何でも屋16: 後悔

あの出来事の後、ゼロを見た者は誰もいない。

豹変

ゼロ: これでやっと自由を手に入れられた。長かったですよ
アスタシア: ちょっと!あなたはいったい……
なつめ: 乗り移ったな
ストライクはよろよろと歩いて、ゼロと二人の間に割って入った。
ストライク: 守れ……そうに……無い……
ゼロ: ほんと〜にねぇ
アスタシア: ゼロさん!なんてこと言うの!
なつめ: 返せっ!!つんつんを返せ!!
ゼロ: ふふ。あの男はもう出てこない
なつめ: 嘘をつくなっ!!
ゼロ: 自分から生きる事を捨てたのだよ。そんな男が帰ってくるはずがない
なつめ: あんたが捨てさせたんじゃないの!!
アスタシア: まだです!捨ててなんかいません!
ゼロ: くっくっ、い〜や、捨てたね。その証拠に私がここに出てきているじゃありませんか
なつめ: うるさいっ!!
なつめはゼロに切りかかった。しかし、ゆらりとかわされた。
ゼロ: いいんですかぁ?攻撃して。この身体が傷ついてしまいますよ
なつめ: くそっ、卑怯だぞ!!
ゼロ: さあ、攻撃したければどうぞ
ゼロは手を大きく広げた。

ストライクは奥歯をぎりりと食いしばった。ゼロをにらみながらじりじりとアスタシアの脇へ寄り、小声でささやいた。
ストライク: アス……なつめを連れて戻れ……
なつめ: いやだっ!!水臭いことごめんだっ!!
アスタシア: また?いつも肝心な時はわたし達のけ者に……
ストライク: お前達に……あいつを殺す所を……見せたくはない……
なつめ: 殺すだと!?
ストライク: 恨まれても……知らん
アスタシア: でも……わたし、どうしていいのやら……
ストライク: 戻れ……
なつめ: いやだっ!!
アスタシア: たとえどうなろうと、この目で見届けます
ストライク: そうか……
ストライクは軽くうなずいて、ゼロに向き直った。
なつめ: あたしたちはただ傍観するだけなのかよ!!悔しすぎる……
アスタシア: でも……わたしには何もできない……


ストライクとゼロは、剣がちょうど届かない間合いで向き合っていた。
ゼロ: ほー、そんな身体で私を殺せるとでも?
ゼロは高笑いをした。
ゼロ: 誰が来ても同じこと。私を殺せる者はもう誰一人いない
なつめ: ストライクさん、殺しちゃいやだよ!!
ストライクは剣の柄を握っていた両手を放し、懐から何か薬品を取り出した。
ストライク: これは……絶対に使うまいと思っていたが……
アスタシア: ストライクさん、何する気?
ストライク: ジーニ、イリア……すまなかったな……俺は兄として……不出来だった……そして、アス……
アスタシア: はい
ストライク: 愛していた……すまない……
アスタシア: き、聞こえません!

ストライクはゼロに向かって走り、ゼロに飛びついた。彼がゼロの首をつかんだのとほぼ同時に、ゼロがストライクの腹にセイバーを突き立てた。ストライクは口から赤紫になった血を吐いた。
ゼロ: ス……ト……さ……ん……
アスタシア: このおっ!
なつめ: よくもよくも!!
武器を抜いて勢い走り込む二人をストライクは制した。
ストライク: 気に……するな……
ゼロ: 僕がこいつを止めるから……お‥ね‥がい……
ストライクはうなずいて、二人に向かって叫んだ。
ストライク: アス!なつめ!ここから離れろ!!!
なつめ: いやだっ!!
アスタシア: え?だ、だって……何をする気?
ストライク: 早くしろ!!早く!!
ゼロ: やめろ〜〜〜〜くそくそくそ〜……出てくるなぁ!!
ストライク: 死神が……俺達を……待っている……共に歩もう……
アスタシアはなつめの手を引いて、その場をゆっくり離れようとした。
アスタシア: ほら、なつめさん、行くのよ
なつめ: 行くって……やだ、やだよ……
ゼロ: お願い……なつめちゃん、行って……僕にはもう、こうするしか……ご‥め‥ん……ね……
ゼロはにっこり微笑んだ。
なつめ: い、いやだ!つんつんとストライクさんが死ぬなんて嫌だ!ならばあたしも……
アスタシア: わたしだって当然嫌よ!でも、あの人の最後の望みなんだから……
なつめはアスタシアの手を振りほどき、二人に向かって走り寄った。しかし、ストライクはなつめを蹴り飛ばした。なつめは草むらを転がり回り、池の縁で半分濡れながら止まった。ストライクはそのまま手にした薬品びんを叩き割った。
ゼロ: もう……だめ……はやく……
ストライク: カァァァァァァァァァァァァァ!!
ゼロ: 貴様らぁぁ、私は絶対、絶対死なんぞ〜〜〜〜!!!

ストライクを中心にすさまじい熱と光が走った。ゼロの絶叫が聞こえた。
ゼロ: ばかな……この私が……私が倒されるというのかぁぁぁぁ!!!
なつめとアスタシアの二人はただ愕然と爆発を見守っていた。アスタシアは光の中にストライクの笑顔を見たような気がした。彼女が見た最初で最後の笑顔だった。
光が消えると二人の姿は跡形もなかった。ただ、ストライクの愛用した剣が二つあっただけだった。
なつめ: 元締め……も、戻ろう……
アスタシア: ここに……ここに……
なつめ: それはあたしだって同じだよ!!ここにいたいよ!!でもね……それが二人の望んだことじゃないと思うよ。だから……
なつめの頬を涙が一筋伝った。
アスタシア: その通りだわ。
なつめ: 戻ろう……
アスタシア: わかりました。これだけ拾わせてね。
アスタシアはストライクの剣を拾った。そして、そこで呆然と座り込んでいた。
アスタシア: はぁ……
なつめ: はやくっ!!
二人は、柱を背にして歩き始めた。