何でも屋17: 病院にて

病院に運ばれたまま、意識が戻らないゼロとストライク。そして、彼らを待つ3人の女性たち。

奇跡は

お医者さんは首をひねったまま出ていってしまいました。何か他に変わった事があったら知らせてほしい、とのことでした。わたしはもう十分変わった事だらけだと思うのですが、これ以上変わったらどうなってしまうのでしょう。
なつめさんはごみ箱の凹んだ所を眺めていました。そしてしばらくして、今度はゼロさんの枕元に座りました。ゼロさんはなつめさんが来たのにも気づかず、相変わらず天井を向いて寝ていました。なつめさんはゼロさんの両肩を持って揺すり始めました。
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なつめ: ねえ、つんつん、起きて! 起きてってば!!
アスタシア: なつめちゃん、そんなにゆすったら本当に起きたかどうかわからないじゃないの
それでも揺する腕は止まりません。
なつめ: だって、だって……
アスタシア: 身体を休めているんだから、そっとしてあげなさい
なつめさんはがっかりした顔で、ゼロさんから手を離そうとしました。その時、彼女は何かに気がついたようです。
なつめ: 動いた……なに?なに言ってるの?
どうやら、ゼロさんが何かをつぶやいているようです。
ゼロ: 僕が……ぼくが……ひかりちゃんを殺したんだ……
ゼロの頬を一筋の涙が伝いました。
なつめ: 元締め、今でもつんつんは苦しんでいるよ……なんにも悪くはないのにさ……
アスタシア: ほら、ひかりちゃん、何か言ってあげなさいよ
ひかり: 奇跡なんて……何度も起こる物じゃない
ひかりさんは自分の背中をさびしそうに見ながらぼそりと言いました。
なつめ: ?そりゃ、何度も起こるもんじゃないよ。起こらないから奇跡っていうんだしさ
ひかり: うん、だから……
なつめ: でも、起こってほしいのは事実だよ!!
アスタシア: 奇跡なんてなくても大丈夫。二人は助かります
なつめ: ホント?
アスタシア: 根拠なんてないけど
なつめ: 根拠はないのか...
アスタシア: ねえ、ひかりちゃん。ゼロさん、あれからずっとあなたのこと気にしてたみたいだから
ひかり: うん……
なつめ: そうだよ、悔しいけどさ
私が次の言葉を言いかけようとした瞬間、ゼロさんがまたうわ言のように口を動かしました。声はかすれて小さかったものの、物音一つしない病室には大きく響きました。
ゼロ: 僕は……ぼくは、どうしたら許されるんだろう……このまま眠って楽に……楽になり……た……
わたし達3人はゼロさんを見ました。苦しそうな顔をしていました。目は閉じたままで、顔はこちらではなく真上を向いていました。
ひかり: どうして……こんなことになったんだろう……
アスタシア: ひかりちゃんはあの事をどう思ってるの?
ひかり: わかんないよ
アスタシア: 正直言って、ゼロさんには元気になってほしい?それとも……
なつめ: 酷な事聞かないでよ、ひかりちゃんにさ
アスタシア: あんな事の後だから、わたしはどっちにしろ責めるつもりはありませんよ。ただ……実は呼ばない方がよかったかも、って
ひかり: 一つだけ……ひかりは、もう悲しいのは嫌
なつめ: そう、そうだよね。なんでこうなっちゃったんだろ
アスタシア: だれが原因なのか……いえ、だれのせいでもないわね

わたしは自分で言った事を後悔しました。本当なら皆を元気づけなくてはいけない立場なのに……。
また重苦しい沈黙が続きました。それを破ったのはまたゼロさんでした。
なつめ: なんかつぶやいたよ
ゼロ: ひか……り……ちゃん……ごめん
アスタシア: ほら、ひかりちゃん、ゼロさんのそばで看病してあげて。もしゼロさんを許せるのなら。
なつめ: 悔しいけどさ、つんつんにとってひかりちゃんは、ひかりちゃんは……
ひかり: 許すとか、そういうんじゃないよ。もう……悲しい事、復讐とかそんなのがないなら、きっと……
アスタシア: じゃあ、横でしっかり見ててあげて。わたしはストライクさんの横についてるから
ひかりさんが枕元に座ったのを見届けて、わたしはストライクさんの横に座りました。ゼロさんとは違って、ストライクさんはまだ身動き一つしていませんでした。
なつめ: この左腕……悲しすぎるよ。たかが復讐のためにさ、自分の体無理させて……悲しすぎるよ
なつめさんは一人行き場を失って、二つのベッドの間をひっきりなしに歩き回っていました。
アスタシア: 復讐なんてね……わざわざする事なんてないのに
なつめ: 元締め、ストライクさんの本当にしたい事ってなんだったのかなぁ。
アスタシア: 本当にしたい事なんてそう簡単にわかる訳はない
なつめ: やっぱり元締めと一緒になりたかったのかなぁ
アスタシア: そうだといいんですけどね