ゲームマスタリングの方法

TRPGのゲームマスタリングをする上でよく問題になる項目を検討します。

ロールプレイ

いよいよ様々なトラブルの元になる「ロールプレイ」の話をしましょう。一言で言えば「プレイヤーがPCになったつもりで行動を考える」というものですが、この言葉は様々に解釈が可能なために認識の違いによって様々なトラブルを引き起こします。

ここでは「ロールプレイ」の意味についての話はしません。私が書いた別文書(ロールプレイとは何か「ロールプレイ」と「なりきり」)をご覧下さい。そしてこれらの文書で述べている問題点はすべてクリアしているものとします。

ここでは、キャラクターが持っているはずのない知識をプレイヤーが持っていることによって起こる問題について考えます。プレイヤーが「この場面ではこうするのがベストだ」と思ったとして、はたしてPCはそれを思いつくことができたでしょうか?そしてそれを判断するのは誰でしょう?正直に言うと、そんな事誰がわかるのでしょう?

RPGというのはつまるところ「この場面ではこうするのがベストだ」という行動を考えるゲームですから、そこに変な制約はできるだけつけたくないのです。プレイヤーが自由にアイデアを出しあって依頼を解決していくのが望ましいのです。しかしそれは時として(PCの住む世界としては)非現実的な解決法になってしまう事があります。このジレンマをどう解決したらいいかについてこれから述べていきます。

ゲームシステムに関する情報

ゲームシステムの情報はPCが知らないはずの情報ですがプレイヤーは知ってしまっています。だからその扱いをどうするかというのがよく問題になります。例えば両手斧のダメージが2d8で両手剣のダメージが3d6である、といった情報のことです。「2d8」とか「3d6」なんて言葉はPCの住んでいる世界にはないのですから、当然のことながらPCは知らないはずです。だから「両手斧の平均ダメージは9で両手剣の平均ダメージは10.5だから両手剣の方がいい」なんて議論も当然できないはずなのです。しかし私はこの手の議論はしてもいいと思っています。PCは武器のプロフェッショナルですから、なんとなく両手斧より両手剣の方がダメージが大きそうだというのもわかるでしょう。

プレイヤーが出てくるモンスターの強さを知ってしまっているというトラブルもよく起きます。「あ、こいつは巨大鼠だ。HPは4d6でたしか牙に毒を持ってるんだよな。危険だから弓で攻撃しよう。」といったようにです。しかしこれもある意味冒険者の常識としてPC達は全員知っているとして扱えばいいのではないでしょうか?それが嫌ならルールブックのモンスターマニュアルのデータをちょっと改造してオリジナルのモンスターを作ればいいだけの話です。

ゲームシステムに関するの問題の本質は「だいたいの数字」と「正確な数字」を混同してしまうことにあります。例えば「ライト」の呪文の効果に「10分間光が続く」と書いてあったとしましょう。プレイヤーはこれを使って10分間を正確に計ることを試みるかもしれません[10]。2つの杖に同時にライトの呪文をかけて2つのグループに持たせれば呪文が消えたのを合図に2方向から一斉に突入することができる、なんて考える頭のいいプレイヤーがいるかもしれません。

ルールブック中に書いてある数字は「だいたいの数字である」ということを徹底し、前述のトリックは禁止しましょう。ライトの呪文の効果は「10分間光が続く」ではなく「だいたい10分間くらい光が続く」と解釈するのが常識的に考えて妥当でしょう。10分間を過ぎるとだんだん光が弱くなっていくとか、蛍光灯の寿命が来た時みたいについたり消えたりするようになるとか。こうして常識的な判断を加えることで、ルールブックを杓子定規に適用するとできてしまう現実にはあり得ないトリックを防ぐことができます。同様に巨大鼠のHPは「だいたい4d6くらい」なのだし、両手剣のダメージは「だいたい3d6くらい」なのです。

別行動PCの情報

別行動をしている一部のPCとゲームマスターとのやりとりを聞いていたりして、PCが本来知らないはずの情報をプレイヤーが得てしまうことがあります。その場合、本来知らないはずの情報によってPCの行動は有利な方に傾いていきます。これは本来あり得ないことですから、プレイヤーは聞いていないふりをして有利な行動を取らないことにしなくてはいけないのでしょうか?

例えばPC達が二手に分かれてある人を探していたとします。一方がどれだけ探しても見つからずあきらめようかどうしようかと思案していた矢先に、もう一方のチームがその人を発見しました。最初のグループのプレイヤーがその情報を得てしまうと、自分が今つきつけられている「あきらめるかもっと探すか」という決断は以前のようにはできなくなってしまいます。「PC達はもう一方のグループが探し人を見つけた事を知らないのだからもっと探すに違いない」という判断もまた間違っています。PC達はあきらめようかどうしようかと思案していたのですから。結果として、PCの知らない情報がプレイヤーに渡ってしまうとどうしてもこうした事態は避けられません。

こうしたトラブルに対処するのに「PCの知らない情報はプレイヤーには渡さない」という方法もあります。PCが2グループに分かれたらプレイヤーも2グループに分け、一方がやっている時にはもう一方は別室で待機していてもらうのです。あるいは口で言うのではなく紙に書いて手渡しという方法もあります。しかしこれは面倒で場所の制約によってできない場合もあり、ゲームマスターの手間も二倍になるということからあまりお勧めしません。PCの知らない情報が渡ってしまって困るというのはあまり起こらないケースですから、そんな時のために多大な労力を割くのでは割に合いません。

もしこうした問題が発生したら、行動宣言の時に理由を尋ねる事にしましょう。「PCは探すのをあきらめます」とプレイヤーが宣言したら「どうしてPCはそう決断したのでしょう?」と。そこでPC達が知っている情報だけを使った合理的な理由を言うことができたらその行動を認めることにしましょう。「うーん、ただなんとなく」とか「探すのに疲れてきたから」といったあいまいな理由しか返ってこなかったら、運や自制心などでロールをさせてあきらめたかどうかを判定して下さい。

この問題の根幹は、PCの知らない情報を利用してプレイヤーが有利に行動する事ではありません。プレイヤーが「この情報はPCが知らないはずだから」と考えて本来ならできたかもしれない行動をあきらめてしまうことにあるのです。そんな気遣いは不要であることを明確にしておきましょう。

知性の少ないPC

知性が少ないPCを受け持ったプレイヤーが、「このPCはバカだから難しい作戦なんて考えられるはずがない」といって複雑な作戦立案を放棄することがあります。しかしこれは望ましい行為ではありません。作戦立案こそがRPGのゲームたる所以なのに、それを放棄してしまって他に何をするというのでしょう?

Intelligenceは「知性」ではなく「知識」と解釈すべきです。Intelligenceが高いのは東大生で、低いのは中卒(失礼!)というイメージです。普段の生活では東大生でもバカな行いをするし、中卒の人でも斬新なアイデアを出したりします。だから、行動宣言の時点でPCのステータスを考慮してよいアイデアを自分からボツにすることはありません。

Intelligenceが関わってくるのは科学や歴史などの知識についてです。普段の行動では違いが見られない両者も、相対性理論や量子力学の話になると途端に差が現れてきます。つまりIntelligenceが高いPCは「いろんな事を知っている」というだけで、普段の行動や作戦立案の能力には差はほとんどないのです。

「そんな事はPCが考えつかないはずだから」とPCの知性が少ないことを理由に行動宣言を却下してはいけません。すべてのステータスは判定の修正値としてのみ使い、ステータスを理由にPCの行動を縛ることはしないようにしましょう。PCはどんな行動でもとっていいのです。ただし能力が足りない場合はその結果は保障できません。と、要するにこれだけのことなのです。

科学知識

PCの知らないはずの知識のうちで最も扱いに困るのが科学知識です。例えば中世ヨーロッパを舞台とした時、今では常識である概念がその当時はまだ知られていなかったという事がいくつもあります。

  • 振り子の等時性の発見は1583年、ガリレオ・ガリレイによってです。それまでは時間を計る方法としては砂時計や水時計、あるいは天文学による方法しかなくどれも不正確でした。日本の江戸時代でも時間の最小単位は「刻(約2時間)」でそれより短い時間単位はなかったのです。

  • 伝染病の原因が細菌であることが知れわたったのはなんと19世紀のことです。それまではチフスや天然痘といった伝染病も、「眠い」とか「疲れた」といったような患者の状態の一種であると信じられていたのです。それまでは伝染病患者を隔離するという概念もなければ、清潔にしていないと病気がうつるなどという概念もなかったのです[11]。

  • 当時の化学は「四大元素」論が主流でした。火土水風の4大元素ですべての物質ができているという考え方です。だから例えば木が燃えるのは木の中に含まれている火の元素が外に出てくるからだし、水をかけると火が消えるのは水の力が火に勝つからだと思われていたのです。「酸素の供給を止めれば……」なんて思いつくはずもありませんでしたし、そもそも酸素が発見されたのは18世紀後半の話です。

技術的な事柄については対処が比較的容易です。例えば「この時代にはマッチなんて便利なものはなかったから火をつけるのは一苦労だよ」とか「その当時は火薬なんてなかったんだよ」と言えば済む話です。問題なのが、当時知られていない科学知識を使って問題を解決しようとした時の事です。例えばペストの患者を見た時に「病気がうつらないように離れて見ています」と宣言するのを許可するかどうかです。

この問題に対する一番の対処法は「PCの住んでいる世界は今我々が住んでいる世界とは異なる物理法則に基づいている」とするものです。PC達の住んでいるファンタジー世界では、軽い物より重い物の方が速く地面に落下するし、伝染病患者にべたべた触っても日頃の行いさえ良ければ病気はうつらないし、火は酸素がなくても燃えることにするのです。もともと魔法が存在する時点で現代の我々の世界とは物理法則が異なっている事が明白なのですから、この際はっきりと「現代の科学知識は通用しない」と断言してしまいましょう。

プレイヤーが現代の科学知識に基づいてPCの住む世界でいろいろな「発明」をしたとしてもそれは正しく動作しない事にして下さい。例え硝石と硫黄と木炭を混ぜたとしてもそれは火薬にはなりません。この世界とは物理法則が違うからです。火薬を作るには秘伝の呪文を唱えながらあるジェスチャーで材料をかき回さないといけないのです。

ファンタジー世界における物理法則は今我々が住む世界とは違っています。そこは中世の人々が信じていた世界法則がそのまま現実となった世界なのです。物理法則に関するすべての判定は「現実世界でそれを実行したらどうなるか」ではなく「中世の人々はそれを実行したらどんな結果になると信じているか」で判定すべきです。

まとめ

端的に言えば、「ロールプレイ」の問題点はそれをしない事よりそれをしすぎる事にあります。「はて、どうしたらいいだろう?」が「はて、この時このキャラならどういう行動をするだろう?」に変わってしまうのです。そして往々にして「このキャラならきっとこういう行動は取れないだろうな」といってベストの行動をあえて取らないことにしてしまいます。

しかしこれはPCの能力を過小評価しすぎています。PCは百戦錬磨の強者ですから、プレイヤーが考えるような事はPC達も当然考えることができます。だからプレイヤーには「自分がベストだと思うように遠慮なくPCを動かすように」と言ってあげて下さい。「PCにこんな事ができただろうか?」と判定をする役割はプレイヤーではなくゲームマスターにあるのです。