「ロールプレイ」と「なりきり」

「ロールプレイ」は「なりきり」ではありません。どう違うのかをじっくり見てみましょう。

なりきりの問題点

「なりきり」というプレイスタイルはたとえそれが同じ「なりきり」をやっている仲間同士でもいろいろと問題を引き起こす。そしてこれらは「ロールプレイ」では起こることのないはずのものだ。だから以下に述べる問題を起こしている場合にはそれはロールプレイではない。

「なりきり」でトラブルが起こる原因は、客観的なルールが存在しない事にある。より面白い方に、より「らしい」行動になるように、という主観的なルールしか存在しないのだが、主観的なルールは各人で評価が異なるから、その喰い違いによって問題が起きるのだ。

念のため言うが、これは「なりきり」と「ロールプレイ」を区別するために設けた章であって、ロールプレイの方が優れていると言いたいわけではない。そもそも別物なのだから問題点が違うのは当たり前だ[1]。ロールプレイの場合は問題のほとんどが「トラブル」ではなくただ「つまらない」「盛り上がらない」「プレイヤーが居眠りする」といった問題であり、つまんねーからもうやめよう」という話にはなってもバッシングになることはない。そしてそれが最大の問題でもあるのだが。[2]

キャラの暴走

私のキャラは猫が死ぬほど大好きなのです。だから猫を見るとつい後をついていってしまうのです。その猫は敵の魔法使いの使い魔なのに〜。でもあの甘い声で鳴かれるとどうしても足はそっちに向いてしまうのです。皆さんごめんなさい。猫におびき出されて私のキャラは敵に捕まりに行きます[3]

キャラが勝手に状況を悪い方へと導く、それが「キャラの暴走」と言われている問題だ。キャラが依頼そっちのけでどこかへ遊びに出てしまうこともあればわざわざ不利になるように行動することもある。これは他のプレイヤーからすれば非常な迷惑である。多くの場合、これはプレイヤー本人も困っている。よくないのはわかっているんだけど、でもこのキャラはそういう奴だしなぁ、ということで軌道修正することができないのだ。プレイヤー自身が問題を認識しているのに修正できないんだから他に誰が修正できるだろうか?

「キャラ設定の通りに動かなければならない」というなりきりの原則からすると、この問題を解決する方法は一つしかない。そんなキャラは作らない、ということだ。

「キャラ設定は絶対じゃないんだから、時にはキャラ設定を無視して動いてもいいんだよ。ほら、普通の人でも、性格の通りに行動するとは限らないでしょう」というのは正論だ。しかしこれを言ってしまっては「なりきり」じゃなくなってしまう[4]。「役を演ずる」のが目的なんだから「時には役から外れてもいい」なんて言われるとどうしていいんだかわからなくなってしまう。

「暴走」もまたなりきりの楽しみの一つ、とでも割り切って楽しむのもよい。あなたがマスターならキャラの暴走に合わせてシナリオを変更すべきだ。「せっかく感動的なシナリオを用意したのに」と不満に思うかもしれないが暴走キャラもまた魅力的な行動を提示したのだ。見せ場を提示するのはあなただけではない。プレイヤーもまたそうなのだ。

思惑と外れたストーリー

こいつは「悪の秘密研究所で改造人間にされたのを脱走した」といういわく付きのダークキャラなのだ。改造人間といえば敵方に偽物が出てくるのがお決まりのパターンだ。姿形はまったくそっくりでマフラーの色だけが違うのだ。ほら、乗っているのは馬だがそれでもライダーだろう?それなのに依頼は村人のお使いばかりで、そういったストーリー展開にはなりそうもない。隣のほのぼのハーフリングペアは大満足だろうが俺は不満だ。まったくマスターは何を考えているのか[5]

「なりきり」の場合、深くキャラ設定を掘り下げるおかげで個々のキャラにストーリーが生まれる。そして、各プレイヤーが勝手にストーリーを作ってしまうとそれをまとめることができなくなってしまう。だいたい改造人間とほのぼのハーフリングペアが一緒にパーティーを組んでいること自体がおかしいのだ。

マスターはまず自分がやろうとしている世界のコンセプトを提示すべきだ。ほのぼの系とかダーク系とか。そして、各プレイヤーが作ろうとするキャラのコンセプトを聞いて意見の調整をはかるべきだ。プレイヤーも意地を張らずに周りのコンセプトに合わせるべきだ。

自分のやりたい話ばかりできるわけではない。間口を広げて、どんなキャラでもやってみるべきだ。

押し付けキャラ

私、キャラをやるなら絶対長身白髪のスマートな男性キャラって決めてるんです。だけど、今回はマスターが事前にキャラを用意していて、このうちのどれかをやれ、って指定するんです。見てみたら萌え萌え魔女とかこれまた萌え萌え女格闘家とか、たまに男だと思ったらおじさんドワーフっていう有様。こんなのではマスターのセンスを疑います。

マスターがキャラを事前に用意するのは、一般に「プレロールドキャラ」と呼ばれる。キャラ作成は面倒だし職業が片寄ってバランスが崩れるのは嫌だからあらかじめマスターが作ってしまうのだ。どんなキャラが登場するのかが事前にわかっていればシナリオも考えやすいし、誰かが問題キャラを作ってプレイが破綻することもない。これはマスターとって都合がよい。

「キャラを作る楽しみ」は完全に失われるが、それより何よりセンスの悪いキャラを演じさせられる事の方が嫌だろう。仕事ならともかく好きこのんでやってるのだから、嫌なキャラになりきるなんてやりたくない。「なりきる」とは自分がこのキャラになるということだ。おじさんドワーフになんてなりたくない。こう思うのも当然のことだ。

しかしプレイヤーの中には「どんなキャラでもいい。とにかく他人を演じるのが楽しみ」という人もいるに違いない。少々わがままを言って一番許容できるキャラを使わせてもらおう。そしてマスターはバラエティの広いキャラを用意すべきだ。決して自分の趣味に固執することなく。そしてキャラのセンスを磨こう。

変なキャラ

パーティーの中にちょっとおかしなキャラがいるんです。いつも空ばかり見て「ここには空がない」とか「お月様が落ちてくる」とか変なことばかり言うんです。この前なんか戦闘のときに「うさぎさんの霊が……」と言って一人だけ駆け出していってしまったんですよ。もうどうしていいんだか。[6]

キャラ設定が悪い典型例だ。しかし、「悪い」とは誰に対して悪いのだろう?プレイヤー本人からすれば変なキャラはやっていて面白い。普段できないような突飛な行動でも問題行動でも何でもとれるからだ。「やっている本人は楽しいだろうな」とは思わないだろうか?

「変なキャラ」をいったん作ってしまうと「なりきり」の名のもとにすべては正当化される。こいつはこういうキャラなんだから仕方ないじゃないか。やっている本人は楽しいのだからそれでいい。迷惑なら無視してもらって構わない、と。無視されてもやるとは根性が入っている。

ではこういった変なキャラは作成時点で阻止すべきか?おそらく阻止すべきなのだろうが、「楽しいからいいじゃないか」と言われると返す言葉がない。実際楽しそうだしそれでいいような気がする。

あとはマスターが強権発動するかそれとも単に無視するかだろう。

絡んでこない

パーティーの中にクールな少年がいるんですけど、そいつが何を言っても「ああ」とか「うん」だけ。こっちがいくらモーションをかけても全然その気なし。戦闘になると剣を振るしそれで敵をばしばし倒すからそれでいいんだけど、ただそれだけ。本当にこんなんで楽しいんでしょうかね?[7]

「クールな少年」だったら、その設定通りにプレイするならやっぱり「ああ」とか「うん」とかしか言わないだろう。素晴らしい「なりきり」だ。

しかしあなたがその相手役だったとすれば少々不満かもしれない。しかしクールな男を相手にした女なんて皆そんなもんだ。というわけで不満をぶつけるのもまた素晴しい「なりきり」だ。相手が「ああ」とか「うん」しか言わなかったらどうするのがいいか?第三者に愚痴をこぼすのだ。それが「なりきり」だ。

演技と自己陶酔

僕のキャラはアニーという踊り子でした。女性キャラです。ある時、舞踏会で敵のスパイと接触する機会がありました。敵のスパイを寝返らせる絶好のチャンス。幸いなことにアニーは「誘惑」のスキルを持っていました。

それを使おうとしたところ「どうやって敵のスパイを誘惑するのか、それらしい口調で言ってくれ」と演技を求められました。しかし映画やドラマでやっているような口説き文句はとても恥かしくてやれません。「今夜は私と一緒に過ごしませんか?」と言うのがせいいっぱいでした。

すると、マスターは渋い顔をして「むぅ、迫力が感じられない。これじゃあボーナスは+10程度だな。」と言いました。仲間は「なりきりなんだからもっとなりきって迫真の演技をしなきゃ」と言われました。やっぱり僕はまだまだ修行が足りないのでしょうか。[8]

結論を言おう。「なりきり」とはそういうものだ。あなたはきっと「なりきり」には向いていない。

「なりきり」の場合、普段と違う自分になれるというのが楽しみなのである。そして、「普段と違う」の代表的なものが「異性」だ。異性はあこがれの対象でもあるから異性になりきるというのはよくある光景だ。

そして「なりきり」のベテランは恥など捨ててちゃんと演技する。しかしストレートに異性を演技するのは少々はずかしい。この場合は「じっと男の目を見て、そして恥ずかしそうな顔でうつむきがちに突っ立ってます」というように場面の描写で表現する。[9]

「なりきり」をするなら恥は捨てよ。何かをふっきった先に道は見える

都合の悪い出目

「はっはっは、俺様に勝てると思うのか」とボスが登場し、いよいよクライマックスと皆が意気込んだ時のことです。後ろのハーフリングが先制で弓を射ったらなんとそれがクリティカルまたクリティカル。120ダメージをくらわせて一発で敵のボスを倒してしまったのです。

もちろん敵も、そして味方までもがブーイング[10]。こんなのってアリなんですかね?

あなたが「なりきり」をしたいのならマスター裁量の出番だ。ボスのヒットポイントがいくつかなんてプレイヤーはわからないのだから、「なんのなんの、ボスはまだ元気だよ」と言っておけばいい。プレイヤーが不審に思ったら「ボスがいきなり矢の一撃で死亡なんてかっこ悪いじゃないか」ですむ。プレイヤーも自分の出番がまた来るのだからあまり追求せず、ボスが元気なのをむしろ喜んでいるはずだ。

ボスがいつ倒れるかを決めるのは、受けたダメージではなくプレイヤーの様子を見て決めるべきだ。なんとなくマンネリ化して、プレイヤーがダイス振りマシーンと化してしまった時が引き際である。「おっと、敵はがくりと膝をついた。もう少しだ。」と言って注意を引きつけよう。そして、そこからは一気に怒涛のラストシーンだ。

逆にプレイヤーが死んでしまうといった悪い出来事が起こる場合もある。この場合はさすがに無視して振り直しさせるのがよい。またゲームによってはこうした場合の救済策があらかじめ決められている場合がある。そういうのがあると「なりきり」には都合がよい。

なりきりの問題点まとめ

「なりきり」でよく問題になる場面を挙げてみた。これらはすべて相手が自分の思惑と違うように動くから生じることだ。そしてそれは「なりきり」なんだから仕方がない。しかしこれらはどれも「自己主張ばかりしないて他人に合わせる」という心がけで直すことができる。いつも自分がしたいようにできるわけではない。

なりきりにトラブルが多いのは思い込みの遊びでありルールが明確でないことにある。演技の優劣なんてだれが決められるだろう?間違った「演技」って何だ?こういう事が明確に言えなければこういった問題は常に起こり得る。

これらの問題はロールプレイでは生じない。そもそも違う遊びだからだ。ロールプレイは「演技」が目的なのではない。だからこれらの問題はもともと生じるはずがないものだ。ロールプレイが何か問題を解決したわけでもないし、偉いわけでもない。

ただ「どうやって誘惑する?」と聞かれる事はある。この場合は演技を求められているのではなく「肉体で迫る」とか「共通の話題から始める」といった方法を聞かれているのだ。うまい方法を考えつけばそれだけ難易度は低くなる。


  1. 例えば、「フィギュアスケートは審判のし方が問題だがショートトラックではそれがない。だからショートトラックの方が優れている」と言えるか?そもそも比較なんてできないのではないか? ↩︎

  2. そしてそれはマスターがうまくないからというのが原因である。実のところロールプレイではマスターの高い技術が要求されるというのが唯一かつ最大の問題点である。たいていの人はそこに行きつく前にやめてしまうか、なりきりに走ってしまう。 ↩︎

  3. ロールプレイでこのような事が起きたとしたらそれは「猫による誘惑チェック」に失敗した時である。マスターに「君のキャラは猫に誘惑されるかもしれないなー。抵抗チェックしてみて。」と言われて失敗した時だ。これで失敗したのだったらついていってしまうのは仕方がない。オークに一刀両断で斬り伏せられてしまうのが仕方ないのと同様に。もちろん成功した場合には自分から捕まりに行かずに済むのである。これは喜ぶべきことだ。 ↩︎

  4. これを言うのはロールプレイ派か?というとそうでもない。なぜならロールプレイではそもそもプレイヤー=キャラだからプレイヤーの意に反した行動なんてしないし、キャラ設定というのは数値や条件であって「どう行動しなくてはいけない」というルールはどこにも書いていないのだ。 ↩︎

  5. ロールプレイ派だったらこれのどこが不満なのか理解に苦しむ。改造人間って、要するに攻撃力とアーマークラスにボーナスがあるだけだろ? ↩︎

  6. もちろん、ロールプレイでなら、単にプレイヤーの脳ミソを疑っておしまいである。 ↩︎

  7. ロールプレイの場合には不慣れなプレイヤーがこうなりやすい。コンピュータRPGしかやってないと「剣を振る」以外の選択肢があることすら思い付かないのだ。慣れたプレイヤーは自分の意見を言う前にそのプレイヤーの意見を聞くべきだ。どうしたらいいだろうか?と。それで考えつかなさそうならいくつかの選択肢を提示して「どれがいいだろう?」と聞こう。そうやって作戦を考える癖をつけてもらおう。 ↩︎

  8. ロールプレイの場合はどう行動するかが問題なのであって演技はしない。上の場合では「この女性キャラがこの男性キャラを誘惑します」と発言するだけだ。もちろん迫真の演技をするのはかまわない(し多くの場合する)が、どう演技しようと難易度は変わらない。 ↩︎

  9. 異性の言葉遣いが恥ずかしくてできない人へ。アニメやドラマじゃなく実生活をよーく観察してみれば、男女間の言葉遣いの差なんてほとんどない事に気がつくだろう。異性だからと変に演技などせず普通に話をすればいいのだ。 ↩︎

  10. 味方までもがブーイングというのが「なりきり」と「ロールプレイ」の大きな違いである。ロールプレイの場合は早く敵が倒せれば単純に喜ぶものだ。「なりきり」の場合は、目的は敵を倒すことではなくかっこいい台詞を叫んで剣を振り降ろすことにあるのだから。 ↩︎