何でも屋10: 幻のケーキ屋

洞窟の奥にあるという幻のケーキ屋.ひかりちゃんの試験終了はどうしてもその幻のケーキで祝いたい.そのために4人ではるばる洞窟へと向かいました.

疲れなんか吹き飛ばせ

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転送装置の先は湿気が多いところは同じだったが, うって変わって涼しい場所だった. 地面は水浸しになっている.
アスタシア: やっと涼しくなった
ゼロ: 涼しいね
ストライク: 少し休んだ方がいいな……
ストライクは洞窟の壁にもたれて一服した.
なつめ: そっか……みんな疲れてるのかなぁ?
ストライク: 暑さは意外と体力を使うからな……
アスタシアも隣に並んで休憩し始めた.

ゼロはきょろきょろと周囲を見回していた.
ゼロ: そういえば, こういう所, 一回来たよね. 水じゃぶじゃぶして遊んでたよね.ここにもあるかなぁ
アスタシア: ええ. って……
なつめ: あたしがひかりちゃんに間違われた時かなぁ?
アスタシア: あー, あの時だ. あの時はストライクさんはいなかったっけ
なつめ: あの時は……ほんとに……
なつめの目には涙がたまっていた.
アスタシア: あー, ごめんなさい
ゼロ: ごめんなさ〜い. 泣かないでよ〜
なつめ: ううん, 気にしてないよ
アスタシア: そっか. よっぽどショックだったんだわ……
ストライク: あの時の客はずいぶんと機嫌が悪かったな……
なつめ: 人生最大のトラウマだね
ゼロはおろおろしていた.
ゼロ: でもほら, ひかりちゃんかわいいし, ひかりちゃんに間違われたってことは,なつめちゃんもかわいいって事だよね
アスタシア: なつめちゃん, かわいいって. 面と向かって言えるとはね. ゼロさん.
なつめ: うん, そうだよね
なつめは途端に笑顔に戻った.
なつめ: そいじゃ, いくよ〜〜ん. ここで休んでても退屈なだけだよ
ゼロ: あ〜い
ストライク: ああ……


洞窟を順調に進んでいた4人だったが, ストライクが急に立ち止まった.
ストライク: っ……!
なつめ: どうしたの?
アスタシア: 何かあった?
ストライクは右目を押さえている.
ストライク: 右目が痛む……
アスタシア: どうしたの? 急に……
すると, ストライクの右目から丸い玉がぽろりと落ちた.
なつめ: うわっ!! どうなってんの〜〜〜〜!!!
ゼロ: 目が目が〜〜!! なんなんですかぁぁぁ, それはぁぁぁ
なつめとゼロはパニックになっていた.
ストライク: ふむ……昨日は付けたまま寝たからか……
なつめ: いったいどういうこと!?
ストライク: あわてるな, 単なる義眼だ……
それを聞いてようやく二人は安心した.
ゼロ: ほっ, 義眼かぁ. 驚かさないでよ〜〜
なつめ: 義眼ねぇ. 着脱できる目なんだ. かっこいい〜〜
ストライク: かっこいいか……?
アスタシア: こらこら, 失礼でしょ. 好きでしてるわけじゃないでしょうに
なつめ: ごめんなさぁい

一安心したところで, ゼロが不思議そうに尋ねた.
ゼロ: ああ〜〜, アスタシアさんは知ってたの? 驚かないってことは
アスタシア: ええ, なんとなく違うってことは……
なつめ: つまり, 昔からのお知り合い?
アスタシア: ま, そりゃちょっとはね
ゼロ: どんなどんな〜
ゼロは目を輝かせながらアスタシアの周りをぐるぐる回った. しかし, 彼女は答えなかった.
ストライク: しばらくこのままか……
ゼロ: 左目だけで大丈夫なの?
アスタシア: 左目だけだと距離感つかめないんじゃない?
ストライク: ああ……大丈夫だ. いつも左目だけで見ているからな……
なつめ: 片目だけだといずれ失明するってどっかの医学書に書いてたよ
ストライク: 失明も近いか……
なつめ: ごめんね, おどすような事言っちゃって
ストライク: 何, 気にするな……
なつめ: ありがとう
なつめはすまなさそうな顔をした.
アスタシア: ううっ, 右目が外れていると不気味……
なつめ: でもストライクさんに変わりはないから気にしないよ
ストライク: これでいいだろう……
ストライクは右目を閉じた.
なつめ: 無理しなくていいよ
アスタシア: え,ええ, いいんです. いいんです. お構いなく.
なつめ: 気にしない気にしない
そして, なつめはゼロの方に向き直った.
なつめ: あと, つんつん, ストライクさんが寝ている時に左目だけは狙わないように
ゼロ: なんですかそれは〜
アスタシア: どこも狙っちゃだめよ
なつめ: だってやりそうなんだもん. やったとこ見たことないけど
ゼロ: 寝首でも襲うような言い方, ひどいです
なつめ: でもさぁ, つんつんにとってはそれが一番効率的ね
アスタシアは微笑んだ.
アスタシア: まー無理でしょうけどね
ストライク: 寝ている間に部屋に入ったら起きるよう訓練しているが……
アスタシア: ほら, ちょっとやそっとじゃ裏稼業はやれないの
ゼロ: 軍の訓練より厳しいな……堂々と人に言える事でもないがな
なつめ: へぇ〜〜〜
なつめは尊敬のまなざしでストライクを見つめた. ゼロはそれを見てふくれっ面になった.
ゼロ: ぼくだってね, 訓練してるんですよ〜
アスタシアとなつめはさも意外だと言わんばかりの顔をした.
アスタシア: ゼロさん, なにを?
なつめ: お笑いの訓練? 敵前逃亡訓練?
ゼロ: うう〜, ちがいます〜〜
アスタシア: マラカス?
ゼロ: そうそう. しゃかしゃかっと……ちがう〜〜
ゼロは目に涙がたまり始めた.
なつめ: まあいいや, 深くツッコまないよ
アスタシア: もしかして……ツッコんじゃいけないとこだった?

これで何度目になるかわからない休憩も終わり, 4人はまた歩き始めた.