湯けむり紀行・美女が行く洞窟秘湯めぐり

ラグオルの洞窟のどこかに、こんこんと沸き出る温泉があるらしい。なんでも、特に美肌に効果があるとか。そんな話を聞きつけてじっとしていられない美女2人、温泉探索に乗り出しました。

温泉自体はいいんだが…

ヴァル: た、大変です!
コアン: ど、どうした?
ヴァル: キョウカさんが、キョウカさんが…
何があったんだ!? 俺は素早く立ち上がると、手入れの終わった銃をひっさげ、散らばった工具類もそのままで走り出した。いや、正確には、走り出そうとした。
ヴァル: キョウカさんが、のぼせたみたいです
なあんだ。そんなことくらいでいちいち大騒ぎするな。
コアン: ヴァル、行って見てやってくれ
だいたい、駆け付けたところで、あいつら裸なんだろ? そんなとこにずかずかと入れるわけねえよな。

レイナ: ああ、キョウカーー…
キョウカ: ちょっとのぼせました…
レイナ: ま、とにかく服着て休みましょう
キョウカ: はい。ここに座らせてもらいますね
ヴァル: キョウカさん、もう大丈夫みたいです。服を着て休んでます。もう行っても大丈夫ですよ。
そう言われても、なんだか近づきにくいんだよなぁ… ちょっとこの辺をウロウロしてるか。

少しすると、小部屋からぞろぞろと皆が出てきた。
コアン: えーと、あのさ、温泉も見つかったことだし、これで仕事は終わり… !
思わずキョウカさんに目がいっちまったよ。濡れた黒髪は結い上げられて、ゆったりと着た上着との間にのぞくほんのり上気したうなじ。みずみずしい頬はほんのり桜色。まるでここからでも肌から湯気が立ち昇るのが見えるような、そんな風だった。湯上がり美人というのはまさにこのことだな。

で、言いかけた言葉のことは無視されてしまった。俺も忘れちまったんだが。
キョウカ: いいお風呂でしたよ
レイナ: それじゃヴァリシスたちも入る?
ヴァル: コアンさぁーん、入るですよー
コアン: お、俺もかよ?
レイナ: いいから入んなさいよ
コアン: 着替えなんぞ持ってきてねぇんだが…
レイナ: このわたしが入っていいって言ってるのよ。は・い・れ
コアン: う…依頼人の命令なら、しょうがねえか…
キョウカ: どうぞごゆっくり
レイナから頭にタオルを載せられ、キョウカからは卵を受けとった。…… 卵!?
キョウカ: これ、持っててください。たぶん、おいしくなります
レイナ: 温泉卵ね! あの幻の…
キョウカ: 一度作ってみたかったんです
レイナ: 楽しみだわ
なんだかあの2人、うれしそうだなぁ。まぁ、依頼人の喜ぶ顔が見られるのは悪いことじゃねえ。

俺がタオルを頭に載っけたまま小部屋に入っていくと、ヴァルもついてきた。
ヴァル: いきますよー
コアン: お前さんも一緒なのか?
ヴァル: もちろんですよ! わーい、温泉!
ヴァルは入ってくるなりサブンと水につかった。ま、アンドロイドは服着てないし当然といえば当然なんだが。でも、相手が機械とはいえ、やっぱり女性と一緒にお風呂ってのはなぁ… ああ、ヴァル、良かったらあっち向いてて欲しいんだが。着替えをそうやってじっと見られてるとかなわん。

はぁ、でもなんだな。やっぱり風呂てのはいいもんだな。しかし、ヴァルの視線が気になるのは避けられない。
ヴァル: ええっと、こういうときは…コアンさん! お背中流しましょう! って言うんでしたっけ?
コアン: い、いいよ! 遠慮する!
ヴァル: … つまんない…
わかった、わかったよ、そんな残念そうな目で見るなよ。
コアン: 少し、流してくれるか?
ヴァル: は、はい!
俺はちょっとした石を腰掛け代わりにすると、ヴァルに背中を向けた。
ヴァル: ♪♪ どうですかー。気持ちいいですかー
コアン: ん、ああ、気持ちいいぜ。ありがとな。
ヴァル: 温泉って楽しいですねー
コアン: ちょ、ちょっと手加減してくれると、ひりひりしなくて済むんだが
ヴァル: は、はい… これであたしも背中流しのプロかなぁ
コアン: 俺ばっかり流してもらうのもアレだし、今度は俺が流そうか?
ヴァル: あ、あたしはいいですよ。塗装はげちゃうと困るですし
コアン: 気分だけでも味わいたくねえ?軽く、な
ヴァル: そ、そうですかぁ?じゃ、ちょっと
アンドロイドがどう感じるのか俺にはさっぱりわからねえが、気に入った様子だった。ま、たまにはこんな依頼も悪くはねえか。

俺は両手を広げて風呂の縁に置き、タオルの載っかった頭を石の上に置いて、ぼうっと天井を見上げていた。ふぁーあ。いい気持だ。すると、焦点のぼけた視界の片隅に動くものが目にとまった。
コアン: だあ!!
それは、レイナとキョウカだった。
コアン: なに覗いてんだよッッッ?!
レイナ: フッ… 別に?ねえ
キョウカ: ちゃんと温まってから出るのだそうです。ガイドブックにそう書いてあります。
レイナ: そうそう、お湯につかりなさい
コアン: わ、わかったから覗かないでくれ!
レイナ: なにうろたえてんの?自信がないのかしら?
立場、逆じゃねえかな、普通…。さっきのようにのんびりと入る気は失せてしまった。壁を前にして、足を折り曲げてちぢこまるように‥ なんで俺はこんな窮屈な格好で温泉に入ってるんだ、まったく…

キョウカ: ちょっと失礼。うーん、まだねぇ
うわ! またか! 声に驚いて振り返ると、キョウカがすぐ横で卵の様子を見ていた。嫁入り前の女の子が男の裸なんぞ見るもんじゃねえ!
キョウカ: 卵、もう少しかかりそうですから、もうしばらく入っていてください。のぼせないよう気をつけて
ま、まだ入ってろって?うう、なんだかいい気持ちを通り越してぼうっとしてきちまったよ… 目がかすむ… 水蒸気のせい、だけじゃないよな、これ………

ヴァル: あ、あぁぁーー。コアンさん!
レイナ: ま、とりあえずその辺に置いといて
俺が気づくと、キョウカさんに両手を、ヴァルに両足を持たれて運ばれている最中だった。えっと、俺ってさっきまで何やってたんだっけなぁ… そういえば… ぎょ!!
コアン: ちょっとたんまたんま!!
だあー! つかまれている両手両足を振りほどくと、俺は裸のままダッシュで逃げた。それはもう全力で逃げた。ヒルデベアに追いかけられた時よりずっと速く。
ヴァル: よかった。元気になった。
レイナ: すっぱだかでどこ行くのよ…
岩陰から顔だけのぞかせると、ヴァルがタオルを、キョウカが服を持ってきてくれている。
コアン: すまねえがそれを放って…って、うわぁ!
放ってもらうもなにも、いつのまにか真正面にいるじゃないか! 急いで服をひっつかむと、あわてて後を向いて服を着た。体を拭くヒマもありゃしねえ。