湯けむり紀行・美女が行く洞窟秘湯めぐり

ラグオルの洞窟のどこかに、こんこんと沸き出る温泉があるらしい。なんでも、特に美肌に効果があるとか。そんな話を聞きつけてじっとしていられない美女2人、温泉探索に乗り出しました。

一汗流そう

俺達がたどりついたそこは、最初の温泉と同じくらいの大きさの小部屋だった。部屋の中は無性に暑い。天井から照射されている赤い光のせいだろうか。
キョウカ: もしかしてこれ…サウナ風呂では?
ヴァル: 気温は確かに高いですね
レイナ: 湿度はどう?
ヴァル: …ほとんどないみたいです
レイナ: 水分は逃げちゃったのかしら?
また訳のわからんものが出現したぞ。こんな暑いところ、よく皆平気でいられるなあ。
レイナ: これ、そうかしらかしら?制御盤っぽいけど…
ふと見ると、部屋の入口に制御パネルがあって、ボタンとランプが並んでいる。
ヴァル: なんだかよく分からないですけど、押してみますか? えい!
おいおい、いいのか? まあ、こんなの壊れてもかまわんしな。で、どうなった?
ヴァル: あ、なんかランプがつきました
大きな緑のランプがつくと、どこからともなく水蒸気が吹き出してきた。うわっ、むせる!
キョウカ: これはいけそうですよ。
レイナ: じゃあ…ちょっと試してみましょうか
ヴァル: うわぁ、これはあたしには厳しい環境ですぅ
また風呂に入んのかよ。はぁ、やれやれだぜ。
コアン: あーー、んじゃ、俺は外で待ってるな
キョウカ: では、いってまいります
レイナ: これは…さすがに暑い…
コアン: おう、のぼせねえようにな
キョウカ: この程度、修行だと思えば問題ありません

さてと、なにをして待とうか。武器の点検っていってももう済んじまったしなぁ。仕方がねえ、もう一回。はあ、俺って何やってんだろう。おや、どうした? ヴァルは入らねえのか?
ヴァル: あの湿気はあたしには…。なにが気持ちいいかもよくわからないです。
あ、アンドロイドには向かないかもな。汗をかかねぇからなぁ。

レイナ: 天然の洞窟を利用したサウナか…。なかなかいいじゃない
キョウカ: んー、冷たい飲み物、欲しいですねぇ
ヴァル: 冷たい飲み物ですか!? 探してきます! って、どこにあるんでしょう?
おいおい、安請合いするんじゃねえぜ。だいたいそんなもんどこに…。あ、そういえば、さっき、自販機の残骸みてえなもんがあったなぁ。
ヴァル: さっきのとこって‥!?
コアン: 看板の脇にさ。何か残ってるかもしれねぇ
ヴァルはそそくさと駆け出していってしまった。大丈夫かな、あいつ。まあ、ついてってみるか。なんだか使い走りってのが気にくわねえけど、他にやることもねえし。

俺の記憶が正しければ...。あ、あったあった。ヴァル、これだよ、これ。
ヴァル: これですか? 電気ついてないですよ?
こいつをこじ開けて…と。おい、ヴァル、そんな乱暴にキックしても……、出てきたよ。単純なもんだな。
えーと、なになに…。「プリンジュース」!? まあ、飲み物には違えねえだろう。おい、もう一つ頼むよ、ヴァル。
ヴァル: えいえい
おっと、出てきた。今度はなんだ? これは、「タピオカジュース」か。どうしてこう名前も聞いたことねえような不思議な飲み物ばかり入ってんだろうな、ここは。まあいい。持ってってやろう。
ヴァル: なんでもいいですよ! 持ってってあげましょう
ああ、飲めればいいだろ。

キョウカ: この岩、ひんやり気持ちいい
レイナ: ふー…。気持ちいい
戻ってみると、キョウカとレイナの2人は壁にもたれかかって、半分目を閉じていた。気持ち良さそうなことだけは十分伝わってくる。
コアン: っと、もう出てたのか。ほれ、飲み物だぜ。
キョウカ、寝てるのか? 人がせっかく飲み物取ってきてやったのに。まあいいや。ヴァル、渡しといてくれ。
ヴァル: ふふ、よっぽど気持ちよかったんですね。コアンさんも入ってきたらどうです?
コアン: 俺はいいよ、仕事中だしな
ヴァル: 仕事中って…。この2人も仕事中ですよ? こんなんで。
レイナ: あら? それじゃ仕事中に入ったわたしたちはなんなのかしら?
ヴァル: ほらほら、遠慮してないで入ってくるですよ
ヴァル、やめろよ、人の気も知らないで…。
コアン: あー、お嬢さん方を放って入る訳にゃ…
ヴァル: あたしが見張ってます。コアンさん、いってらっしゃーい
うう…。そうじゃないんだよ。分かってくれよ。って、こいつにゃ無理かなぁ。
キョウカ: おねーさんはだいじょうぶれすよー
キョウカ: あせくさいおとこのこはもてませんのよ…
どこが大丈夫なんだよ。キョウカ、寝言をいう癖があんのか。ああ、もう、こいつらは…。ほらよ。レイナ、プリンジュースだぜ。
レイナ: なに、これ?
ヴァル: 飲み物です!
まあ、飲み物だと思うよ、俺は。「プリン」てとこがちょっと自信ないけど。
ヴァル: ま、ないよりはましですよね
レイナは喜々として缶を開けて一気に……あまりうれしそうじゃないな。
レイナ: ぬる…。マズっ! ぬるいわよこれ! あまぬるくて飲めないわ
ヴァル: しょうがないですよ、残骸から出てきたですから
レイナ: あー胸がムカムカする…
ぜいたくなヤツだ。せっかく持ってきてやったのに。それにしても、そんなにマズいのか? どれどれ…。
俺はレイナから缶を受けとって、飲んでみた。一気に飲むほどバカじゃねえ。ちびっちびっと…
コアン: うえぇ
マズい。ただひたすらマズい。これが俺の感想だ。この液体だか固体だかわかんねえ喉越しがまた…。ぺっぺっ。俺は直ちにそれを吐き出した。

と、キョウカがようやく目をさました。まだ寝ぼけているようだ。ヴァルが缶を手渡すとそれを開け、一気に飲んで、それから…
キョウカ: ぶっ……
飲んだものをそのまま吹き出した。よほどショックだったのだろう。寝ぼけまなこはしっかりと見開かれ、脱力していた体は雷に打たれたように一気に元通りになった。辺りを見回すと、床に飛び散った白い液体を見つけたようだ。
キョウカ: あらいやだ、わたしったら…おほほほほ
ヴァルがあわててタオルを持ってきた。キョウカは申し訳なさそうにそれを受け取ると、唇の周囲に残った白いものを拭き取った。
キョウカ: これ、賞味期限が一年以上過ぎてますよ…
ははは……。俺としてはもうなんともしようがない。笑ってごまかすのが精一杯だ。
コアン: まあ、缶詰ってのぁ保存がきくから、大丈夫だろう。
キョウカ: 保存がきかないから賞味期限があるのではないでしょうか
コアン: なるほど、ひとつ勉強になったぜ…
それにしても、缶詰が賞味期限切れになるたあ、相当古い建物だな、こりゃ。パイオニア1の誰かが建設したんだろうなあ。ここで商売を始めようとしてたのかね。
レイナ: 爆発の前には潰れてたカンジね。当然ね。こんなとこだれもこないわよ
ヴァル: だれも来ないですか?
レイナ: だって洞窟の奥よ?
コアン: 物好きが少なかったんだろうなあ。じゃ、どうすんだよ、レイナセンターは?
レイナ: わたしが温泉つかっていい気持になればいいの。動力も生きてるみたいだし。
レイナ専用か。ぜいたくな施設だな。
レイナ: 残りの施設を確認しましょう。あとはどんなお風呂があるのかしらねー。うふふ
キョウカ: サウナはさっぱりしててよかったですね
温泉探しの旅はまだまだ続くのであった。はあ。まだ続くのか、まったく…。