MORPGにおけるロールプレイ

MORPGで「ロールプレイ」とか「なりきり」と呼ばれているものの本質について考えます。

MORPGは何をするゲームか

そろそろキャラクタープレイは何かがわかっていただけただろうか?キャラクタープレイはゲームに登場するキャラクターが、本当にその世界に住んでいるものとして行動/発言することだ。そしてそれはゲームの雰囲気を壊さないためである。そのゲーム内世界でヘンだと思われる行動はしない。それが唯一のルールだ。

と、ここまで理解してもらえたとしよう。しかし、さあ実践という段になってきっと大きな壁にぶち当たる。

キャラクタープレイは面白いか

さっそくキャラクタープレイをやってみるとしよう。キャラクターを作る時は既存のアニメキャラからそのまま取ってこないようにしよう既に言った。ちょっと面倒でも自分で名前を考えよう。その方が愛着がわく。別に誕生から現在までのストーリーを作る必要もなければ、性格がどうとか容貌がどうとか考える必要もない。姿形はキャラクターメイキングで作って今まさに画面に出ているそのまんまだし、性格なんてなくたってゲームの雰囲気を壊すことはない。キャラができたらそのままゲームを始めよう。

ゲームを始めるとあなたのキャラは街の大通りのどこかに立っていて、他にもたくさんのキャラが無言で大通りを行き交っている。「ここは異世界なんだ」と少し感動しつつ、風景を楽しみながら歩き始める。間違っても大通りでいきなり「こんにちは。僕の名前は○○です」なんて叫ばないようにしよう。もし渋谷のスクランブル交差点の真中でこう叫んでいる男がいたらどう思う?きっと皆近寄らないようにすると思う。そんなみっともない真似はやめよう。

大通りを自然に歩こう。あくまで自然に。他人に聞こえるような大声で独り言を言いながら歩くのは不自然だし、見知らぬ通行人に慣れ慣れしくからむのも嫌われるぞ。自分がいつも一人で街を歩く時にそうするように、前を向いて黙々と歩くんだ。そうそう、うまいぞ。それがキャラクタープレイだ。

こうやって黙って街を3周もすれば誰もが気づくだろう。本当にこれがキャラクタープレイなのか?そろそろ飽きたんだけど……これのどこが面白いんだ?と。

こう疑問に思った人がいたら、初めからよく読み返してほしい。確かにキャラクタープレイをしないと雰囲気が壊れると言った。キャラクタープレイは大事だとも言った。しかし、「キャラクタープレイが面白い」とは一度も言っていない。キャラクタープレイをしないと雰囲気が壊れて面白くなくなるが、キャラクタープレイをしたからといって面白くなるわけではない。

繰り返しになるが、キャラクタープレイは「何を発言/行動するか」ではなく「どのように発言/行動するか」だ。だから、「何をするか」というのが面白さの源だ。キャラクタープレイは単にその面白さをだいなしにしないというだけのことだ。上の例であなたが飽きたのは、単に街を3周するという行動が面白くもなんともなかったからだ。ゲームを楽しみたいならもっと面白い行動、例えば店で買物をするとか、仲間を募って洞窟を探検するとか、クエストを受けるとかするべきだ。

キャラクタープレイは「遊び方」ではない。言うなれば「マナー」のようなものだ[1]。マナーを守らないと皆が不幸になるが、マナーを守る事はゲームの目的でもなんでもなく、マナーを守ったからといってもともとつまらないゲームが面白くなるわけでもない。キャラクタープレイもこれと同じだ。キャラクタープレイをやったところでつまらないゲームはやっぱりつまらないままだ。

RPGの遊び方

キャラクタープレイはゲームの目的ではないことがわかってもらえただろうか。「雰囲気を壊さないようにしよう」というだけで、何かを新たに付け加えるわけではない。

だから特に新しい事をしようとせず普通に遊べばいいのだ。ゲームを進める時には自分がそのキャラクターになったつもりで真剣に考えよう。攻略本を見ると面白さは半減するからそれは本棚の奥にしまっておいて、同じようにまだ先を知らない人と一緒に未知の洞窟を探検しよう。どうやったらうまくクエストが達成できるか仲間と相談をし、クエストが達成できたらそのキャラクターが喜ぶさまを思い浮かべながら一緒になって喜ぼう。

同じ立場の仲間と真剣にゲームをすれば、いろいろ会話することがあるはずだ。「どっちに行ったらいいと思う?」とか「大丈夫?まだやれる?」とか「やった! ドラゴンを倒した!」とか。その際にそのゲームやキャラクターの持つ雰囲気を壊さないように気をつけよう。難しく考えることはない。ヘンな事を言わなければいいだけだ。

別にゲームに役立つ発言だけでなく感想でも何でも構わない。「今日はとっても楽しかった。付き合ってくれてありがとう。」というお礼の言葉も、もしそれが冒険者ギルドで仲間募集をして集まった仲間だったとしたらキャラクターの発言として何ら不自然なところはない。ジョークをとばすことだってあるだろうし、それに対して笑うこともあるだろう。現実に仲間と何人かで天気のいい野原を歩いていれば、きっと和気あいあいとおしゃべりしながら進むことになるだろう。

ゲームに関係ない話とネタバレ話以外でキャラクター発言として不適切な「内容」はほとんどないはずで、あとは言い方をちょっと工夫すればいいだけだ。女性なら口調をちょっと女性形にしてみるとか、男性なら荒い口調にしてみるといった工夫もいいだろう。しかしそんなにこだわる事もない。MORPGの場合はキャラクターが目に見えるというとても力強い味方がある。同じように「やった! ドラゴンを倒した!」と発言しても、それが女性キャラなら活発な女性の声で、男性キャラなら野太い男性の声で言ったように脳内で勝手に変換されるはずだ。ただ、どう考えても女性が言うとヘンに聞こえる言葉(例えば「俺にまかせろ!」とか)だといくら画面上で女性キャラでも脳内変換に失敗してしまい、結果として雰囲気を壊してしまう。そういう発言に気をつけさえすればいいのだ。

一人で黙々とやるRPGと違って、MORPGでは仲間といろいろ話し合ったり感想を言ったりとにぎやかに楽しく冒険することができる。一人用のRPGだとNPCは同じ事しか言わなかったり妙にバカだったりして「ああ、これは異世界のまがいものなんだなぁ」と幻滅することもある。だが、MORPGでは相手も自分と同じ人間である。(相手もキャラクタープレイをしてくれていれば)、その場とその世界にそぐわないヘンな行動もしないはずだ。結果として異世界をリアルに体感できる。

ゲームとしてのMORPG

どうだろう?キャラクタープレイを守ってRPGを遊べばゲーム内世界での冒険をリアルに体感できる。「なんでお前はいつも同じ事しか言わないんだー」とつっこみを入れたくなることもないし、「誰もケガしてないのに勝手に回復魔法かけるなー!! 味方がバカで困るよなぁ」なんて思うこともない。信頼できる仲間として行動してくれる。それに、相談したり意見を述べたりすれば答えてくれる。これこそが「仲間と協力して目標を達成する」というRPGならではの楽しみだ。

しかし、上の話でいくつか理想的な状況を設定したことはMORPGをやった事がある人ならわかるだろう。この話はあくまで理想論であって、現実はこううまくいくわけではない。「皆が世界の雰囲気を大切にしてキャラクタープレイをしてくれるわけではない」という問題を抜きにしたとしても(つまり、皆がキャラクタープレイを徹底したとしても)、いくつかの問題が出てくる。

「メンバー全員がやった事のないクエストをやる」という事自体、固定メンバーでないと至難の技だ。そのクエストを一度やった事がある人を混ぜてしまうのは、一度解いた人と一緒にクロスワードパズルをやるのと同じだ。その人に正解をすらすら埋められても困るし、かと言って参加してるのに何もしないでくれというのもまた困る。そして「やった事のあるクエストは二度とやらない」という誓いを立てるにはあまりにクエストの数が少ない。

何回も同じクエストを受けて同じ洞窟に潜っていると、そのうち仲間と相談することはなくなってしまう。誰もがどうやってクリアすればいいかわかっているし、自分はどう戦えばいいかわかってしまっている。話し合いも感想も、そして敵を倒した時の感動もない。誰も何も言わずに黙々とただ敵を剣で切りつけ、なんの感動もなくドラゴンを瞬殺する。こんな場合どうしたらいいのか?こうなってしまったら、本来ならそんなゲームはやめるべきだ。答えのわかっているパズルを解いて何が面白いんだ?

確かにキャラクタープレイを守れば相談しながら楽しく冒険できる。しかしそれが楽しいのは最初の一周だけだ。そしてそのためには全員がそのクエストに初めて参加するものでないといけない。ほとんどのMORPGではこの条件を満たすことは至難の技だ。

やり込みの楽しみ

キャラクタープレイでは「メンバー全員がやった事のないクエストでないと楽しめない」と述べた。これはあまり正確ではない。本当のところは、キャラクタープレイなんて考えなくてもやっぱり同じクエストを何度もやるのはつまらない。どうやってクリアすればいいかは一度やればだいたいわかってしまうから、そのあとは単なる作業になってしまう。

一人用のCRPGではこの問題はあまり起こらなかった。ほとんどのプレイヤーにとってCRPGの目標は「エンディングを見る」というものだったから、一通りやればその目標は達成してそれでゲームはおしまいになった。しかしこれではプレイ時間を稼ぐことはできない。接続料金で稼ぐMORPG方式では致命的な問題だ。ゲームメーカーはこの点に気がつき、その解決方法として「やり込み」という新たな要素を導入した。同じ洞窟を何回もクリアするといろんなレアアイテムが出たり階級が上がったり、といった要素を付け加えたのだ。これでプレイヤーの目標に際限がなくなった。目標は経験値を溜めて階級を上げてレアアイテムを拾うことなんだから、一度クリアした洞窟に何度も何度も潜って経験値を溜めることになった。しかし、本当にこれでいいのだろうか?本当にこんなのが面白いのか?胸に手を当ててよーく考えてほしい。

MORPGではゲームの寿命を延ばすために、「一回クリアしたら終わり」というシステムを導入しなかった。何度でも同じ冒険にチャレンジできるようにしたのだ。そしてMORPGではそれが当たり前になり、やがて「なんで自分達は同じエリアで同じ作業を毎日繰り返しているのか?」という疑問すら頭に浮かんでこなくなった。

しかしこれはキャラクタープレイにとっては致命的だ。なぜなら、明らかに世界が破綻しているからだ。どこかの坊っちゃんが自分の武器を何回もドラゴンに飲み込まれ、世界を恐怖に陥れる暗黒の大王が一日何百回となく殺される。ラスボスを何度も倒したはずなのに世界はいっこうに平和にならず、「世界は危機に瀕している」というメッセージに答えて新人がどんどん入ってくる。「キャラクタープレイをして世界の雰囲気を壊さないようにしよう」といくら呼びかけようと、そもそもゲーム自体が世界の雰囲気をぶち壊しにしているのだ。そしてゲーム中には仲間との会話も相談も何もない。ただ黙々と敵を倒すだけだ。前の例で言えば街をただぐるぐる歩き回っている時のように。

やり込み要素の導入によってMORPGの製品寿命は延びた。しかしこれによってゲームは単なる「敵を倒すという作業をすればご褒美アイテムがもらえる」というものに変わってしまった。こんなものをゲームとは呼びたくない。どうせやるなら「敵を倒す」ではなく「ボランティア」にでもすれば世の中のためになっただろうに。

チャットの楽しみ

プレイヤーも馬鹿ではない。多くの人はメーカーの陰謀にハメられず、「作業なんてつまらない」と正しい認識をした。しかしせっかく大金を出してゲームをやったのに一回クリアしただけで投げ出してしまうのはもったいない[2]。そこで彼らは別の楽しみを見つけた。「チャット」である。本当は別にわざわざMORPGでチャットをする必要もないのだが、MORPGはチャットをするにはなかなか便利なシステムを色々と備えていた。かくして、ゲームはつまらないのでプレイヤーは代わりにチャットに興じることにした。チャットは(メンバーさえ揃っていれば)飽きないし面白い。

そして敵を倒すというつまらない作業の合間合間にチャットをするようになった。こうすればつまらない作業をしていてもチャットのおかげで楽しい。そしてある程度作業をすればご褒美がもらえる。一石二鳥とはこのことだ。その結果、MORPGは「敵を倒しながらチャットをするもの」ということになった。普通の人にとって面白さが一番長続きする遊び方がこれだったのだ。ただ黙々とゲームをするのは良くない事とされた。つまり「MORPGではゲームに専念するのはよくないことだ」というわけだ。こんなバカげた話はあるだろうか?

なりきりの楽しみ

「なりきり」とは、キャラクターの真似をする遊びのことである。あるいはキャラクターになりきって「演技」する遊びであるとも言えるだろう。こう言うと「あれ?演技ってキャラクタープレイのことじゃなかったの?」と言う人もあるだろう。

キャラクタープレイと違ってなりきりには目的がある。「キャラクターを表現する」というのが目的だ。このキャラクターがどういう性格で、どういう宿命を背負っていて、そしてどう生きていこうとするのかを他の人に見てもらいたいのだ[3]。そしてそれを演じることでカタルシスを得ようとする。なりきりには、キャラクタープレイにはない「何をするのか」を提供しているのだ。

なりきりには2種類の違ったアプローチがある。一つは自らがキャラクターを演じる「役者」になることで、もう一つはキャラクターを演出する「演出家」になることだ。役者型のなりきりは自分がそのキャラクターになったつもりでその架空の「自分」を表現する。演出家型のなりきりは「うーん、このキャラクターの性格をどう表現しようか」と腕を組んで考え、緻密に計算されつくしたセリフを発言する。どちらの人もMORPGを「劇場」だと考え、そこでキャラクターを「演技」させ、キャラクターの性格や内面の葛藤といった文学的なテーマを表現しようとする。ストリート演劇のようなものだと思っていればまあ間違いないだろう。

とにかく、「なりきり」の目的はゲームをする事ではなく面白いキャラクターを演じること[4]だ。そして「キャラクタープレイ」はその実現手段である。「なりきり」の説明として「キャラになったつもりで演技する」とか「口調を変える」といった実現手段を言う人がいるが、これらはキャラクタープレイの説明である。そしてキャラクタープレイとなりきりは違うのだ。敢えて言えば、「キャラクタープレイが目的なのがなりきりである」とも言えるだろう。普通の人はゲームをするのが目的でその雰囲気を壊さないようにキャラクタープレイをする。しかし「なりきり」の人は演じることそれ自体が目的になっているのだ。

MORPGは面白いか?

キャラクタープレイは面白くない。というより、面白いかどうかという話をする方がおかしい。「みんなで雰囲気を壊さないようにしよう」という、言うなればマナーのようなものだからだ。MORPGというゲームの面白さを「なんか興ざめな事を言う奴がいるなぁ」とぶち壊しにしないためのものであり、それ以上のものはない。

しかし困ったことに、実のところMORPGのほとんどはゲームとして見るとあまり面白くない。敵が出てきたらボタンを押すという単純作業を強いられるし、ほとんどそれしかないからだ。他のプレイヤーと相談しながら工夫してゲームをクリアする楽しみはせいぜい発売後2週間くらいしか味わえず、その後は単なる経験値稼ぎ作業と化してしまう。

MORPGを立ち上げて、「さぁて、今日は何か面白い事(人)に出会えるかなぁ」と期待したとしたらそれは危険サインだ。ゲームをやる事自体に面白味はないのか?その人はゲームをやる事ではなく何か他の事を期待してMORPGを立ち上げている。それはつまりそのゲームにはもう飽きたということなのだ。本来ならば、やりたい事があるからゲームを起動するはずだ。「今度こそ○○クエストをクリアしたい」とか「ドラゴン征伐に挑戦しよう」とか。あれもこれもしたいと悩む事はあるかもしれないが、何もしたい事がないことを悩むのはおかしい。

「キャラクタープレイをする」というのが目的になってしまうと、これを達成する手段は一つしかない。「なりきり」をやるということだ。しかしこれは本末転倒だ。キャラクタープレイというのは「ゲーム」の雰囲気を壊さないための手段だったはずだから、「ゲーム」を捨てて「なりきり」をやってまでキャラクタープレイにこだわる必要はないのだ。もちろん「ゲーム」ではなく「なりきり」をやりたい人はそれをやっていればいいのだが。

本当のことをいうと、キャラクタープレイをしながらMORPGというゲームをやってほしいと言いたい。こうすれば雰囲気を壊さずゲームを楽しめる。しかし残念ながらこんな無責任なことは言えない。2週間で飽きるからだ。これはキャラクタープレイが悪いのでもプレイヤーが悪いのでもなく、単にゲームの(ゲームとしての)出来が悪いからなのだ。


  1. 念のため注釈をつけておくが、これがマナーだというつもりはない。「マナー」と同じような性質を持つと言っているだけだ。 ↩︎

  2. レベル上げ作業を除いたクリアまでの所要時間は、一般にMORPGの方が普通のCRPGよりずっと少ない。MORPGではムービーがつけられないし、進度の違うプレイヤーでも一緒にゲームができるように、お話を順にたどっていくという形式をとっていないからだ。しかも主人公キャラを途中で入れ換えて物語の深みを出すというワザも使えない。 ↩︎

  3. そしてこれが普通の人との摩擦を引き起こす。なりきりの場合「人に見てもらう」必要があるからだ。だからそんなものは全然見たくない人に強制的に見せようとするのだ。 ↩︎

  4. だから「なりきり」には変わったキャラクターがしばしば見受けられる。ごく平凡な戦士では面白くもなんともないからだ。 ↩︎