何でも屋16: 後悔

あの出来事の後、ゼロを見た者は誰もいない。

発見

ゼロは森をふらふらとさまよっていた。いつのまにか、奇妙な柱の前に来ていた。
ゼロ: いつの間にこんな所に来たんだろう。僕はいったい何のために生まれてきたんだよ。教えてよ
ゼロは柱に向かって手をついた。涙がぼろぼろぼろと頬をつたって地面に落ちる。
ゼロ: 僕、もう疲れたよ……楽になりたい……


なつめ: お〜〜〜い!!! どこだよ〜〜!!
アスタシア: もしもーし、ゼロさーん
雨がしとしと降る中、転送機から出てきた3人はまた探し始めた。なつめは川向こうに何かを見つけた。
なつめ: あっ!! あんなとこにいるよ
アスタシア: あの柱だ
Captured Image
川の対岸には、例の柱が不気味に点滅しながら立っていた。そして、その脇をゼロがとぼとぼ歩いていた。なつめは大きく手を降った。
なつめ: お〜〜〜い
アスタシア: 早くあそこまで行きましょう
なつめ: うん、急ごう!!


3人は柱に向かって走っていた。柱に到達するには大きな池を迂回していかなくてはならない。途中でモンスターも出てきたが、手早く倒して先を急いだ。
なつめ: あの柱にいた人影はきっとつんつんだよ
アスタシア: ええ、きっとそうよ
ストライク: はぁ……はぁ……
ストライクは荒い息をしていた。ブーマに肩を噛まれたようだ。痛そうに手で押さえている。
なつめ: 大丈夫?
ストライク: あ……あ
ストライクはさえない返事をした。


3人はようやく柱に到達した。
アスタシア: えーと……ここだわ
なつめ: やっと柱だ。お〜〜い!!
柱にもたれかかっている人影が見えた。3人は走り寄った。その人影は、地面にどさっと倒れた。
アスタシア: ゼロさん!
なつめ: しっかりしてっ!!
ゼロはぐったりしていた。なつめは思わず抱きかかえた。身体が冷えきっている。
なつめ: 身体が冷たい……うわ〜ん、死んじゃいやだよ〜!!
アスタシア: え!?もしかして……
ゼロ: 声が聞こえる……だれ?
ゆっくり目を開ける。
なつめ: ねぇ、しっかりして!!つんつ〜〜ん!!
なつめは泣きながら言った。
ゼロ: ひ…か…り……ちゃん?
なつめ: ちがうよ……
ゼロ: なつめちゃんだね。でも、どうしてここへ?アスタシアさんまで
アスタシア: あなたを探しに来たに決まってるじゃないの!
なつめ: そうだよ!!早く帰ろう!!みんな待ってる
ゼロ: 僕は……戻れないよ
アスタシア: なんでよ?
なつめ: どうして戻れないの?
ゼロ: だって僕はひかりちゃんを殺したんだよ。そう……この手でしたんだ……
なつめ: 何言ってるんだよ!!
ゼロ: それに……僕はいろんなことをやってきた……命を弄んだんだよ
アスタシア: 安心なさい。ひかりちゃんは元気ですよ
なつめ: 違う!!つんつんがそんな事するわけないじゃない!!ひかりちゃん殺しかけたのはあの男だって聞いたよ
ゼロ: 違わないよ。僕がやってた記憶がちゃんとあるんだ。あいつから流れ込んできた。僕がにやにや笑いながら……うう
ゼロの言葉は途中から絶叫に変わっていた。
アスタシア: ってことは違う人だってことじゃない
ストライク: ゼロ……
ストライクはよろよろと立ち上がった。全員の視線はストライクに集まった。
ストライク: 殺す事など……俺も……やってきた……

なつめ: あのにくたらしい男とつんつんとはどういった関係なの?たしかにあの男はつんつんそっくりだったよ。声も匂いもね
アスタシア: そうよ、それをまず説明してくれなくちゃ
ゼロ: 僕ですよ。もう一人の僕
ゼロは目を伏せて言った。
ストライク: ゼロとあの男は……同一人物だ……
なつめ: 同一人物!?
アスタシア: なんですって!?じゃ、本当にゼロさんが……
ゼロはこくりとうなずいた。
なつめ: でも目が違ってたよ。あの男はあんなやさしい目してなかったもん!!
アスタシア: わけがわからないわ

ストライクは無言で何かに耐えていた。肩から血を流していたが、その血の色が赤紫に見える。
なつめ: ってストライクさん!!
ストライク: 俺の方は……気にするな……
アスタシア: 大丈夫じゃない!
なつめ: そうだよ!!
ゼロ: ゼロ……お前には戻る場所がある……
アスタシア: ささ、二人とも、病院へ。こんな所に突っ立ってても何にもならないわ
なつめ: はやく戻ろうよ。あたしたちが居るべき場所はここじゃないんだよ。はやく帰ろっ
なつめはゼロを抱え上げようとした。しかし、ゼロは首を振った。
ゼロ: 僕はもう疲れちゃったよ
なつめ: だめっ!!
アスタシア: ゼロさん、疲れたんなら早く帰ってゆっくり休みましょう
ゼロ: 生きていくのにだよ
アスタシア: 何言ってるのよ。ゼロさんらしくもない。いいのよ。バイトは気にしなくても。
ストライク: 罪は……消える訳ではない……
ゼロはストライクの言葉を聞かないうちに、すべるようにくずれ落ちた。
なつめ: つんつん!!
アスタシア: しょうがないわね。病院まで担いで行きましょう
なつめ: と、とにかく帰ろう
なつめはゼロを背負った。
ストライク: 早く……行け……
アスタシア: ほら、ストさんもよ
ストライク: ああ……

一行は歩いて街まで戻ろうとした。しかし、なつめが歩き出すと、ゼロはくっくっと不気味な笑い声を上げてなつめから離れ、自分で歩き出した。ストライクは反射的に剣を構えた。
アスタシア: ストさん?ゼロさん?
なつめ: つ……つんつん?
ゼロ: あーははは。自分から死を選ぶとはなぁ
なつめ: 違う、目が違うよ。あの男の目だ……
ゼロ: くっくっ、そうだ。私ですよ
アスタシア: どうしちゃったっていうの?
ストライクは小声でつぶやいた。
ストライク: いかん……な……