ゲームマスタリングの方法

TRPGのゲームマスタリングをする上でよく問題になる項目を検討します。

TRPGにおける倫理

固いタイトルをつけましたが内容も重いです。ここでは、TRPGにおける倫理面の問題について話したいと思います。倫理面とは要するに「人を殺していいのか?」とか「正義のための戦争はあるのか?」といった事です。TRPGのほとんどはこういった問題を抱えているのに、皆無視して済ませているようです。

こうした問題について、この際だからちょっと考えてみましょう。

倫理の問題

コンピュータRPGに慣れてしまっていると、敵を見ると剣で殴りつけたくのもわかります。しかし本当に殴ってしまっていいのでしょうか?あるいは敵の一人を捕まえて情報を聞き出そうとしたとします。拷問しますか?そしてその後は?生かしておくと厄介ですよ。

ここでプレイヤー間で意見の相違が出ます。「生かしておいて我々の得になることはない。殺してしまえ。」という意見と「いや、やっぱり人殺しはいけない」という意見です。後者の意見に肩入れしたい心情にはなりますが、キャラクターが一番有利になる行動は前者なのです。だから純粋にゲームとして見ると敵は殺してしまう方がいいのです。そこがどうも気になる「倫理面の問題」です。

一貫性がないのがもっと問題です。コンピュータRPGだと、ムービーの出る所では敵の誰かさんに情けをかけるのに、フィールドで遭遇したなんとかナイトを情け容赦なくぼこぼこに殴りつけるような例がいくつもあります。戦闘それ自体が非人道的ともいえる行為ですから、TRPGはまさに非人道的行いの宝庫といえましょう。「ゲームなんだから細かいことは気にしない」で済ませてしまう人が多いですが、この矛盾はそこかしこで問題になります。ちゃんと考えておくべきです。

「非人道的な行いはするな」と言いたいのではありません。このゲームではどこからがやってはいけない事なのかをはっきりさせておく必要があるということです。以下にいくつかのプランを挙げますから、自分たちのやる世界はどれに当てはまるのかをはっきりさせておきましょう。

なお、ここでいう倫理観は多少の例外はありますが世界全体に通用する事柄です。つまり、PC達も街の人達も敵もほぼ同様に考えているということです。もしPC達が敵を殺すのに少しも抵抗を感じないとしたら、同様に敵もPC達を殺すのに少しも抵抗を感じないでしょう。

悪党の倫理観

「自分の目的のためなら人殺しなど何とも思わない」というのが悪党の倫理観です。最もダーティーな倫理観と言えるでしょう。現実世界ではあまり適用して欲しくはないですが、ゲームの世界ならこれもOKです。

ただ、こうした倫理観を持っている場合はPC達は民衆に好かれるヒーローではなく、逆に民衆に嫌われる存在になります。PC達がどんな崇高な目的を持って邪悪な組織と戦っていようと街の人からは悪党たちの内部抗争に見えます。PC達は歴史の表舞台に立つことはできないでしょう。

注意して欲しいのは、この倫理観を適用するなら敵側もNPCもまたそう思っているということです。PCがNPCを見殺しにしたり自分の都合で殺したりする事が許される代わりに、NPC側も自分の利益のためにPCを平気で殺そうとします。つまりPCが不条理に突然死する事が増えるということです。

もちろん好みの問題ですが、この倫理観はお勧めしません。プレイの幅が狭まってしまいますし、なによりPCの突然死が多くなりますのでトラブルのもとです。しかしそうした裏世界で遊びたいのならこの倫理観を適用するのもいいでしょう。

戦争の倫理観

「敵は殺しても構わない」という倫理観をここでは「戦争の倫理観」と呼んでおきましょう。この倫理観で一番問題となるのは「敵」の定義です。

一番簡単なのが敵としてオークやゴブリンを出す事です。オークやゴブリンは敵だから殺しても構わないが人間やエルフやドワーフは殺してはいけない、とするのです。あるいは人間やエルフでも蛮族とかダークエルフは敵だと定義してしまうこともあります。こういう場合には皮膚の色が違うとか顔つきが違うとか、見ただけでわかる特徴を持たせるべきです[1]。重要なのは、見かけだけで敵かどうかを判別できるようにすることです。

○○王国は敵だからそこの住人は全員殺してもかまわないと定義する場合もあります。「○○王国の住人」を「悪の組織○○の構成員」に置換することもできるでしょう。どちらにしろ明確な基準です。こうした基準を設けることでプレイヤーはあれこれ悩まずに戦闘をすることができます。

これらはすさんだ倫理観にも見えますが、実際に第二次世界大戦中に各地で行われた事です。戦争状態にあればこうした倫理観も正当なものとして受け入れられるということです。そしてこれは一旦受け入れてしまいさえすれば明確な基準です。

赤十字の倫理観

「兵士同士は殺し合うが非戦闘員は傷つけない」という倫理観をここでは便宜的に「赤十字の倫理観」と呼ぶことにしましょう。非武装状態の人は狙わないということです。

この倫理観は割とすんなり受け入れやすいものではないでしょうか?しかし一つ問題があります。非戦闘員の定義があいまいなことです。兵舎で兵士たちの食事をつくっているまかないのおばさんはどっちでしょう?あるいは兵士たちが酒場で飲んだくれている時はどっちにあたるのでしょう?

結局のところ、この倫理観はグレーゾーンがどうしても出てきてしまうせいでごく限られた条件下でしか適用できないのが難点です。しかし場面を戦場とそうでない場面にはっきりとわけることができるのなら、「戦場で武器を持っている人間は殺していいがそれ以外はだめ」というように明確な基準をつくることができます。そしてその場合には戦場以外で戦うような場面を作ってはいけません。

ヒーローの倫理観

「悪い奴は殺してもかまわない」というのがヒーローの倫理観です。ヒロイックファンタジーをやりたい場合にはこの倫理観が一番しっくりくるでしょう。しかしこの倫理観は「悪い奴かどうかは誰が判断するの?」という所に大きな問題があります。

この倫理観を適用すると、自分に都合の悪い奴を全員悪と決めつけがちになってしまいます[2]。そうすると前述の「悪党の倫理観」になってしまいます。ヒーローと悪党は紙一重なのです。さて、キャラクター達はどっちでしょう?

ヒーローより悪党の倫理観の方がキャラクターにとって都合がいいという事が問題をややこしくしています。RPGというのはつまるところキャラクターにとって有利な行動を考えるゲームですから、いくらヒーローの倫理観を標傍していてもどうしても悪党のそれになってしまうのです。ヒーローが自分勝手な正義を振りかざして都合の悪い人間をどんどん抹殺していく、というのはある意味現代社会の縮図を見ているようでもありますがあまり気持ちのいいものではありません。

結論として、この倫理観は適用しないことをお勧めします。どうしても適用したいのなら、問題が発生した時にその都度「こいつは悪い奴かどうか」を「ゲームマスターを含めて」話し合って下さい。そして全員で「こいつは悪い奴だ」と納得できてはじめて殺してもいいことにして下さい。

殺人の禁止

「人は殺してはいけません。しかし動物はかまいません」という倫理観を適用することもできます。この倫理観は戦争状態にない今の日本人には妥当なものですが、できるシナリオの種類が限られてしまうという欠点があります。人間相手の戦闘ができないのですから。

その結果として、戦闘といえば洞窟コウモリや熊や闇のモンスターやゾンビなどが相手になります。ここにオークやゴブリンなどの知的生物も含めることにしてもいいでしょう。とにかく相手は人間じゃないのだから殺してもいい、というのです。

このようにファンタジー世界なら殺人を禁止しても他に戦う相手はいくらでもいるわけです。だから敵側に人間を出しさえしなければこの倫理観を適用しても十分ゲームになります。

また、街を探索して情報を集める事がメインの非戦闘系のシナリオでもこの倫理観を適用できます。この場合、戦闘は起きないかもしれませんし、例え起きてもお互い死ぬまでやり合うことはありません。武器は剣や弓ではなく素手やビール瓶であり、HPの何分の一かが減らされた時点で勝負がついたことにします。

降伏と捕虜

相手を殺す事がその世界の倫理観に違反する場合は、殺す代わりに捕虜にするという選択肢をとる事ができます。それは敵もPCも同様です。殺されそうになったら武装放棄して泣いて許しを請うというルールを徹底すれば、倫理観の問題を起こさずに戦闘をすることができます。

この場合に問題となるのが捕虜の扱いですが、一番簡単な解決法は牢屋や捕虜収容所を用意してそこに送ることです。これでPC達は自分たちが倒した敵に後々までわずらわされずに済みます。いったん捕虜になった敵はPC達に従順で言われた事は素直に聞くことにして、決して反抗したり逃げ出したりはしないようにして下さい。もし捕虜が何かの隙に逃げ出すような事があったら、PC達はやっぱり殺しておけばよかったと思うかもしれません。実際の人質事件でわかるように、丸腰の捕虜が逃げ出すなんて普通できないことです。

逆にPC達が戦闘に負けて捕虜になったら、閉じ込められた先に協力者がいたり何か特別な用意がない限り死亡相当の扱いにして下さい。逃げ出すことができるはずもない牢屋でずっと暮らす場面をゲームでやっても何も面白くはありませんから。かといってとっさに脱出シナリオを用意するのはもっとよくないことです。なぜなら「戦闘に負けてもゲームマスターはちゃんと脱出できる術を用意してくれている」という認識になってしまい、戦闘の重要性が薄れてきてしまうからです。

もし捕虜になったのがPCの一部だけだったとしたら、残りのPCが救出に向かうという事は考えられます。しかしそれは実際には困難な事です。全員で立ち向かっても負けた相手に一部だけでどう立ち向かえというのでしょう?それに救出劇の間ずっと一部のプレイヤーが暇になってしまいます。PC達が「救出に向かおう」という気運になったとしたら、キャラの作り直しも提案してみて、どっちがいいかを当のプレイヤーに決めさせて下さい。もしこのあたりが問題になるようでしたら、PCは敵を殺してはいけないが敵の方はPCをあっさりと殺すことにしてもかまいません。敵はPCより倫理観に欠ける悪人であってもいいのです。

宝箱の扱い

殺人の話とはまた違う話ですが、宝箱の扱いもよく問題になる話です。つまり「宝箱の中身は勝手に自分のものにしてしまっていいのだろうか?」という問題です。これも各人によって解釈が異なる可能性があるので事前にはっきりしておきましょう。

人の家のたんすを勝手に漁ってアイテムを持っていってしまうのが泥棒である事は誰もが認める事でしょう。ただそれが悪の魔法使いの棲み家だった場合はどうなるでしょうか?あるいはそれが盗賊団の本拠で、そこにあるアイテムが盗品だったとしたら?色々な設定が考えられますが、ここでは私が妥当だと思う一つの案を示します。

まず、もはや誰も持ち主のいない場所にある物は発見者のものにしてしまっていいでしょう。古城や洞窟で見つけた財宝のことです。同様に宝物をモンスターが守っていた場合にもモンスターは人ではなく所有権は生まれませんから同様に発見者のものです。攻撃対象が悪の帝国や蛮族などのいわゆる「敵」であった場合も同様で、PC達が属する国の法律の適用範囲外にしてよいでしょう。「敵」は所有権を主張することができず、そのためPC達がその財産を奪っても問題はありません。

しかし、もし冒険となる舞台の城に所有者がいたらどうなるでしょう?例えば城がモンスターに占拠されてしまったというような場合です。この場合は城の中の財宝は城の所有者のものですから、PCが勝手に拾っていく事は泥棒行為です。城の持ち主が許可しない限りはPCは報酬だけで満足すべきです。盗賊の寝ぐらを襲う場合も同じで、そこにある財宝はもともとは盗品であり正当な持ち主がいます。財宝はいったん国が預かり、PC達には報酬という形でその一部を分配するのがいいのではないでしょうか。

とにかく宝物の持ち主の扱いは単なる決めの問題です。でも事前に決めておくか、最悪でもその場で確認するようにしましょう。問題になりそうなら、宝箱の中身は全部PCのものにして、その分宝箱の中身や報酬を減らすという解決方法、あるいは逆に宝物を出さずにすべて報酬だけにするという方法もあります。

シーフの扱い

シーフはたいていのファンタジーRPGで職業として存在し、戦士と並んでメジャーな存在です。おそらくPCのうちの誰か一人はシーフでしょう。しかしシーフといえばすなわち「盗賊」です。そんな奴がPCの中にいていいのでしょうか?

シーフが「盗賊」であることを認めてしまうと、シーフのPCは悪いことを好き勝手やり始めます。人の家のたんすを勝手に漁ってお金を持っていくのは悪い事であって本来やってはいけない事なのですが、シーフなら「俺は盗賊だからそもそもこれが本職なんだ」と堂々と泥棒をやるかもしれません。他のPCが皆法律を守らなければいけない中でシーフだけは何をやってもいいのでしょうか?どうも何かひっかかります。

ゲームによってはシーフを「忍びの者」とちょっと苦しい訳をしているものがあります。私はこの方が妥当だと思います。シーフという職業は(空想化されていない)忍者にあたる職業です。その能力は例えば「敵の城に忍び込んで密書を盗んでこい」という命令を実行するために使うのであって、雑貨屋の売上金を盗むために使うのではありません。西洋でも同じような役割の人はきっといたことでしょう。

あるいは泥棒稼業から足を洗ったことにしてもいいでしょう。昔は悪いこともしたけれどそこで得た能力を正しい方向に使うというのです。遺跡や古城の盗掘専門という設定も考えられます。盗掘というと聞こえは悪いですが、「文化財は国のもの」という概念がない世界では誰のものでもない放棄された宝物を勝手に持っていっても誰もとがめはしません。

とにかく、PCは例えシーフであっても窃盗などの犯罪を許してはいけません。警告を無視してPCが犯罪を犯したら警察機構がPCを捕まえに動くことにして下さい。もちろんそこでPCが抵抗して警察部隊を切り殺そうものならPC達は極悪犯として全国に指名手配されるのです。もしプレイヤーが「シーフが盗みをするのは自然なことじゃないか」と言ったら「警察が泥棒を捕まえるのも自然なことじゃないか」と反論しましょう。本当にPCの身になって考えれば、冒険者というまともな(?)収入源を得た今となっては泥棒などという危い橋をわざわざ渡るわけはありません。

倫理の実践

倫理観の問題はその世界設定と密接に関係しますからゲームマスターが決める事です。どうするのかを事前に考えてそれをプレイヤーに知らせてあげて下さい。どういう倫理観を持つのかはある意味個人の自由ではあるのですが、それはほとんどは社会のありようが決めるものです。だから倫理観はルールとして扱い、それから逸脱するような行為は許さないようにして下さい。例えば今の日本では人殺しは悪いことだという倫理観があります。今の日本の社会がいくら「どう行動しようと自由」だからといって、普通の人がいきなり無差別殺人を始めるなんて考えられられない事でしょう。だから倫理観は強制的に押しつけて下さい。注意しても逸脱が激しいプレイヤーは警察が捕まえるなどのペナルティを与えて下さい。

PCをどう動かすかはプレイヤーの自由です。しかし倫理観というのはそのキャラクターにあらかじめ備わったものであり、一種のルールです。プレイヤーはルールに違反するようにPCを動かすことはできません。ただ、ルールであるからには明確でなくてはなりません。どこからが倫理にもとる行為なのかをはっきり言えるようにしましょう。


  1. 人種差別的ではありますが、ゲームの都合上仕方のないことです。

  2. まるでどこかの国の事を言っているようですが。