ: 試験官がストライクさんなら絶対に通してくんない
ゼロさんも激しくうなずいていました。
ストライク: なつめ、ゼロ……しっかりしごいて、通るようにしてやろう……
なつめ: まずは料理に毒を盛ってだな

ひかりさんは気がついたように腕時計を見て、あわてて席を立ちました。
ひかり: じゃそろそろひかりも戻らないとね。今度はきっとリコと一緒にみんなに会いにくるからね。ふふ、ひかりの妹みたいな感じなんだよ
アスタシア: あーそうなの。楽しそうね。よかったわ
ゼロ: またね、ぜったいだよ
なつめ: またね〜。約束だよ!!
ひかり: じゃあ、みんなお仕事がんばってね
なつめ: うん
アスタシア: ひかりちゃんもがんばってね〜
ひかり: うんうん
ストライク: また……
ひかりちゃんはお店を出ていきました。