MORPGにおけるロールプレイ

MORPGで「ロールプレイ」とか「なりきり」と呼ばれているものの本質について考えます。

キャラクタープレイとは何か

まず本文書で使用する「キャラクタープレイ」という用語について話をする。「キャラクタープレイ」とは「現実世界とは違う世界に住むキャラクターが、本当にその世界にいるかのように振舞うこと」である。ぶっちゃけた話、今のうちは「演技」と思ってもらってかまわない。

というと、すぐに「女性なら女言葉を使う」とか「将軍は偉そうに対応する」といった例が挙げられる。確かにこれは「キャラクタープレイ」だ。しかしこれだけがキャラクタープレイなのではない。走る、剣を振る、魔法を使うなど、その世界でそのキャラクタがするすべての動作は言うなれば「キャラクタープレイ」なのだ。

「俺はなりきりなんて大嫌いだ。演技なんて見ると虫酸が走る」という人でも、MORPGなら魔法を使う時にキャラクターが呪文詠唱の動作を始めるはずだ。あなたがボタンを押すことによってキャラクターは呪文詠唱という「演技」をするのだ。会話でも同じこと。RPGで村人にあるクエストを頼まれている状況を考えてみてほしい。そしてそこにこう選択肢が出ていたとする。「もちろんやるぜ!!」「やーだね」と。あなたがどちらかを選択すると、結果的にそれはキャラクターが「もちろんやるぜ!!」あるいは「やーだね」と言ったことになる。これがキャラクタープレイだ。あなたはあなたのキャラクタを操作してそいつに「もちろんやるぜ!!」と言う、普通の人には恥ずかしくて言えないような(というとちょっと言いすぎだが)台詞を言わせたのだ。

まず認識してほしいのは、「キャラクタープレイは決して特別なものではない」ということである。キャラクターをその世界で動かすことはすべてキャラクタープレイなのだ。

なぜキャラクタープレイが特殊に見えるのか

ではなぜキャラクタープレイは何か特殊なことのように見えるのだろうか。その原因は会話にある。誰でも剣を振ったり魔法を唱えたりは同じようにするのに、会話だけは雰囲気が全然違ってしまっているのだ。

最初に例に挙げた「女性なら女言葉で対応する」というのがいい例だろう。普通の人は「プレイヤーが男なのに『あたし○○が××で……』とキー入力して喜んでるんでしょ?なんだか気持ち悪い」と思うだろうし[1]、それに対してキャラクタープレイ派は「何を言ってるんだ。女性キャラの吹き出しに『俺が俺が』って出る方が気持ち悪いだろう」と反論する。

これを感性の問題、つまり「何を気持ち悪いと思うかは人それぞれだから仕方ない」で済ましていいものだろうか。いや、そうではない。両者とも「何を気持ち悪いと思うか」という意見は一致しているのだ。性別と発言(言葉遣い)が違っていることを気持ち悪く思っているのである。ただ前者は「発言はプレイヤーのもの」と思っていて、後者は「発言はキャラクターのもの」と思っているから意見が食い違うのである。

この問題はその他の動作では起きにくい。キャラクターが呪文詠唱の際にくるくる踊り回っていても誰もそれを「プレイヤーのもの」だとは思わないからである。しかし発言だけは「プレイヤーのもの」だという一般常識になってしまっているから、普通の人は「プレイヤーが男のくせに女言葉だ。気持ち悪い。」となってしまうのだ。

つまり、キャラクタープレイをする人は「画面上に見えるキャラが行った行動は全部キャラクターの行動である」と認識しているのに対し、普通の人は「画面上に見えるキャラが行った行動のうち、発言だけはキャラクターの行動ではなくプレイヤーの行動だ」と認識している。つまり、特殊な決まり事を勝手につくっているはキャラクタープレイ派ではなく普通の人なのだ。

ゲームとチャット

この手の話をするとこういう意見がよく聞かれる。「一緒にゲームをしていると、突然『やった! 巨人がサヨナラ勝ちだ!』などとゲームとは関係のない発言をする人がいる。こんな事をキャラクターは言うはずがない。こんなのは興覚めだろ?」と。こういった事例をもってキャラクタープレイを擁護する人がいる。

しかし、こういう事例はキャラクタープレイうんぬんの話とは切離して考えるべきである。こういう人は、演技がどうとかキャラクターの発言がどうとかいうより「皆が真面目にゲームしている中で一人だけ野球を見ながらいい加減にやっている人がいる」という意味で非難されるべきものだ。

MORPGのロビーで、野球の話や他のゲームの話のチャットで盛り上がる事はよくある。そしてそれは楽しみの一つだしむやみに否定するつもりはない。しかし、そういうチャットで盛り上がることはいわば「真面目にゲームをやっていない」事であることを自覚してほしい。本来MORPGはゲームをやる場所であってチャットで盛り上がる場所ではないのだ。「チャットで盛り上がるなら他所へ行け」とは言わないが、「本来ならゲームをやる場所なのに勝手にチャットで盛り上がってしまってごめんなさい」という意識は持ってもらいたい。

チャットで盛り上がるのは大いに結構だ。しかし、真面目にゲームをやろうとしている人に対して「俺達はチャットで盛り上がってるんだ。お前らのようにゲームをやる奴は邪魔だ」という意識は持ってもらいたくはない。チャットはMORPGの本来の使い道ではないのだから。

チートとネタバレ

ではそのゲームについての会話はどうだろう。例えば「経験値を速く上げるにはどこが一番効率がいいか」とか「一番強い武器はどれか」といった話である。しかしこの手の話にも問題がある。端的に言えばこれは「チート」だからだ。

「チート」というとあなたはどんな内容を思い浮かべるだろう?多くの人はきっとデータを改変して通常ではあり得ないキャラクターやアイテムを作ることだと認識しているだろう。そして一部の人は、自動レベル上げのように本来のゲームプレイによらずにレベル上げをする行為も含まれると主張する。しかし、「チート」はもっと広い意味を持っている。「普通にゲームをしていては得られない情報/手段を使ってゲームをプレイする」のがCheatの本来の定義である。

「普通ゲーム中に得られるはずのない情報/手段」とは何だろう?それはつまり、まだ戦ったこともない敵の強さだとか拾ったこともないアイテムの効力やクエストの解き方などである。あなたはまさか「攻略本」を読みながらゲームをしていないだろうか?攻略本は英語では「チートブック」と呼ばれる。つまり攻略本を読みながらゲームをするのは立派な「チート」なのだ[2]

これは「RPGとはどんなゲームか?」という根源的な問いにもかかわってくる。RPGとは、村人の話の内容を聞いて魔法のアイテムのありかを考えたり、強い武器を求めて荒野をさまよったり、強い敵を探して洞窟に入ったりするゲームだ。そうした「考える」「探す」という行為をしないで攻略本に書いてある解答をなぞるのは、いわばクロスワードパズルの解答を見ながらマスを埋めていくような行為だ。これはクロスワードパズルに対するインチキ行為だろう?そして「チート」とは「インチキ行為」という意味なのだ。

と、ここまで書いてちょっと語調が荒いと自分でも思った。データ改造のような違法行為と攻略本を一緒くたにするのはちょっと可哀想だ。というわけで、これからは「攻略本に書いてある情報を使ってゲームをすること」は「ネタバレ」と呼ぶことにしよう。

とにかく、なぜ一部の人が「ネタバレ」を忌み嫌うのかはわかってもらえたと思う。それがインチキ行為だからだ。「ボスは○○して△△すると簡単に倒せるよ」とか「○○という武器には実は隠れた効力があって……」いうような発言はインチキ行為だ。いや、厳密に言えばそれを聞くのがインチキ行為だ。そしてそれはロビーや冒険中に他のプレイヤーから強制的に聞かされてしまう。これらの内容はいわば推理小説を読み始めている人に真犯人を言うような行為なのだ。

ただしこれについてはMORPGならではの複雑な事情がある。だから「ネタバレは悪いことだ」とは言わない。ここでの結論は「ネタバレは本来ならやってはならないことだ」というにとどめる。

発言の雰囲気

これまでで、「ゲームに関係ない発言」と「ネタバレ発言」はすべきでないと言った。そしてこの二つを除外すればすべての発言は潜在的にキャラクタープレイである。例えば「誰か一緒に冒険しよう」とか「助けて! 死にそうだ!」とか「大丈夫?回復魔法をかけてあげようか?」とか「真正面の敵は俺が倒すから横の敵を頼む」といった発言である。このくらいなら誰でもする当たり前の発言ではなかろうか?[3]

ここまでで言いたかったのは、キャラクタープレイというのは「何を言うのか」の問題ではないということだ。ゲームの中でキャラクターを動かすのはすべてキャラクタープレイだ。つまりゲームに関することであってしかも本来知らないはずのネタバレ発言でなければ、何を言ってもそれはキャラクターの発言なのである。そして、キャラクタープレイなんて特に意識しなくても、普通の人はゲームをする時にあまりキャラクタープレイから外れた発言なんてしないのだ。

キャラクタープレイというのは「何を発言するか」ではなく「どう発言するか」に関わる問題である。要するにこういうことだ。「僕が補助魔法をかけるから、後の人は戦闘に専念していいよ」と発言する時、女性キャラなら「私が補助魔法をかけるから、後の人は戦闘に専念していいわよ」と、ごつい男性キャラなら「俺が補助魔法をかけるから、後の人は戦闘に専念してくれ」と、やさ男なら「僕が補助魔法をかけるから、あなたがたは戦闘に専念してください」と発言するということだ。

そしてなぜこんな事をするかというと、それは雰囲気を出すためだ。回復魔法をかける時を考えてみてほしい。回復魔法のコマンドを入れると即座に味方のHPの数値がパッと上がるより、キャラクターがもぞもぞと身振り手振りで呪文を唱えるとキラララーンと音がする方が雰囲気が出るのではないか?呪文の場合はソフトが勝手にこうした雰囲気を出してくれるが、会話には残念ながらそれはない。だから代わりにプレイヤーがちょっと気を使おうというわけだ。

RPGで「雰囲気」というのは重要な要素である。グラフィックも音楽もそれを崩さないように努力して構築されるし、村人の会話の文体にも気をつかう。しかしMORPGではプレイヤーの会話だけはゲームメーカーのコントロールがきかない。そしてそのために雰囲気がぶち壊しになってしまうことだってある。例えばドラクエで村の中にぽつりと超高層ビルが建っていたらどうだろう?

要するにキャラクタープレイというのは、「ゲーム中の村の中に建てる家を自由にデザインできるMORPGがもしあったとしても、そこがファンタジー世界だったら自分だけ高層ビルを建てるのはやめようよ。雰囲気を大事にしようよ。」という精神のことだ。

キャラクタープレイは必要だ

まとめてみよう。キャラクタープレイはゲーム内世界の雰囲気を大事にするために必要だ。雰囲気のないRPGは味気ない。ゲーム内世界の雰囲気をぶち壊さないように振舞いに気をつける、というのがキャラクタープレイだ。MORPGはゲームの中に他のプレイヤーが入ってくる。そして他のプレイヤーの行動次第でそのゲームの雰囲気は良くも悪くもなる。この事は少しMORPGをやった事のある人は身にしみてわかっているだろう。

ゲームをやるためにする発言はすべて潜在的にキャラクタープレイだ。キャラクタープレイでない発言、例えば「ゲームに関係ない発言」や「ネタバレ発言」は本来ならすべきでない。だから本当の事を言えば皆意識せずにキャラクタープレイをやっているのだ。単に意識しないキャラクタープレイのおかげで雰囲気をぶち壊しにしているだけなのだ。「何を言ってるんだ?ここはゲーム内の作りものの世界だよ。そんなものに雰囲気やリアリティーなんてあるなんて思っているのか?」と醒めた意見を言ってほしくない。雰囲気がないなら自分たちで作ろう、と言っているのだ。

「キャラクタープレイ」を嫌っている人にはここでお願いをしておきたい。キャラクタープレイは「本来のRPG」を遊びたいと思っている人が、その雰囲気を大事にしてその世界をより面白いものにしようとがんばってやっている事なのだ。本当は「ぜひやってほしい」と言いたいところだがそこまでは言わない。しかし少なくとも嫌わないでほしい。彼らこそがRPGを一番真面目にプレイしているし、そのゲームの雰囲気を良くしたいと一番真剣に考えているのだから。


  1. あなたがこう思うことは否定しない。それはなぜかはこの文書を読んでいけばわかるだろう。ポイントは「喜んでいる」という言葉だ。

  2. 最近はゲームが複雑化したこともあって取扱説明書の解説のような攻略本もあるが。

  3. 実際のMORPGでは当たり前ではないのだが、これの真偽と是非については後で述べることにする。